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VOL.283『低濃度の化学物質が疾患を引き起こす』 [体]

◆アレルギー性疾患
 体内には、神経系・内分泌系・免疫系の高次機能による恒常性の維持があり、神経細胞からは神経伝達物質、内分泌系ではホルモン、免疫細胞からはサイトカインが分泌されて生体の恒常性が維持されています。これらが分泌異常を起こすと安定状態が失われ、さまざまな症状が起こります。例えば、神経伝達物質のドーパミンが不足するとパーキンソン病を発症し、甲状腺ホルモンが過剰に分泌されればバセドウ病、サイトカインの過剰分泌では自己免疫疾患が起きます。これらはごく低用量の化学物質によって恒常性の維持が撹乱されて起こります。
 中でも最大の疾患がアレルギーです。アレルギー性疾患は増加傾向で、先進国や大都市を中心に増えています。かつて乳幼児に発症したアトピー性皮膚炎は大人になれば完治しましたが、今では治らないまま大人になり、アレルギー性鼻炎や気管支喘息を誘発しています。アレルギーは一度発症すると完治することはなく、肉体的にも精神的にも苦痛な上に経済的にも負担となります。この20年間で急増しているアレルギー性疾患には、遺伝要因と環境要因があります。
 化学物質とアレルギーの関係を調べるためにダニアレルギーを接種したマウスにプラスチック製品に含まれるフタル酸ジエチルヘキシルを投与したところ、アトピー性皮膚炎が増加しました。シックハウス症候群の症例ではホルムアルデヒドによって皮膚粘膜症状の悪化や頭痛、倦怠感の症状が出る報告があります。

◆免疫異常
 通常、カラダは病原体などの異物が侵入しても、T細胞の細胞性免疫やB細胞の液性免疫が異物を排除します。ところが、何らかの原因によって免疫系に異常をきたすと、カラダには害を与えない物質に対しても有害な物質として過剰に反応し、自分自身(自己)を攻撃してしまい、それをきっかけに常に反応するようになってしまいます。これがアレルギー反応です。本来カラダを守るはずの免疫機能によって、くしゃみや蕁麻疹、結膜炎、喘息などの症状が起こります。重篤な場合にはアナフィラキシーショックを起こし、死に至る場合もあります。一度免疫系が撹乱すると、体内の炎症反応は連鎖的に拡大し、症状は沈静化しません。
 このような状態に対し、カラダには免疫の暴走を制御するさまざまな仕組みが存在します。ヒトは恒常性を維持するために体温や血圧、血糖値など体内の環境を常に正常範囲内で一定に保とうとします。特に腸管は最大の免疫臓器で、免疫細胞の60%が存在しています。しかし、腸管粘膜は口や肛門を通して外界に通じていますので、皮膚と同様に病原体や化学物質に常にさらされています。そこで細胞間の接着が何らかの原因で緩んでしまうと、アレルギー物質の通過や侵入を許してしまいます。その結果、粘膜内に存在する免疫細胞が活性化されてアレルギーを誘発します。環境汚染物質がタンパク質と反応することでアレルギー反応が起きるのです。免疫細胞はT細胞から分泌されるサイトカインの量の多さで免疫反応が活性化するかどうかを判断します。

◆化学物質を減らす努力を
 低濃度のダイオキシン類(化学物質)の作用による肝臓の解毒酵素シトクロームP450の活性化と細胞バリア機能の破壊の関連性を調べた結果、細胞バリア機能の破壊が見られました。低濃度の環境汚染物質によって恒常性が撹乱され、健康が害されます。特に、胎児や乳幼児への影響が大きいため、日本では食品中のダイオキシン類を2009年までに30%減少、2010年からは母乳中のダイオキシン類の減少を推進しています。しかし、発展途上国では高濃度汚染が続いています。
 健康維持のためには低濃度化学物質や環境中の多種多様な化学物質の相互作用による免疫機能への影響を考慮する必要があります。食品中の動物性タンパク質や脂肪の中にも低濃度汚染が進んでいるのが現状です。化学物質が人体に与えるリスクについて常日頃から情報に関心を持ち、自分に必要なことは何か考え、減らす努力をしましょう。

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