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VOL.271『ケトン体エンジンを増やして使おう』 [体]

◆人類の脳が発達した理由
 多くの生物の中で、脳が発達して進化することができたのは人類だけです。人類の脳が進化して大型化したのには糖質(炭水化物)と、脂肪酸(脂質)から合成されるケトン体が関与しており、これらの存在がなければ脳はこれほど大きく進化することはできませんでした。胎児や新生児はケトン体をエネルギーとして発達し、その取り込みスピードは成人の4〜5倍です。そのため脂質は脳の45〜50%を構成し、神経細胞膜の構成成分となります。脳でのコレステロールの合成は、脳の発育や発達に大きく影響を与えます。脳内コレステロールは主としてケトン体から供給されます。

◆ケトン体の驚くべき働き
 母乳にはケトン体を生成する短鎖脂肪酸や中鎖脂肪酸が15〜17%含まれているので、新生児の体脂肪には中鎖脂肪酸が多く含まれます。母乳には50%の脂質、10%のタンパク質が含まれ、初乳の数時間は自然免疫である免疫グロブリン(IgG)や、消化されないオリゴ糖が含まれます。オリゴ糖は腸内細菌中の善玉菌を増やして育てる働きをします。腸内細菌の生存や増殖には鉄が必要となるのですが、母乳に含まれるラクトフェリンは鉄と結合しやすいのでこの働きを助けます。また、母乳に含まれる乳糖も善玉菌を育てます。
 エネルギー源にはブドウ糖とケトン体があります。糖質を摂取しているとブドウ糖がエネルギー源となります。糖質は体内でブドウ糖に分解されATP(エネルギー)に変換されます。ブドウ糖は吸収が速く、数分で血液中に入って全身の細胞に供給されます。糖質が極端に供給されないと、カラダは肝臓に蓄えられた余分なグリコーゲン、つまり非常用のブドウ糖をエネルギーとして利用します。ところがこのグリコーゲンは3〜4時間で使い果たされてしまいます。するとカラダは筋肉を構成するタンパク質をアミノ酸に分解してブドウ糖を作り出します。これを糖新生と呼びます。糖新生によって筋肉は痩せ細ります。この時、皮下脂肪が確保されている場合は糖新生に制限がかかります。皮下脂肪などの脂肪組織はリパーゼという酵素によって脂肪酸と脂肪の構成成分であるグリセルロールに分解されます。この緊急用のエネルギー源がケトン体です。ケトン体はアセトン体とも呼ばれ、アセト酢酸、βヒドロ酪酸、アセトンの3つの物質で構成されます。
 肝臓でアセチルCoAに合成されたケトン体は、血液を介して赤血球を除く全身の細胞へと運ばれ、ミトコンドリア内でTCAサイクルに入り、再びアセチルCoAに変換され生命活動に必要なエネルギーを作ります。これがケトン体エンジンです。飽食時代の現代人はほとんどがブドウ糖依存型で、ケトン体はあくまでも緊急用のエネルギー源です。空腹時にお腹がグーグー鳴り始めたら、ケトン体が急激に働き出したことを示します。ケトン体エンジンは脂肪を使うのでブドウ糖の65倍以上のエネルギーを体内に蓄えています。例えば、遭難して断食状態の人が水だけで数10日間も生き延びたという事実は体内に蓄えられた脂肪をケトン体がエネルギー源とした結果です。
 ケトン体には細胞を修復し、正常化させる働きがあるので、ガンを誘発する酵素であるβグルクロニダーゼ活性を低下させ、炎症を抑制する抗ガン作用があります。ですから、ガン細胞はケトン体をエネルギーとして使うことはできないのです。また、活性酸素を除去する働きもあり、ストレスを軽減する働きもあります。

◆健康を維持するには
 人類は、進化の過程で飢餓状態に陥ると長寿遺伝子が活性化することで生き延びてきました。エネルギー源であるミトコンドリアの働きを活性化し、DNAの修復を進める脂肪酸から産生されるケトン体は水溶性で、脳の血液関門(BBB)や細胞膜を通過できます。脳細胞にはケトン体をエネルギーとする機能が備わっています。健康を維持するにはミネラル成分豊富な水を飲むことと、食べる量を減らしてケトン体を増やし、その働きに頼ることです。

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VOL.270『暑さに負けないように良い水を摂ろう』 [体]

◆暑い季節の感染症
 夏になると暑さのせいで水や冷たいものを摂る機会が増えます。しかし、高温多湿の季節は冷蔵庫内の食品が安心であるとは言えません。病原体に汚染された食品や飲み物を口から摂りこむと、それらに付着する病原微生物やその毒素によって消化器内が損傷されて発症する病気が増えます。これを消化器感染症とか経口感染症といいます。そしてこのような感染症を一般的には食中毒といいます。日本の食中毒による死亡者は、年間を通じて1000〜2000人報告されています。高齢者の肺炎による死亡者と比べれば少ない数字ですが、これは死亡診断書からの総数なので実際はもっと多くなります。

◆さまざまな食中毒
 1960年代まで食中毒は原因不明とされていましたが、検査法が進歩した現代では原因不明の食中毒はほとんどありません。以前は食中毒といえば発生時期は暑い季節と相場が決まっていました。この傾向は細菌性の食中毒に限られており、基本的には今も変わっていません。しかし、地球温暖化や冷暖房設備の普及によって寒い季節にも発生するようになったのです。特にカキのおいしい寒冷期にはノロウイルス食中毒が数多く発生することもあり、年間を通して食中毒の発生報告は平均化されてきています。
 サルモネラ菌やカンピロバクターによる食中毒の増加は、食生活の欧米化による肉類やタマゴ類の摂取量が増えたことが原因と考えられます。タマゴによる食中毒はサルモネラ菌の仲間であるエンテリティディス菌によるものが多くを占めています。ニワトリの腸内に生息しているサルモネラ菌が糞便を介して、タマゴの殻の小さなヒビを通りタマゴ内部に入って汚染するのです。サルモネラ菌は低温では増殖しないので予防のためには長期間室温で放置しないことです。早めに調理することが大事ですが、80℃以下で10分間の加熱で殺菌できます。サルモネラ食中毒は下痢、腹痛、嘔吐に発熱を伴います。
 カンピロバクターによる食中毒は5月から10月にかけて多発し、急激に感染が広がるのが特徴です。症状は嘔吐、腹痛、下痢で発熱はしません。重症例は少ないですが、1000人中に1人の割合で難治性の自己免疫疾患であるギランバレー症候群を発症します。カンピロバクター食中毒を起こした後に抗体が形成され、末梢神経にある糖脂質と結合して神経伝達を阻害します。その結果、歩行困難となる難病です。大部分のカンピロバクター食中毒は生や生焼けの鶏肉を食べることが原因で発症します。ニワトリの羽を除去する時、ぬるま湯に漬け、羽をむしりやすくして処理します。この状態を専門家は仲間同士でドブ漬けと呼びます。名前の由来はニワトリの糞便で汚染されたぬるま湯がドブ色になることです。カンピロバクターは健康なニワトリの腸内に多量に存在するので、ドブ漬けの間に鶏肉の表面が汚染されるのです。近年は地鶏の生肉を刺身として提供する飲食店が増えていますが、生の鶏肉や生レバーは食べない方が安全です。また、鶏肉を処理した包丁やまな板で生野菜を調理するのも避けましょう。

◆水分摂取は必須です
 人間の皮膚には1兆個以上の細菌が生息しています。代表的な表皮ブドウ球菌は弱酸を産生して皮膚の表面を弱酸性に保ち、外部からの病原体の侵入を阻止しています。また、腸内には100兆個もの腸内細菌が生息しています。そのため人間は共生する細菌やウイルス、カビなどとの複合生物であるともいえます。ヒトのカラダはこのような微生物によって守られているのです。ですから、抗菌薬の乱用や消毒薬などの過度の使用は避け、それらの共生微生物と協調して生きていかなければなりません。
 暑いと体力は急激に低下し、体表面の微生物も減少するため、外部からの病原体の侵入が増すのです。これが体調の悪化です。事実、疲れを感じている時に食中毒は発症します。暑い日にはできるだけたくさんの水分を摂取しましょう。まずカラダの脱水状態を防がなくてはなりません。ヒトは体表面から汗をかいて体温を調節します。汗をかくことは体内の水分が奪われるとともに体表面に生息する微生物も減少するので病原体が侵入しやすくなります。それを防ぐのが弱アルカリ性の水の摂取です。良い水をたっぷり飲んでミネラルを補給し、夏を元気に乗り切りましょう。

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VOL.269『便秘に自己流の対策をしていませんか?』 [生活]

◆便秘は実は高齢者に多い
 日本人の食生活は欧米化が進み、肉類の摂取が増えた結果、便秘になる人が増えました。何日に1度しか出ない、思い切り力んでみても出るのは少しで残便感が残る、硬くて黒い便しか出ないなどの悩みを持つ人は多いことでしょう。また、なんとか便を出そうと強く力むのは心臓発作や脳梗塞・くも膜下出血などを起こしかねないので危険です。
 便秘はダイエットする若い女性に多いとされますが、実は最も多いのは70歳以上の高齢者なのです。高齢者は便秘を防ぐために下剤を飲みがちで、下剤のせいでトイレの不安から引きこもりがちになります。外出しないで自宅にいる生活を続けていると、筋力が衰えてしまい転倒して寝たきりになる危険性が増します。つまり、便秘は寝たきりになる可能性のある病気なのです。薬局やコンビニで下剤を買って自己流の間違った治療を続けていると、大腸の蠕動運動の低下につながり、むしろ便秘は重症化してしまいます。一方、病院で処方される便秘薬は通常、酸化マグネシウムやセンナ系薬です。酸化マグネシウムには血中のマグネシウムが増える高マグネシウム血症という副作用があります。センナ系薬は習慣性や依存性・薬剤耐性のある一種の麻薬です。

◆江戸時代に便秘がなかった訳
 江戸時代には便秘の人がいませんでした。その理由は民衆の食事といえば一汁三菜で、味噌汁と野菜・豆類・海藻類・魚類などのおかずにご飯は玄米を1日に5合ほど食べていたそうです。そして玄米が足りない時にはアワやヒエなどの雑穀に大根やサツマイモなどの野菜を入れて混ぜ合わせて食べていました。玄米100gに含まれる食物繊維を3gとすると、5合(780g)の玄米には23gの食物繊維が含まれます。現在、厚生労働省が定める食物繊維の所要量は1日20gですから江戸時代の人は玄米だけで所要量を満たしていたことになります。それにアワやヒエ、大根やサツマイモなどを含めるとかなりの量の食物繊維を摂取していたことになります。だからこそ、江戸時代には便秘になる人がいなかったのでしょう。現代人の食物繊維摂取量は1日平均15gほどで、1日に1〜2gしか摂らないような人は便秘になって当たり前なのです。
 アメリカの調査によると戦前の日本人は1日平均400gほどの排便量があり、食物繊維摂取量は現在の3倍ほどでした。食生活の変化に伴い食物繊維摂取量が減少し、便秘が急増しました。便秘増加の原因は食事だけに限りません。江戸時代の人々はどこに行くにも歩いていたのですから運動量も激減しています。江戸時代後期の浮世絵師である葛飾北斎は88歳まで生きました。当時としては大変な長寿です。その葛飾北斎が83歳以降に江戸と信州の小布施を4度も往復しているのです。その距離240kmを5泊6日で歩いたそうです。80歳を超えた老人が1日平均40km歩いた計算になります。今日、240kmを5泊6日で歩ける高齢者がいるでしょうか?江戸時代の人々は食事から食物繊維を摂り、体を動かしていたおかげで便秘とは無縁だったのです。

◆健康的な便秘対策
 現代人は医療の進歩により長生きになりました。それでも健康的に過ごすための便秘対策には食物繊維を多く摂って、体を動かすことです。そうすれば軽度の便秘なら改善され、便秘薬が必要なくなります。すると次第に排便量も増えます。排便量が増えることは大腸の蠕動運動が活発になったことを意味します。便の中には栄養素が消化吸収された後に残った食物繊維や小腸や大腸の粘膜が剥がれ落ちた上皮細胞の残骸、水分が含まれます。消化に使われる胆汁の分泌量も減少するので大腸ガンの発症も抑制されます。
 食物繊維を多くすると腸内フローラのバランスも変化し、善玉菌・悪玉菌・日和見菌の割合が善玉菌中心になります。食物繊維が腸内細菌の栄養素となるからです。無理なダイエットや極端なカロリー制限をしなくても体重は徐々に減少し、一定の体重で安定し、持続するようになります。そして知らぬ間に便秘も治ります。食物繊維と運動で腸と腸内細菌を元気にしましょう。


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