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VOL.278『長寿遺伝子を働かそう』 [長寿]

◆子孫を残すためのプログラム
 人体には子孫を残すために有利に働くプログラムが数多く組み込まれています。それを動かすにはまず、健康であることが重要です。そして、生殖可能な年齢を過ぎると自然選択は原理的に働かなくなり、それ以降の長生きは保障されなくなります。つまり、若い頃には特に何も考えずに行動しても、ある程度は健康でいられるようにプログラムされていますが、加齢とともにその仕組みは崩れていくということです。しかも若いからといって、健康で長生きするために良くない行動ばかりとっていると当然障害が出ます。特に、暴飲暴食・睡眠不足・無理な体力使用などが生殖年齢を超えたときの急激な体力低下を誘引します。

◆長寿遺伝子『サーチュイン遺伝子』
 人間の本体は長生きするようにはできていません。イギリスの生物学者リチャード・ドーキンスは『利己的な遺伝子』という言葉を提唱しました。生物は遺伝子の乗り物に過ぎず、生殖が終わってしまえば遺伝子にとって個体は必要なくなるということです。サケなどは産卵を終えると死んでしまいます。それが生命の本質であるというのです。
 ところが、人間にはサーチュイン遺伝子という長寿遺伝子が見つかっています。すべての人がこの遺伝子を持っていますが、必ず長生きできるというものではありません。この遺伝子がオンになっている人が長生きで、オフのままの人は長生きできないのです。
 この長寿遺伝子のオン・オフは生活習慣や毎日の行動の結果で入れ替わり、その個体の生き方を見極めて長寿にするかどうかを決めています。最近の研究で究極の長寿の秘訣が分かってきました。それは子孫の繁栄に資する行動をとることです。子孫の生存に役に立っている個体は結果的に自分の遺伝子を多く残せます。そうすることで長寿遺伝子がオンになり、進化の過程で有利に働きます。子孫といっても自分の子供や孫の意味ではなく、社会に貢献することや若い世代の役に立つことで次世代に役立つ行動をしていると長寿になるようにプログラムされます。
 これは遺伝子の仕組みから導き出された当然の結論で、よく動き回り、子供や孫の世話をよく見ると長寿遺伝子が活性化し、スイッチがオンになります。しかし、よく動き回って働いても、食べ物や利益を独り占めにする強欲者は次世代の役に立たないので、自己中心的や自分勝手で常に自分のことしか考えない人の長寿遺伝子はオンにはなりません。人に分け与える優しさを持ち、心穏やかに生活していると長寿遺伝子がオンになるのです。

◆思いやる心でスイッチオン
 人類は飢餓の時代を経験したため、次世代の食べ物を奪ってしまうと急速に淘汰されることを遺伝子が記憶しています。それゆえ、次世代の繁栄に資する場合にのみオンになる長寿遺伝子が有利に働いたことで、人間は他の動物より非常に長生きになりました。長寿につながる仕組みが最も発達した、高度な知性と複雑な感情を持つ人類は次世代に対して目に見えない貢献をするだけではありません。人間は自分も老い、いつか死ぬことを認識して生きています。生殖年齢を超えてから生きることは人の役に立つことです。若い頃から人のために役立つことを考えて生きる人は早く長寿遺伝子がオンになります。生命の本質は長寿遺伝子をオンにして他人の役に立ち、次世代に影響を与えることです。これは人類の進化の過程で組み込まれた遺伝子が人間を高度な生き物に作り上げた結果です。
 同時に24時間の日内サイクルも次世代へと受け継がれました。人は毎日規則正しい生活習慣で、カラダを動かし、自分と同じ性質を持つ人と集団生活をすることで子孫が増え、遺伝子を外部から入れることで高度な人間として進化しました。また、自然の動きに合わせ、規則性を生活習慣に加えることで新しい文化へと発展させました。その結果、長寿遺伝子はさらに働き、活性化され、人はさらに長生きになりました。今日、日本は世界屈指の長寿国です。長寿遺伝子であるサーチュイン遺伝子が規則正しい生活習慣や運動習慣、他人を思いやる心でオンになっています。これも日本人の美徳であると言えるでしょう。

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VOL.277『病気克服の希望、エクソソーム』 [健康]

◆DNAは生命の設計図
 DNAは生命の設計図と呼ばれますが、中には多数の遺伝子が書き込まれており、細胞の分化は遺伝子のスイッチのオン・オフによって起こります。例えば、遺伝子Aがオンになると細胞Aになります。細胞は常に遺伝子と共に行動しているので、遺伝子の状態が変化すると細胞の動き方も変わり、新たな行動を起こすことができます。分裂後の未分化な細胞は外から刺激を受けて遺伝子Aがオンになり、細胞Aがメッセージ物質を放出します。メッセージ物質Aを受け取った隣の細胞では遺伝子Bがオンとなり、細胞Bとなります。こうして次々と周囲の細胞が働き始め、遺伝子のオン・オフに従って細胞は行動するようになります。
 単純な作業の積み重ねによって複雑なことができるようになるのはコンピュータのプログラムに似ています。それゆえ、DNAは生命の設計図と呼ばれるのです。生命は細胞とDNAの関係によって生じたネットワークを形成します。ネットワークが発生の過程で奇跡のように順序良く正しく働くことでカラダは作られていきます。途中で生じるズレはネットワークを引き戻す力によって解消され、また先に進みます。

◆エクソソームの情報伝達能力
 種々の病気の治療に役立つよう、ヒト遺伝子の厖大なプログラムは徐々に読み解かれており、その研究は着実に進んでいます。人類が遥か昔から進化してきた過程が遺伝子の中には記載されています。それが今日、急速に解明されてきており、そこで最も期待されていることが健康長寿です。
 細胞同士は互いにホルモンやサイトカイン、神経伝達物質などを使って情報交換をしています。情報伝達の別の手段としてエクソソームがあります。エクソソームはメッセージ物質が詰まったカプセルのようなもので、細胞よりも遥かに小さく、ほとんどの細胞が放出します。そのため血液中には100兆個以上のエクソソームが流れていると言われます。エクソソームの外膜は細胞膜と同じ成分でできているので、他の細胞へタンパク質の鍵を使って入り込みます。エクソソーム中にはマイクロRNAと呼ばれる多数のメッセージ物質が入っています。マイクロRNAは種類の違いや組み合わせによって全く違ったメッセージになります。エクソソームとマイクロRNAは多様な情報伝達を行える点で他のメッセージ物質と大きく異なる特徴があります。
 エクソソームはガンと深い関わりがあることから研究が急速に進んでいます。ガン細胞は正常細胞よりも多量にエクソソームを放出します。例えば、乳ガンが出すエクソソームは脳の血管に作用し、血液脳関門を破壊します。そのせいで乳ガンは脳に転移するのです。他のガン細胞も転移しやすくするために事前にエクソソームを出して転移する場所の環境を整えます。ガンが増殖するには大量の酸素と栄養も必要になるため、エクソソームを放出して周囲に毛細血管を新生させ、新たな供給ルートを作ることもできます。正常な細胞同士がエクソソームを情報伝達に使っている仕組みをガン細胞が悪用して転移しやすくしているのです。そこでエクソソーム中に含まれるマイクロRNAを分析することでガン細胞を95%以上の確率で特定する方法が開発されました。ガン細胞がエクソソームを利用するのを逆手にとって治療する方法の開発が進んでいるのです。これは健康の原因を探る研究でもあります。

◆体内のゴミだと思われていたのに実は…
 健康とは、完璧な状態を言うのではなく、どこかが壊れていてもそれを補う丈夫な部分が壊れていない状態を言います。壊れた部分が増えると病気になります。壊れた部分を悪化させずに保つことが健康長寿につながります。健康で過ごせる期間を延ばすことで病気で苦しむ時間を減らすことができます。
 最近までエクソソームは体内のゴミとされていましたが、細胞間の情報伝達手段であると分かった上に、それが人体の神秘の巨大ネットワークを作っていることまで明らかになってきました。これを解明することで種々の病気を克服し、健康寿命をもたらしてくれるという研究が進められています。

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