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VOL.287『夜の睡眠が免疫力を上げる』 [眠り]

◆睡眠の重要性
 睡眠とはどれほど重要なのでしょうか。近年、夜間の睡眠が予想以上に心身の健康に良い影響を及ぼすことが分かってきました。睡眠に対する欲求は食欲や喉の渇きなどと同様で生理的なものです。そして睡眠の目的は、免疫機能の働きから適切なホルモンバランス、精神の健康、学習や記憶、脳からの有害物質の排除など、様々な生理的過程を最適な状態に機能修復させることです。
 人間は睡眠なしでは生きられません。かつて睡眠は、皮膚の表面から血液が後退し、胃で温かい蒸気が溜まることによって誘発されると考えられていました。20世紀末になると睡眠と脳波の活動、呼吸パターン、血中ホルモンなどの分子量の日内変動を調べる試みが進みました。その結果、心身が適切に機能するには夜間に十分な睡眠をとることが無条件に必要であることが分かりました。しかし現代人はギリシャ神話の夢の神、モルペウスの鎮静の手に自らを委ねる時間がどんどん少なくなっています。

◆睡眠不足と病気
 1989年には、睡眠が不可欠であることを示す明確な証拠がエバーソンによって発表されました。根拠として睡眠を完全に奪われたラットが1ヶ月以内に死んだからだとしています。ラットの直接の死因は解明されていません。ストレスの増加や過度のエネルギー消費、体内の温度調節機構や免疫機能の失調なども死因ではありませんでした。
 通常、一晩徹夜して睡眠時間が不足しただけでもホルモン作用や感染症に対する防御機構が損なわれることが知られています。肝炎ウイルスの予防接種に対するカラダの反応を調べた研究では睡眠時間が短いと免疫力が急激に低下することが分かっています。2003年の研究では大学生にA型肝炎ワクチンを注射し、半数はその日の夜に通常通り睡眠をとらせ、残りの半数には一晩中起きているように指示しました。4週間後、大学生から血液のサンプルを採取して、ワクチンに含まれているウイルスに反応した免疫が作り出される抗体量を測定した結果、睡眠をとった大学生の方が睡眠をとらなかった大学生よりも97%以上も高値の抗体濃度を示しました。また、成人に標準的なB型肝炎ワクチンを6ヶ月間に3回接種した実験(3回繰り返すことで免疫力が高まる)で夜の睡眠時間も記録した結果、1回目のワクチン接種から1週間の平均睡眠時間と2回目のワクチン接種後の抗体濃度を比較したところ、睡眠時間が1時間増えると抗体濃度が56%増加しました。そして、最後のワクチン接種から6ヶ月後、最初のワクチン接種後1週間の平均睡眠時間が5時間以下だったヒトは血中の抗体量が極めて少なかったことも分かり、その後にB型肝炎ウイルスに感染した場合に再感染する可能性や保護されない確率が7倍以上と高い結果になりました。
 睡眠不足がホルモン機能を低下させるという研究では、若い健常人に睡眠時間を4時間に制限して5日間続けると、血液中のブドウ糖量が40%減少しました。別の研究では同じく睡眠時間を4時間に制限し、2日続けた結果、血中の食欲促進ホルモンであるグレリンが30%増加し、食欲抑制ホルモンのレプチンが20%減少しました。つまり、睡眠時間の減少が体重増加につながるというのです。6〜9歳の小児では睡眠時間が6時間以下で生活していると肥満になる確率が50%上昇し、2型糖尿病発症のリスクが高まります。

◆7〜8時間は眠ろう
 睡眠時間は免疫機能やホルモン機能に多大な影響を与えます。今や、日本国内でも感染経路が分からない新型コロナウイルスの感染が広がっています。医師や看護師などの医療従事者の感染も起こっています。ワクチンも治療薬もない今、各自が積極的に予防することが必須です。その1つとして、自分の免疫力を高める必要があります。夜間に大人なら7〜8時間、子供なら10時間の十分な睡眠時間を確保することは極めて重要です。そして人が多く集まる密閉空間での集会や食事はできるだけ避けて身を守りましょう。

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