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VOL.277『病気克服の希望、エクソソーム』 [健康]

◆DNAは生命の設計図
 DNAは生命の設計図と呼ばれますが、中には多数の遺伝子が書き込まれており、細胞の分化は遺伝子のスイッチのオン・オフによって起こります。例えば、遺伝子Aがオンになると細胞Aになります。細胞は常に遺伝子と共に行動しているので、遺伝子の状態が変化すると細胞の動き方も変わり、新たな行動を起こすことができます。分裂後の未分化な細胞は外から刺激を受けて遺伝子Aがオンになり、細胞Aがメッセージ物質を放出します。メッセージ物質Aを受け取った隣の細胞では遺伝子Bがオンとなり、細胞Bとなります。こうして次々と周囲の細胞が働き始め、遺伝子のオン・オフに従って細胞は行動するようになります。
 単純な作業の積み重ねによって複雑なことができるようになるのはコンピュータのプログラムに似ています。それゆえ、DNAは生命の設計図と呼ばれるのです。生命は細胞とDNAの関係によって生じたネットワークを形成します。ネットワークが発生の過程で奇跡のように順序良く正しく働くことでカラダは作られていきます。途中で生じるズレはネットワークを引き戻す力によって解消され、また先に進みます。

◆エクソソームの情報伝達能力
 種々の病気の治療に役立つよう、ヒト遺伝子の厖大なプログラムは徐々に読み解かれており、その研究は着実に進んでいます。人類が遥か昔から進化してきた過程が遺伝子の中には記載されています。それが今日、急速に解明されてきており、そこで最も期待されていることが健康長寿です。
 細胞同士は互いにホルモンやサイトカイン、神経伝達物質などを使って情報交換をしています。情報伝達の別の手段としてエクソソームがあります。エクソソームはメッセージ物質が詰まったカプセルのようなもので、細胞よりも遥かに小さく、ほとんどの細胞が放出します。そのため血液中には100兆個以上のエクソソームが流れていると言われます。エクソソームの外膜は細胞膜と同じ成分でできているので、他の細胞へタンパク質の鍵を使って入り込みます。エクソソーム中にはマイクロRNAと呼ばれる多数のメッセージ物質が入っています。マイクロRNAは種類の違いや組み合わせによって全く違ったメッセージになります。エクソソームとマイクロRNAは多様な情報伝達を行える点で他のメッセージ物質と大きく異なる特徴があります。
 エクソソームはガンと深い関わりがあることから研究が急速に進んでいます。ガン細胞は正常細胞よりも多量にエクソソームを放出します。例えば、乳ガンが出すエクソソームは脳の血管に作用し、血液脳関門を破壊します。そのせいで乳ガンは脳に転移するのです。他のガン細胞も転移しやすくするために事前にエクソソームを出して転移する場所の環境を整えます。ガンが増殖するには大量の酸素と栄養も必要になるため、エクソソームを放出して周囲に毛細血管を新生させ、新たな供給ルートを作ることもできます。正常な細胞同士がエクソソームを情報伝達に使っている仕組みをガン細胞が悪用して転移しやすくしているのです。そこでエクソソーム中に含まれるマイクロRNAを分析することでガン細胞を95%以上の確率で特定する方法が開発されました。ガン細胞がエクソソームを利用するのを逆手にとって治療する方法の開発が進んでいるのです。これは健康の原因を探る研究でもあります。

◆体内のゴミだと思われていたのに実は…
 健康とは、完璧な状態を言うのではなく、どこかが壊れていてもそれを補う丈夫な部分が壊れていない状態を言います。壊れた部分が増えると病気になります。壊れた部分を悪化させずに保つことが健康長寿につながります。健康で過ごせる期間を延ばすことで病気で苦しむ時間を減らすことができます。
 最近までエクソソームは体内のゴミとされていましたが、細胞間の情報伝達手段であると分かった上に、それが人体の神秘の巨大ネットワークを作っていることまで明らかになってきました。これを解明することで種々の病気を克服し、健康寿命をもたらしてくれるという研究が進められています。

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