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VOL.301『ゲノム解析で遺伝子の働き方が解ってきた』 [生命]

◆若返りホルモン、マイオカイン
 古くから適度な運動習慣やエクササイズは健康に良いとされてきましたが、運動による筋肉刺激で筋細胞から分泌されるマイオカインが大腸ガンの抑制に作用していることが分かり、その科学的根拠が解明されました。マイオカインは若返りホルモンと呼ばれ、主に太ももやふくらはぎなど下半身の筋肉から分泌されるホルモンです。筋肉運動によってマイオカインは血液中で増加し、大腸粘膜の病変部に直接作用したり、新陳代謝を高めることによって大腸ガンの発症を抑制しています。
 身体を動かすことに関して、古来からインドのヒンズー教でのスクワットやヨガがよく知られていましたが、世界的にもヨガを行うことで血糖値が低下するという論文が多数あります。そしてその効果にマイオカインが関与しているのです。

◆ゲノム医療
 日本には昔から未病という病気があります。なんとなくだるいとか、食欲がない、どうも元気が出ないけれど病院に行って血液検査をしてもどこにも異常が見当たらない…このような状態を未病と呼びます。血液には問題ないが、遺伝子的には異常が生じているということが最近の研究で初めて解ったのです。
 日本未病システム学会の報告によれば、一般的な人間ドックの検査では全て正常範囲内で貧血もなく、肝機能や腎機能も正常だった男性が、倦怠感や食欲低下を訴えて来院したため8000種類の遺伝子を検査したところ、23.1%の遺伝子に変化が見られました。遺伝子レベルでは20%以上が異常を示したことになります。この男性は血液の治療とステロイド薬の投与によって1週間後に体調が回復して元気になりました。今後、未病は遺伝子検査によって病気の早期発見が可能となります。
 日本の遺伝子解析のレベルは世界トップクラスで、東北大学には世界から注目されているToMMo(東北メディカル・メガバンク機構)という施設があります。ToMMoには15万人以上の臨床データとゲノム情報が存在し、バイオバンクとしては世界一と言われています。全ゲノム解読ができる最新解析装置が10台以上あり、スーパーコンピューターが数10台並んでいます。一般的なパソコンのHDDの100万倍以上のデータ容量を持つスーパーコンピューターが数10台あるということです。現在、全ゲノム(30億塩基対)の解析に3100人が成功しており、この情報量は世界一です。このシステムで15万人の日本人の遺伝子を解析し、遺伝情報や体質を計測しています。イギリスのバイオバンクでは遺伝子を中心に情報を集めていますが、日本ではそれに加えてタンパク質や臨床情報、臨床検体などの情報が含まれています。
 ゲノム医療とは、DNAに含まれる遺伝情報を調べて、効率的・効果的にガンや病気の診断・治療・予防を行う医療です。上記の解析装置は一度に100種類以上の遺伝子変異を調べられるので変異がある箇所は分かるのですが、特定できる最適な抗ガン剤は20%ほどだそうです。とはいえ、この装置が未病医療の早期発見の突破口となったことは間違いありません。

◆SOS遺伝子
 未病とともに腎機能に障害を持つ人も増えています。腎臓は血液中の老廃物をろ過し、尿として排泄します。腎機能が低下すると老廃物が体内に溜まって尿毒症を起こし、腎不全へと進みます。そうなると腎臓の働きを人工的に行わなければなりません。2015年の人工透析者は32万人以上となり2兆円産業となりました。2013年、透析関連遺伝子の余命遺伝子が見つかりました。この遺伝子は慢性炎症などのSOS遺伝子と呼ばれます。免疫細胞の中には活性酸素を消去するSOD2というタンパク質があります。SOS遺伝子とSOD2タンパク質のゲノム解析が進めば寿命が延びる可能性が出てきます。未病を早期に発見するゲノム解析装置による新しい医療の開発が進んでいます。健康寿命が伸びそうですね。

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VOL.282『ゲノムハッキングについて』 [生命]

◆ゲノムハッキング
 ゲノムハッキングはバイオハッキングとも呼ばれます。ハッキングとはコンピューターやインターネットなどITの分野でよく見られる行為で、良いケースもあれば悪いケースもあり、大抵は悪いケースで用いられる言葉です。誰かがインターネットを経由して他人のコンピューターなどIT端末を自由自在に操作し、それを楽しみで使うとか、そこから情報や金銭を盗み得ようとする行為がハッキングです。それを様々な植物や生物の遺伝情報で行うのがゲノムハッキングです。

◆手軽にしたクリスパーキャス9
 最近、このゲノムハッキングがアメリカを中心にトレンドになりつつあります。その背景にはゲノム編集のクリスパーキャス9の先端バイオ技術があります。オーディンと呼ばれるウェブサイトではクリスパーキャス9のゲノム編集技術を使い、ガイドRNAやヌクレアーゼなど各種の化学物質を含んだ試液で操作を行う実験をしています。クリスパーキャス9は誰もが簡単に利用できる技術で、手軽に利用できる環境も整備されてきたため、生物(細菌・バクテリア)を取り扱うシャーレやピペットなどの実験器具をキット化して150〜200ドルほどで販売し、それを使うことで高校生でも科学の実験が可能となっています。
 その中には人体実験も含まれる危険性があります。2017年、ジョサイア・ゼイナー氏は自身の体にクリスパー試液を注射し、筋肉量を増やす実験の様子をユーチューブで生配信しました。彼はシカゴ大学で生物物理学の博士号を取得した後、NASAでの勤務経験がある生物学者です。アメリカFDAは絶対に真似をしないように警告を発しました。しかし、ハッカーらはこの警告を無視し、その後もキットを購入してゲノム編集の実験を続けています。ゼイナー氏は筋肉量の増強はできませんでしたが、副作用もなく健康を害することもありませんでした。しかし、他に人体実験を行ったバイオハッカーの中には異常な免疫反応を起こし病気になった人もいます。ドイツでは、一般人が細菌などの微生物を操作することを法律で禁止しています。ところがウェブサイトから購入した遺伝子操作キットを使って禁止行為を行う人が後を絶たないそうです。ゲノム編集が簡単にできることから、現在、バイオ製薬業界はITと同様な局面に突入しています。遺伝子治療薬が安くコピーされて出回る日も近いとみられ、その危険性は計り知れません。
 2019年、日本で遺伝子治療薬が3300万円の値をつけて話題になりました。その後、遺伝子治療薬は次々に発売され、1〜2億円もする薬も発売されています。2024年には60種類以上も発売される見込みです。これに合わせてコピー薬の闇市場での取引も増加することでしょう。果たしてコピー薬で患者のガンが治るのか?害を与える可能性はないのか?アメリカやドイツ、日本などでは早急にゲノムハッキングを規制する必要があります。

◆知らず知らずのうちに
 人体の治療薬として多くの問題があるゲノム編集技術ですが、食品においては品種改良で食の分野が大きく変化します。2020年には多くのゲノム編集食品が発売されます。表示の義務がなく、従来の野菜や肉、魚と全く見分けがつかないため、私たちは知らず知らずのうちにそのような食品を買って食べることになります。環境省や厚生労働省もゲノム編集食品の規制はしない決定をしました。アメリカ各地の大学や研究所では食品のゲノム編集による品種改良が盛んに行われており、すでにゲノム編集食品が商品化され売られています。例えば、変色しないマッシュルーム、アレルギーを起こさない食品、食物繊維の含有量が増した小麦や野菜、干ばつに強いトウモロコシ、トランス脂肪酸を発生しない大豆、除草剤への耐性を備えた葉物野菜など、多種多様な農作物が売られています。肉量の多い牛や豚、魚の商品化も進んでいますが、強い毒性や副作用の報告はありません。日本でもゲノム編集技術の研究は活発に進められています。特に、マグロやサンマ、イワシ、サバ、イカなどの大衆魚の漁獲量は最近大幅に減少しており、原因として海水温の上昇や周辺国による漁獲量の増加があります。今後を考えると、その対策の一環としてゲノム編集技術を使った品種改良の研究は不可避なのかもしれません。遺伝子治療役、ゲノム編集医療、ゲノム編集が施された食物、選ぶのは私たち自身の問題であると言えるでしょう。

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VOL.266『医療分野におけるゲノム編集』 [生命]

◆ゲノム編集とは
「ゲノム編集の技術を使って人間の医療研究は神の領域にまで足を踏み入れてしまった。」特殊な酵素を使って一部の遺伝子を壊す(切断)、あるいはその切断した部分に別の遺伝子を挿入し、生命の設計図である遺伝情報を自由に書き換えることができるのがゲノム編集です。2012年にクリスパー・キャス9という画期的な手法が開発され、簡単に効率よく遺伝子の改変ができるようになりました。これは高校生や大学生でも知識があれば容易に使える技術で、3ヶ月ほどの練習で習得できます。

◆倫理的懸念
 まさか科学者が神の領域を侵すはずがないと、この分野の研究者は思っていたのです。ところが、2018年11月に中国南方科学大学がゲノム編集の技術を受精卵に使い、エイズウイルスに抵抗力を持つ健康な双子の女児を誕生させたのです。安全性が確立されていない状況で生まれた双子が今後どのような健康被害を発症するか、誰にも分かりません。
 受精卵にゲノム編集を行うと、簡単に自然界に存在するはずのない人間を作成することができます。いわゆるデザイナー・ベビーで、人類の明るい未来のための革新的な技術が悪用される可能性が極めて高いことを示しています。アメリカの研究者はすでにヒトの受精卵を改変し、遺伝性の心臓病を引き起こす遺伝子の変異を修復する実験に成功しました。さらに特定の酵素が作れないために発症する難病、ムコ多糖症の臨床試験を実施し、その患者の体内で遺伝子を修復するDNA手術を実施しています。
 内閣官房によれば、アメリカの遺伝子治療に関する臨床試験や研究の承認件数は2018年1月の時点で1600件を超えています。日本は60件ほどなので、27倍の多さです。イギリスのナフィールド生命倫理評議会は2018年ゲノム編集について格差や差別を助長しない限り人類の幸福のために用いられるべきであると報告書をまとめました。ところが、中国でのゲノム編集技術によるベビー誕生の報告によって研究開発に急ブレーキがかかってしまったのです。
 WHO(世界保健機関)は2019年3月にゲノム編集に関する科学、倫理、社会、法的な問題を検討するため専門委員会の初会議を開き、ゲノム編集の医療分野での技術は国際的に批判を受けました。この技術への関心の高まりを受けて現時点での医療応用は無責任であると非難したのです。

◆日本におけるゲノム編集
 日本での医療分野におけるゲノム編集は血友病や筋ジストロフィー症など難病治療に向けた研究に留まり、慎重な姿勢を取っています。日本における医療分野でのゲノム編集の遅れを取り戻すために国はゲノム医療を推進する法案の提出を目指す意向を表明しました。この法案にはゲノム編集を含むことを明記しましたが、中国でゲノム編集のベビーが引き起こした懸念から生命倫理への適切な配慮が盛り込まれました。遺伝性のガン疾患や遺伝子疾患など、ほとんどの病気がゲノムに関与します。そのため、今後はゲノム編集が医療の中心になると考えられています。そして、このゲノム医療推進法案の審議が進まない限り日本の医療が先進国の中で非常な遅れを取ることは間違いありません。
 ヒトでの受精卵を使い操作する基本研究は日本でも2019年4月から解禁されました。生物の遺伝子を狙った通りに効率よく改変できるゲノム編集は厚生労働省や文部科学省が研究に関する倫理指針を了承しました。しかし、ゲノム編集した受精卵を胎内に戻すことや医療への応用は禁止されています。受精卵が発達する仕組みについては不明な点が多く残っており、胎児になるまでのメカニズムを研究することで不妊治療や生殖補助医療に役立つことも多いと考えられます。ゲノム編集に使う研究材料は不妊治療を行った提供者の余った受精卵を使用するので提供者の同意が必要です。受精卵が自由に使えない日本では研究においても遅れが出ます。研究機関が倫理審査委員会を設けて国の審査とすることです。その研究成果を公開するという透明性も必要となります。世界中でゲノム編集の医療分野が急激に進歩しています。日本もそのスピードに乗り遅れないようにすべきだと考えます。

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VOL.260『フェロモンについて』 [生命]

◆匂いとは
 異性を惹きつけるフェロモンの研究が進んでいます。生物は他の個体、特に異性に対しては匂いが大きく関与します。初期の人類において人と人がコミュニケーションをとる時、最初の手がかりは視覚と嗅覚でした。それに対し、生物の性的なコミュニケーションは嗅覚で、その優位性は圧倒的です。人間はまず視覚や聴覚といった感覚を頼り、最後に匂いで正確に突き止めます。

◆フェロモン研究の歴史
 1939年、ドイツ人のブーテナントは蚕を繭から50万匹羽化させ、性誘導物質の抽出に成功し、ノーベル化学賞の受賞が決まっていましたが、この年開戦した第2次世界大戦のせいで辞退しました。(戦後改めて受賞)1955年、内分泌学者のカールソンは体内で移動して効果を発揮するホルモンの存在を発表し、これをフェロモンと命名しました。
 異性を惹きつけるフェロモンは性フェロモンと呼ばれ、生物はそれ以外にも種々のフェロモンを駆使して生きています。例えば、アリは仲間に餌の在りかを知らせる道路標識フェロモンや、外敵がいて危険が迫っていることを知らせる警報フェロモンを持っています。テントウムシは成虫で越冬するので、秋から冬にかけて石や倒木の中など寒さをしのぐ安全な越冬場所を知らせ合う集合フェロモンを持っています。
 女子大生のマクリントックは、長い時間を一緒に過ごす女性たちが同じタイミングで月経になる傾向があることを1971年にNature誌に発表し、この現象はマクリントック効果、あるいはドミトリー効果と呼ばれるようになりました。しかし、この時点では原因と
なるフェロモンが不明だったため公的な学説とは認められませんでした。
 1998年、マクリントックはシカゴ大学の教授となり、月経の同期化現象について29人の女性を募り、そのうち9人に排卵前後の数時間、脇の下にパッドを貼り、他の女性がパッドの匂いを嗅ぐことで月経周期の同期化が起こることが確認されたとNature誌及び、一般紙のタイムスに論文を発表しました。マクリントックは脇の下の匂いに含まれるフェロモンには2種類あり、一つは卵胞期のフェロモンα、もう一つは排卵後のフェロモンβで、この二つのフェロモンによって月経の周期化現象がもたらせるとしました。
 生物には視覚・嗅覚・味覚などの外界センサーがあります。視覚はロドプシンというタンパク質を網膜細胞膜面の受容体が感知して外界の映像を映し出します。嗅覚にも匂いに対応する細胞膜受容体が多数あり、このセンサーはヤコブソン器官と呼ばれ、遺伝子によりタンパク質分泌としての役割を果たします。ヤコブソン器官はフェロモンの受容体で細胞レベルで存在し、神経が伸びて機能します。鼻は別の皮膚細胞が特別な匂いを感じます。
 バーライナーとモランは、ヤコブソン器官とフェロモンの研究からヒト・フェロモンの候補物質を発見しました。皮膚の抽出物から同定されたPDDというステロイドホルモンに似た物質です。PDDは自律神経や内分泌系に影響を与えるようで、成人のヤコブソン器官に吹き付けると、心拍数の上昇や血液中のストレスホルモンの低下が見受けられました。また、PDDはアメリカと日本で特許が取得され、人工的に合成されて香水に添加され、商品化されています。

◆フェロモン利用の未来
 ヒト・フェロモンにはネズミのフェロモンに似たフェロモン受容体が存在し、ゾウやシカの尿中にはオスの性行動を刺激するフェロモンが存在します。一般的に哺乳動物にはフェロモンが存在し、性行動を助長します。もし、会話の中で「あの人はいつもすごいフェロモンを出している」と言ったら、どのように感じますか?異性を惹きつけるほどのホルモン、フェロモン物質の存在に関してはまだ明確な物質が立証されていませんが、近い将来、そのようなフェロモンを含んだ物質が香水として登場する時代が必ず来るでしょう。
 男性も女性も各自のフェロモンを吹き付けて異性に対して魅力をアピールできる時代がやってきそうですね。日本の化粧品のレベルは世界最高峰ですので期待されます。

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VOL.222『命の基本、カルシウム』 [生命]

◆カルシウムという元素
 カルシウムは地球上で5番目に多く存在する物質です。例えば、砂浜で星の砂をつくるプランクトンやサンゴの硬い殻は炭酸カルシウムからできています。
 脊椎動物の骨や歯を形成する必須微量金属元素の一つがカルシウムです。カルシウムは生体の中でも生命維持に極めて重要な役割を果たしています。地球誕生以来、生命体の祖先は多細胞化した生物が特定の細胞に一定の役割を与え、それらを結合・統合することで高等動物へと進化させました。この細胞同士を結合させる役割を果たしたのがカルシウムなどの微量金属元素です。

◆体内の情報伝達の中心
 本来、カルシウムは細胞にとって猛毒だったので、細胞内にカルシウムが侵入すると、有害な活性酸素が発生、増加し、細胞内のエネルギー源であるATPの反応に影響を与えて細胞を死に導いてしまいます。そこで、カラダは正常細胞内のカルシウム濃度を極めて低く抑えました。一方、細胞外液のカルシウムは細胞内に対して1万倍の濃度にしたのです。このように細胞の内と外で極端な濃度差を持つ物質はカルシウムしかありません。この濃度差をカラダは、細胞を自ら自殺させるアポトーシスと呼ばれる機能の引き金として利用しています。アポトーシスとは、細胞内遺伝子プログラムに書き込まれている細胞の自己死のことです。これは新しい細胞に置き換えるために古くなった細胞を消滅させる役割を持っており、常に新しい組織を維持する働きをします。また、正常細胞がガン細胞に変異した際には、その細胞にアポトーシスを起こさせガン細胞の増殖を抑えます。さらに、ウイルスに感染した細胞にもアポトーシスを起こさせウイルスの増殖を抑えます。このように、カルシウムイオンは細胞内に流入して細胞内濃度を高めることで、細胞を機能不全にしてアポトーシスを起こさせるのです。つまり、カルシウムは不要になった細胞が自殺するスイッチを入れているのです。
 また、すべての細胞はカルシウムによる電気信号によって細胞間の情報交換が可能となります。例えば、筋肉はカルシウムがないと収縮しません。筋肉細胞内にカルシウムが入ってきて結合することによって筋肉は収縮するのです。かつて生命体は海から生まれました。ですからカルシウム・カリウム・ナトリウムなど体内の多くの微量金属原子の組成は海水によく似ています。生物は原子の環境を維持した細胞に守られて、カルシウムやナトリウムなどを細胞間に放出し、一方では安定した電位を使用することで細胞内の情報伝達を発達させました。

◆生命に直結している栄養素
 海から陸に上がった生物には、海水の成分を固めたカルシウムの塊(骨)と、海水成分を運搬する血液が必要でした。カルシウムが豊富な海で生きる魚には副甲状腺がありません。副甲状腺はカルシウムが不足した時にカルシウムを補う内分泌腺で、カルシウム濃度の変化を感知するサンサーです。カルシウムが体内で不足している時に副甲状腺ホルモンが分泌されます。この内分泌液がカルシウムの働きをコントロールしているのです。上陸した両生類には副甲状腺があるため、生物は脂質という水を通さない油の膜に包まれた細胞や骨・血液・副甲状腺・腎臓などを持つことで陸に上がり進化することができたのです。
 このように、カルシウムは生命と直結している栄養素です。陸上では生物は常にカルシム不足の状態です。カルシウムの吸収を助けるのが副甲状腺と腎臓です。摂取するカルシウムは吸収性に優れた炭酸カルシウムでイオン化した状態のものが良いでしょう。太古の昔、生命体として海の中で生活していた頃の遺伝子は、人類へと進化した現在も細胞内に存在しており、その状態のままなのです。

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VOL.221『身近に迫る外来有毒生物』 [生命]

◆ヒアリ、日本に侵入
 今年5月、極めて強い毒を持ち、殺人アリとも呼ばれる南米原産のヒアリが、日本で初めて発見されました。6月以降、兵庫、愛知、大阪でも発見され、7月には東京の大井埠頭で確認されており、侵入拡大が懸念されています。国内に定着している有毒な外来生物は数多くあり、環境省では今回のヒアリに対しても警戒を強めています。

◆ヒアリとは
 ヒアリ(火蟻)は、刺された時に火がついたような痛みを感じることに由来して名付けられました。体調は2.5〜6mmで赤茶色の攻撃性が極めて強いアリです。巣であるアリ塚を壊すと、一度に数100匹が襲ってきて衣類の隙間に入り込み、腹部先端にある毒針で刺します。毒の主成分は細胞を破壊するアルカロイド系の有機化合物で、傷口周辺が腫れてニキビ様の膿が出て、痛みは2週間ほど続きます。同時にアレルギー反応を起こすハチ毒に似たタンパク質を含んでいるので、急激なアレルギー症状が出て、重篤なアナフィラキシーショックを起こすと死亡する恐れもあるといいます。
 ヒアリは通常、植物を食べていますが、昆虫の幼虫やミミズ・カエルなどの小動物を見つけると集団で襲って捕食します。毒は狩りに利用するための生存に必要な武器なのです。環境省では、ヒアリを見つけたら絶対に触らず直ちに出先機関に連絡するよう求めています。刺されてしまったら、20〜30分ほど安静にして、もし重症化して症状が現れたら、直ちに病院で治療するように呼びかけています。
 ヒアリは、1942年頃までは原産地である南米中部でしか見られていませんでしたが、国立環境研究所によれば現在、日本を含む環太平洋の15カ国で発見されています。当初は北米やカリブ海諸国が中心でしたが、21世紀に入り5年間でマレーシア・オーストラリア・台湾・ニュージーランド・中国などで一気に拡大しました。その背景には中南米の急速な開発があり、経済発展が続く中国や東南アジアに向けて多くの農産物や資源を輸出するようになったため、それらに紛れたヒアリが貨物船などで各地に運ばれ拡大しました。
 ヒアリの繁殖力が強いことが生息地の拡大に拍車をかけています。通常、アリは一つの群れに女王アリが1匹なのですが、ヒアリの場合は数10匹いて、1日に数1000個の卵を産むため、拡大するスピードが極めて速いわけです。また、アリ塚は深さが10m以上にも及び駆除することが極めて困難です。

◆ヒアリだけではない、怖い外来生物
 ヒアリ以外にも、駆除から逃れて日本に定着してしまった有毒外来生物がいます。ヒアリと同じ種類の毒を持つアカカミアリはアメリカ軍の輸送物資に紛れ込み、すでに沖縄県や小笠原諸島の硫黄島に定着しています。6月には神戸港で見つかり、本州への上陸も確認されました。また、温暖なオーストラリアが原産で1995年に侵入したセアカゴケグモは沖縄から北海道まで40以上の都道府県に拡大しています。2012年以降には、中国原産で強毒のソマアカスズメバチが九州に定着しています。ヒアリも例外ではありません。他にも致死性の毒を持つキョウトウサソリや死亡例の報告もあるジョウゴグモの仲間も拡大しています。ヒアリの仲間でもあるコカミアリの侵入も懸念されており、環境省は港湾での水際対策を強化しています。しかしながら、外来生物の国内侵入は、海外との貿易が続く限りつきまとう問題です。外国からの渡航者も含め、日本に入って来るのを避けることは極めて困難です。早く見つけて駆除する以外に定着を防ぐ対策がないのが現状です。
 ヒアリに刺されたら、傷口周辺に痛みやかゆみ、腫れや発疹が全身に広がり、呼吸困難や血圧低下、意識障害となります。最悪ではアナフィラキシーショックで死に至ります。
 ヒアリを見つけたら速やかに関係機関に連絡し、もし刺されたらすぐに病院に行きましょう。ヒアリが日本に定着しないよう祈るばかりです。

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VOL.207『遺伝子のスイッチを良い方向に変えよう』 [生命]

◆遺伝子という設計図
 ヒトは60兆個の細胞(最近では37〜40兆個と言われています)によって成り立ち、その細胞ひとつひとつに生命があります。器官や臓器は300種類以上の異なる細胞からできており、それぞれの細胞が助け合って臓器を動かし、臓器同士も助け合いながらカラダを生かしています。
 その働きの中心になるのが遺伝子です。遺伝子は細胞の核に存在し、遺伝情報という設計図で各細胞を働かせます。遺伝子は自分のコピーを作り、自分の生存を最優先にし、自分の子孫を残すことを優先します。つまり、遺伝子は基本的に利己的なのです。また、遺伝子には細胞自体が自殺するプログラムも初めから組み込まれています。例えば、傷ついた細胞は自ら死んでいく、これをアポトーシスといい、生を継続するための利己的なシステムです。

◆ヒトは1億分の1のエリート
 ヒトは、まず精子と卵子が受精して受精卵となり、子宮内で胎児は発育し、出産後は成長して成人になります。受精する際には1億個以上の精子が先を争って1つの卵子を目指します。そのうちいちばん早く卵子に到達した精子だけが、卵子の膜を破って入ることができます。その瞬間に卵子の膜は変化し、他の精子は入れなくなります。つまり、誕生したヒトは1億分の1のエリートなのです。
 その後、母体の胎内で38週間を経て、20〜30億個の細胞数で生まれます。最初の段階は魚に似た形から両生類、爬虫類を経て哺乳類の特徴が出てきて人間へと進化します。その情報の源が遺伝子で、その遺伝情報が書き込まれたDNAはそれぞれの細胞核内の染色体に収納されています。染色体には22種類の常染色体と男女の性を決定する性染色体があります。これをヒトゲノムといいます。
 遺伝子にはタンパク質をつくる暗号(設計図)が書かれています。この暗号によって器官や臓器になるタンパク質が絶妙なタイミングでつくられるので、DNAは生命の設計図と呼ばれます。

◆笑いというポジティブな心が遺伝子を変える
 遺伝子には、永遠に同じ活動を続けるものもあれば、それまで眠っていたのに何らかの刺激で目覚めて働き出すものもあります。逆に活動していた遺伝子が休眠したりもします。つまり、遺伝子の働きは固定されたものではなく、条件次第で働き方を変える余裕があるということです。例えば、健康になるための遺伝子や才能を伸ばす遺伝子が眠っていれば、それらのスイッチをオンにして、起きて働いている病気を引き起こす遺伝子や、狂暴性を発揮する遺伝子などのスイッチをオフにすることができれば、人生は大きく変わります。
 では、どのようにしてスイッチは切り替えられるのでしょう。1つは、熱・圧力・張力・訓練・運動などの物理的要因です。2つ目は食物と科学的要因(アルコール・タバコ、環境ホルモン:ダイオキシン・発ガン物質など)、3つ目はストレスやショックなどの精神的要因です。具体的には、喜び・愛情・感動・感謝・祈り・笑いなどのポジティブな心は良い方向に遺伝子のスイッチを刺激し、悲しみ・苦しみ・恐怖・不安・恨み・意地悪などのネガティブな心は悪い方向に遺伝子のスイッチを入れるという研究が進んでいます。
 笑いというポジティブな心が糖尿病や高血圧、ガンの発症を抑制するという研究結果があります。これは思いの強さや心の持ち方が遺伝子を良い方向に変えることを示しています。人生を楽しむには健康であることが一番です。良い方向に遺伝子のスイッチを変えて活性化し、人生を楽しみましょう。

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VOL.201『ゲノム編集という超最新技術』 [生命]

◆ゲノム編集とは
 近年、遺伝子(ゲノム)の解析が進んでおり、遺伝子を操作する遺伝子工学や生命科学の分野では過去に類を見ない驚異的な技術革新が起きようとしています。
 例えば、自分の顔や身長・体型・性格・知能・運動能力・体質などが不満な人はたくさんいます。これらの一部を自分の思い通りに変えることができたら、別の自分に生まれ変わることができたらと誰もが思います。また、自分は無理でも生まれてくる子供には、誰より逞しく・賢く・美しく・健康体で良い人生を送って欲しいと望む親もたくさんいます。それを実現するのがゲノム編集という超先端技術です。この技術で医師や研究者、科学者は狙った遺伝子をピンポイントで修正する可能性が出てきました。自然界には存在しない神の技術と言われる人類創造です。そのゲノム編集の研究開発が急速に進んでいるのです。

◆ゲノム編集の可能性
 植物や動物の遺伝子を操作する遺伝子組換え技術は1970年代から始まりました。ところがこの遺伝子組換え技術は、1個の遺伝子を組換えるために1万〜100万回の実験を行い、やっと狙った通りの組換えができるという精度の低さや、膨大な費用・期間を要することが問題でした。これに対し、ゲノム編集では狙った遺伝子を構成する塩基をピンポイントで削除し、書き換えることができます。つまり、遺伝子の設計図であるDNAを自由自在に置き換えることができるのです。
 最新鋭のゲノム編集技術(クリスパー)は、高校生でも数週間で使えるようになると言われるほど簡単で取り扱いやすい技術で、従来の遺伝子組換えに要していた時間やコストも劇的に短縮されました。クリスパー技術では動物や植物のDNAも操作することができるので肉量を大量に増やす家畜や魚、あるいは腐りにくい野菜などを作ること、難病患者の治療に役立つ病気を動物(サル)で発症させることもできます。
 クリスパー技術の基礎研究は日本や欧米など世界各国で急速に進んでおり、近い将来には難病患者の治療に適用されます。特に、遺伝子の変異による遺伝病は、特定の遺伝子が明確な場合には治療しやすい状態になっています。クリスパーによるゲノム編集は、遺伝子治療やiPS細胞、細胞移植治療などとの組合せも適用できます。京都大学iPS細胞研究所では、世界の医療機関と共同で筋ジストロフィーやエイズなどの難病患者を遺伝子レベルで根治させるゲノム編集の治療法の研究を進めており、一部はすでに臨床試験に入っています。この技術は各種のガン・糖尿病・アルツハイマー病などの病気の治療にも応用できます。これには世界的ハイテクIT企業が様々な病院や研究機関と連携し、医療ビッグデータを先端AIでパターン解析して複雑な病気の原因遺伝子や発症メカニズムを解明しつつあります。

◆不安と希望
 しかし、医療への応用は危うい側面と表裏一体にあることも事実です。この技術を使うことで人類の改良が起きるかもしれないからです。例えば、骨を強化して骨折予防したり、心臓病にならない体質にするなど特定遺伝子を選択し、クリスパー技術を使って改良することで人類を強化することが可能だからです。お肌の老化を防いで若返ることもできます。さらに、生まれてくる赤ちゃんを受精卵の段階でゲノム編集すれば、高い知識や強靭な肉体、美貌を兼ね備えたデザイナー・ベビーを親の意図的感情で作り出すこともできます。これは技術的には可能でも倫理的には許されません。そこで、2015年12月の国際会議でヒト受精卵のゲノム編集は基礎研究に限定し、臨床研究は禁止することが採択されました。
 今、人類は神の領域に足を踏み入れようとしています。この技術が地球上に存在する生命体や生態系に与える影響は計り知れません。その中で、中国が倫理的に反して低レベルではありますがヒトでの臨床試験の実施を報告し、世界的に強い非難を浴びています。技術の進歩は歓迎すべきですが、人類に正しく役立つように使用されることを願うばかりです。

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VOL.186『脳の発達は胎生期から始まっている』 [生命]

◆妊娠検査の進歩
 最近は妊娠検査の際に、3Dや4D機能付きの胎児超音波検査によって胎児の顔や全身の姿を確認することができるようになっています。3D胎児超音波検査は胎児の姿を立体的に映し出し、4Dでは胎児の動く様子や心臓の動きまで撮影できます。これによって胎内の赤ちゃんの表情を感じとることができ、胎児に異常があれば見つけることもできます。
 妊娠検診では、腹部に機器を当てて手元のモニターを確認しながら、胎児の心臓や脳の構造、胎盤の位置などに異常がないか確認します。機器には画像を肌色にする機能があり、立ち会った家族も胎児の姿をリアルに感じられます。
 胎児超音波検査は妊娠初期には妊娠週数や胎児の染色体異常の確率などが解り、妊娠中期では胎児の形態異常の有無や、羊水量などを確認できます。
 かつては画像が不鮮明だったために誤診もありましたが、今では心臓内部の細かい構造まで確認できるほど分析精度が上がり、見分けられる異常の種類が増したため、産後の治療計画も立てやすくなってメリットは極めて大きいと言えます。検査によって異常が発見されれば、その結果を受け止める覚悟や正しい知識を前もって持つことができるので、妊婦の心配も少し緩和されます。

◆超音波検査には不安も
 超音波検査は1970年代から普及し始め、1990年代には全国に広がり、妊娠検診への公費負担の拡充なども背景となって一気に拡大しました。しかし、超音波検査が胎児の脳に与える影響など不明な点も多いことから、欧米では2〜3回程度が一般的で、必要最低限に止めることが推奨されています。妊娠後期は胎児の脳の神経細胞が急激に増加する時期で、無理に脳の超音波検査をする必要がありません。胎児は体内で順調に発育し、無事に完成すればその後は胎動で感じることができ、愛着も深まります。日本では高齢出産が増加する傾向にあり、それに伴って胎児の心臓などに異常が増す確率が高まっています。超音波検査は早く知ることで対応できるメリットもありますが、胎児の脳に障害を起こす可能性もあります。

◆男児は単純で自尊心が強い
 男児の子育てにおいて、すぐに乱暴したり、理由もなく暴れたり、走り回ったりするようになる3歳頃からの行動パターンが読めず、理解できない母親が多いそうです。少子化によって、男の兄弟がいなかったり、安全重視で過保護に育ったことが影響しているのか、母親には男性である息子が同性である娘に比べて遠い存在で、理解できないのです。一方、父親は同性なので男児の行動に悩むことはあまりありません。男児が母親を困らせるのは、好きな女の子の関心を引きたくて意地悪するのに似ていると父親の方は判断しています。男児は女児に比べて言葉の発達がゆっくりで、言葉よりも行動が先に出てしまうため、うまく気持ちを伝えられないもどかしさから手が出るなど、理解し難い行動をとるようです。そこで、母親が叱ると、男児は人前で怒られることを恥と感じるため、ますます話を聞かなくなります。男児は単純で自尊心が強いので、母親は優しく接すると良いようです。
 男児は胎生16〜20週目に精巣から大量のアンドロゲン(男性ホルモン)が分泌されます。これが男性脳を作って、運動機能が発達し、行動力が高まります。アンドロゲンシャワーの量が多いほど運動能力が高くなります。妊娠後期の脳の発達は、将来の人間形成に最も重要です。男と女は発生学的にも子供、いや胎児の時からすでに異なっているのです。


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VOL.184『人類の進化が生んだ21世紀型慢性疾患』 [生命]

◆類人猿からヒトへ
 日本人は農耕民族で、西洋人は狩猟民族であるとよく耳にします。そのため日本人には脂肪分の多い食生活は向かないといいますが、果たしてそうでしょうか。
 近年、地質学調査で発掘された遺跡からはクルミなどの木の実や動物・魚の骨が多く見つかっています。人類学上、ゴリラやチンパンジーなどの類人猿とヒトの系統が分かれたのは2400万年前で、人類は誕生からある時期までほとんどが狩猟や漁猟、採取を中心に生きてきました。農耕が始まったのはずいぶん後の話なのです。

◆狩猟から農耕へ
 遺伝子解析の進歩により、ミトコンドリアDNAという新しい解析手法を使うことでヒトの拡散の歴史が明らかになってきました。ヒトは約700万年前に類人猿の祖先と分かれ、約20万年前にアフリカで誕生しました。5〜8万年前には150〜2000人の集団がアフリカを出て北上し、世界中に拡散して、現在の人類に進化したといいます。
 ヒトはまず狩猟採取集団として出発し、自然界で手に入る食料を調達していました。この頃、大陸はまだ地続きだったので、大型の哺乳類を追って人類は世界各地に広がっていきました。ヒトの大きな大脳は脂肪やタンパク質を必要としました。そこで太く大きな親指を駆使し、石器を作って骨を砕き内臓を取り出すことで、栄養に富んだ肉食獣の食べ残しを主食として生き続けました。その後、大型の哺乳類を集団で仕留める知恵やチーム力を獲得し、火を手に入れて大きく進化しました。道具を作り、火を使ったり集団で暮らすことで罠を仕掛け、強い肉食獣と戦いました。
 組織的な農耕は1万年前にシリア北部やヨルダン川の付近で始まったといわれており、世界的に広がって定着したのは4000年前とされています。やがて人類は狩猟から農耕へと移行し、人口も50〜60倍と急激に増加しました。農耕が定着し、小麦や米のデンプン(糖質)を摂取するようになると、ヒトの血糖値は狩猟時代の2倍以上に上昇しました。

◆日本人の進化
 では、日本人はどこから来て何を食べていたのでしょう。アフリカを出た集団は日本列島にもやって来て縄文人となりました。その1万年後には水田稲作の技術を持った渡来人(弥生人)がやって来て稲作技術が伝わりました。弥生人のルーツは、ミトコンドリアDNAの解析から中央アジアのバイカル湖付近に住む人であったことが明らかになっています。
 5500年前の縄文時代前期の遺跡からは、どんぐりやクルミなど木の実の種子類、魚骨やウロコの魚骨層、淡水産の貝殻層が確認されました。その堆積状況から、秋に採取した森の食べ物を秋から冬にかけて食べ、春には淡水湖で魚や貝を、夏にはマグロやカツオ・ブリ・サワラなどの海水魚を獲って食べており、季節に応じた食生活をしていたことが分かります。それでも環境は過酷でエネルギー消費も多く、ほとんどは飢餓との戦いの日々でした。
 江戸時代中期には白米の食習慣が定着し、精米技術も向上しました。その結果が血糖値の急激な上昇を招きます。人類は進化に要した時間の大部分を狩猟によるタンパク質や脂肪、食物繊維の摂取で生き続け、その遺伝的仕組みをDNAに組み込みました。ところが農耕によって、血糖値の上昇、インスリン分泌の増加が起こり、大量の甘味の摂取が糖尿病という21世紀型の慢性疾患の増加を助長しました。糖尿病による死亡率の高い県では、農耕が盛んで、静かな田園地帯で美味しい米を作り、たくさん食べています。
 人類の進化が新しい病気も作ってしまったのです。タンパク質や食物繊維、そしてカルシウムをはじめとするミネラル成分を十分に摂取しましょう。白米よりもミネラル豊富な玄米を食べることをお勧めします。

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