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VOL.306『感染症を予防する粘膜の免疫』 [健康]

◆免疫を知る
 2020年、冬になり、新型コロナウイルスの感染は第3波を迎えたと言われています。感染症のウイルスから身を守る仕組みが免疫です。身体はウイルスや細菌などの外敵を侵入させないように防御し、万が一ウイルスが侵入した際にはそれを攻撃して排除しており、これが免疫です。咳やくしゃみ、会話などでウイルスが口や鼻、目などの粘膜に付着します。それを攻撃して防御するのが粘膜の免疫です。粘膜はウイルス感染を防ぐ最前線なのです。粘膜の免疫力を活性化するのが栄養素です。
 古来から感染症には多くの人命が奪われ、その繰り返しの日々でしたが、1度感染して生き残った人は2度とその感染症にはかからないことが経験的に判りました。これが免疫ができたということで、種々の病原体に対する免疫を獲得し、私たちは生き延びてきました。

◆免疫を担う細胞たち
 まず、病原体の免疫に働くのが粘膜で、そこに常駐しているのが白血球です。白血球には好中球やマクロファージ・樹状細胞・NK細胞などの免疫細胞があります。初めて侵入した病原体を発見するのが好中球・マクロファージ・NK細胞で、これらの細胞の隊長が樹状細胞です。樹状細胞は免疫を担当する細胞に外敵の情報を伝えて攻撃の仕方を支持します。B細胞には侵入者の抗原情報を伝え、その抗体を作らせます。ウイルスの持つ抗原と抗体が結合(抗原抗体反応)することでウイルスが持つ毒性を無毒化します。身体の最初の関門が粘膜なので、ここで外敵を排除できれば病気にはなりません。すなわち粘膜の免疫力を高めることが大切だということです。
 細菌による感染症に効く薬が拮抗薬(抗生物質)です。この薬は細菌の増殖を抑制するのが目的です。ところが風邪の元となるRSウイルスやコロナウイルスには効果がありません。ウイルスに対抗するのは抗ウイルス薬やワクチンです。抗ウイルス薬にはウイルスに直接作用する薬と免疫機能を調整する薬があります。ウイルスには細胞膜がなく、ヒト細胞に寄生するのでウイルスだけを攻撃するのは困難です。ワクチンにはウイルスの病原性を弱めた弱毒化ワクチンやウイルスの毒性を無毒化したワクチンがあります。それらを接種するとウイルスに対する抗体が作られ、ウイルスに感染しても発症や重症化の予防ができます。

◆ネバネバ食品を摂ろう
 新型コロナウイルスに対する抗ウイルス薬やワクチンは開発段階であり、すぐに効果が現れるかは未知数です。ならば、免疫力を高めることが重要で、免疫力を高めるには栄養素を摂取することが重要となります。粘膜の防御力を高め、粘膜の再生を促す栄養素にはビタミンD・ビタミンA・亜鉛・カルシウム・マグネシウムなどがあります。それらの栄養素で抗菌タンパク質や抗ウイルスタンパク質を作らせ、免疫を担当する細胞を活性化させます。特に亜鉛は免疫細胞数を増やし、それを体内の各所に配置します。粘膜には粘液があり、粘液には特有のネバネバ成分があります。そのネバネバはムチンタンパク質で、粘膜の胚細胞から分泌されて病原体を排除しています。ムチンにはムコ多糖類が豊富に含まれ、抗菌や抗ウイルスタンパク質のIgA抗体を分泌し粘膜を保護します。粘膜の粘液ネバネバ成分が多ければウイルスが粘膜から排除され、抗ウイルスタンパク質やIgA抗体によって不活化(死滅)します。ムチンを多く含む食材には、うなぎ・納豆・山芋・オクラ・ナメコなどがあり、ムチンが水分を保持しています。
 昔から日本では風邪の予防には大根やニラ・玉ねぎが良いとされてきました。また、青魚を焼き、骨まで焼いてカルシウムを摂ってきました。昔の人々の経験からの知恵です。ムチンの産生は加齢とともに衰えていくため、高齢になると粘膜の粘液量が減少してウイルスに感染しやすくなります。寒さとともに乾燥も進み、ウイルスの活動も活発になります。常に水分を補給し、乾燥に対応しましょう。カルシウムイオン水を飲んで粘膜の免疫力を高めることも大切です。

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VOL.291『明治政府が行った感染症対策』 [健康]

◆漢方医学から西洋医学へ
 1868年、明治政府は西洋を手本とする近代化政策に着手し、医学においても西洋医学を取り入れました。まず薬学が最も進んでいたドイツに重点を置き、1871年にはドイツ人の教授を迎え、ドイツ語だけを用いる西洋医学の教育を開始しました。これにより、医師は西洋医学をドイツ語で書くことが習慣となったのです。
 1875年には医師国家試験が始まり、その3年後にはほとんどの府県で医学校を備えた公立病院が設置されました。この時点で正式に西洋医学を学んで国家試験に合格した医師は5200人で、無試験で漢方医を名乗る人は2万3000人もおり、圧倒的に漢方医の方が多かったのですが、1895年には漢方医は医療を行うことができなくなりました。1909年には当世医者気質としてフロックコートに赤いネクタイを締め、縞模様のズボンをはいて、八字ヒゲを立て、往診鞄を下げた医師の姿がよく見られるようになりました。往診鞄には聴診器・体温計・注射器などが入っていました。白衣を着て診察するようになったのは大正時代に入ってからのことです。

◆感染症の大流行
 明治政府が健康国家建設の指針として掲げたのが感染症(伝染病)対策と食生活の改善でした。1886年には日本人の総人口が3850万人で、94万人が感染症で亡くなりました。死因はコレラの大流行で11万人、これに天然痘・腸チフス・赤痢が加わり18万人が亡くなりました。次いで栄養不足や生後の発達障害が14万人、他に神経の病気や結核などの呼吸器疾患、伝染性の胃腸炎が続きました。明治から大正時代にかけて生まれた子供は、100人中15人ほどが1歳未満で死亡しました。
 大正時代の1918年から1920年には、スペイン風邪と呼ばれるインフルエンザウイルス肺炎が大流行し、当時の世界の人口20億人のうち6億人が感染しました。日本では全人口の40%にあたる2300万人が発症し、38万人が死亡しました。子供や高齢者だけでなく20〜30代の若者の死亡率も高かったのがスペイン風邪の特徴でした。
 1886年のコレラの大流行を受けて明治政府は、西洋諸国に習って伝染病予防、海港検疫法、汚染掃除法などを成立させました。1898年には汚染された水を使うことで感染が拡大するコレラ・赤痢・腸チフスを止めるために一部地域で通水を始め、1911年には東京市全域に上水道が完備されました。日本人は古代から清潔好きで、穢れ(けがれ)を水で洗い清めるという考え方を持っています。現在でも神社に行くとお参りをする前に手を洗って口を漱ぐのはその習わしです。このように日常生活でも清潔を常に心がけることは、江戸時代から入浴や養生法として重視されてきました。現在も新型コロナウイルスの感染症がヨーロッパ諸国やアメリカで大流行し、インドや南アメリカ、アフリカにも広がっていますが、日本で新型コロナウイルスの感染症が世界的に見て少ないのは、手を洗うという習慣が日本人の生活の中で根付いていることも理由の一つと言えるでしょう。

◆ワクチンと治療薬の開発が鍵
 明治政府は健康増進を目的にいろいろな政策をとりました。1日のカロリー摂取量を3000キロカロリーとし、これは現在もあまり変わっていません。他に肉類や脂肪を摂取して血管を強くし、抵抗力をつけて感染症を防ぎ、運動量を減らしました。これらはあまり効果がありませんでした。効果があったのは予防ワクチンや治療薬の開発、病気の検査法でした。そして有効な治療法が相次いで発見されたのです。
 感染症との闘いに勝利できるのは、ワクチンによる予防と治療薬の開発です。感染した人が回復して抗体が形成されるのを待つのでは時間がかかりすぎます。既存の治療薬の効果がある程度報告されてはいますが、完全ではなく、インフルエンザワクチンの効果も100%ではありません。また、新型コロナウイルスの遺伝子が変異すれば効果は期待できません。ワクチンや治療薬の開発以外、この感染症の収束は望めないでしょう。

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VOL.290『赤色がもたらす健康維持の極意』 [健康]

◆赤パンツのパワー
 近年、東京の巣鴨は高齢者に人気となっています。かつてはお年寄りが集まる場所ではありませんでしたが、いつの間にか『おばあちゃんの原宿』と呼ばれるようになり、元気な高齢者の若返りの街として大勢集まるようになりました。巣鴨へは都電を使って、有名なとげぬき地蔵にお参りに行くのがお決まりですが、とげぬき地蔵の近くにマルジという洋品店があります。創立は昭和27年(1952年)で当時は10坪ほどの店でした。寅さんの映画でもよく使われた洋品店で、昭和からバブルが弾け、世界が混沌として平成の時代へと変わっていっても、マルジ洋品店は変わらずに巣鴨で幸福を生む店を目指し、現在では地蔵通りに4店舗を構えています。1号店と2号店は婦人衣料品、3号店は紳士衣料店、4号店は世界初の赤パンツ専門店です。赤パンツ専門店には男女大人用、子供用などさまざまな赤パンツが店のいたるところに並べられ、その迫力に圧倒されます。特に人気なのが自分の干支が入った赤パンツで、そのパンツをはくと元気になり、幸せがもたらされるといいます。実際、赤パンツを買いに来た人に確かめてみると口々に本当であると言います。どうやら赤パンツは知られざるパワーを秘めているようです。

◆赤色の持つパワー
 赤い色が人に対してどのような影響を与えるのか、この変な疑問を医学的に検証してみました。最近は大きな経済効果をもたらすご当地キャラクターが登場し話題になっています。熊本県ではくまモンが大人気で熊本産の宣伝商品には必ずくまモンが印刷されています。このくまモンの人気の秘密は赤い色にあるといいます。くまモンの生みの親であるグッドデザインカンパニーのアートディレクターによれば、日本で人気が出るキャラクターには必ず顔に赤い丸がついているのだそうです。ピカチュウやドラえもん、アンパンマンなど有名なキャラクターにはみんな顔に赤色の丸が付いています。
 また、イギリス・ダラム大学では、オリンピックでのボクシングやレスリングなどの試合を調べて研究した結果、赤サイドの方が青サイドより10〜20%ほど勝率が高いことがわかりました。つまり、赤色のユニフォームやプロテクターを身につけると勝率が高まると言うわけです。赤色はスポーツの分野だけでなく、労力や知的作業にも強く影響を与えます。文章でも重要事項を赤色にすると、記憶に残りやすく成績の向上にもつながります。
 一方、赤い色は心理的に回避的な傾向を産み、警戒心を高めることが分かっており、極度の集中力が要求される場合には赤色が良いと言われます。アメリカのトランプ大統領は重要な場面では常に赤色のネクタイをして登場します。赤色は赤信号、警告のサインとして世界中で共通して使われています。
 イギリスのサンダーランド大学での赤色と男性ホルモンの関係についての研究では、好きな色で赤色を選んだ学生は青色を選んだ学生に比べて男性ホルモンのテストステロン値が高いという結果が出ました。赤パンツを求める巣鴨の高齢者が元気なのはテストステロンなどのホルモン分泌が増えるからではないでしょうか。パンツに限らず赤色のグッズ(下着や身につけるもの)や赤色のスポーツカー・自転車・オートバイに乗る人はテストステロンの分泌量が増えるという実験結果もあります。カナダ・コンコルディア大学の研究では50人ほどの若者に赤い新型ポルシェと青色の旧型自動車を運転させ、1時間前と後に唾液中のテストステロン値を測定した結果、赤い新型ポルシェを運転した人はテストステロン値が急上昇しました。青色の旧型自動車を運転した人のテストステロン値には変化がありませんでした。これは女性に自分をアピールするという刺激を受けた結果と言えるようです。

◆赤色を身につけて健康に
 赤い色は刺激的で、自分を元気に興奮させます。種々の研究結果をみると、血圧や脈拍、体温が上昇し、刺激を受けて興奮します。赤色を身につけることで男性も女性もホルモン分泌量が増加して元気になります。中年以降、おじさんやおばさんになると体型が変わります。そんな時に赤パンツや赤色の下着を身につけるとホルモン分泌が盛んになり、運動することでさらに筋肉量が増してきます。たまには巣鴨に出かけてみて、自分の干支の赤パンツや赤色の下着を買い、身につけてみてはいかがですか?赤色に健康維持の効果があるのか自分自身を試してみましょう。

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VOL.281『日本人は平安時代から健康意識を持っていた』 [健康]

◆梶原性全の『頓医抄』
 鎌倉時代に武家出身の僧だった梶原性全(かじわらしょうぜん)は中国大陸の医学書を参考に50巻の医学書『頓医抄(とんいしょう)』をまとめました。この医学書の特徴は多くの人々の助けとなるように和文やカタカナで書かれていることで、平安時代に書かれた『医心方』が漢字で書かれていたのとは対照的です。
 頓医抄には中国大陸で150年前に書かれた人体解剖図を参考にした詳細な人体解剖図が載っています。その目的は、病気や体の不調が目に見えない神仏や怨霊のせいではないことや、病気を知るために体の仕組みを正確に理解することでした。そして日本人のために人体解剖図を描き、病気の原因を突き止めようとしたのでした。

◆体内に住む虫
 昔、お腹には密告者が住んでいると言われていました。子供の夜泣きや癇癪を「疳の虫が起きる」と言ったり「腹の虫が治まらない」「虫の知らせ」「虫が好かない」など、体や心を虫で表現する言葉が数多くあります。古来中国大陸では、体内に「三尸(さんし)の虫」と呼ばれる3匹の虫が住んでいるという思想がありました。三尸の虫とは庚申の日、人が眠っている間に天に昇って神様にその人の悪事を告げ口する虫で、それが神様の怒りに触れると寿命が短くなると考えられていたので、虫に告げ口されないように人々は知恵を絞ったと言います。庚申の日の夜には皆で経を唱え、食事をし、遊び、おしゃべりをして眠らずに夜を明かしました。この風習が鎌倉時代に広がり、江戸時代には庚申待(こうしんまち)と呼ばれて盛んに行われました。
 体内の虫が原因とされる病気の1つに赤痢がありました。赤痢は細菌やアメーバ原虫による感染症で、中国大陸から日本に持ち込まれました。天然痘などによる疾病や大規模な飢饉の後、体力が落ちると赤痢に感染してしまったそうです。奈良時代には麻疹が流行したので続いて赤痢が発生するから気をつけるようにという命令が太政大臣から発布されたという記録があります。赤痢の主症状は下痢で、そこに血や膿が混ざり込み赤くなることから赤痢と呼ばれました。赤痢に汚染された水や食物、食器などから感染します。日本国内での患者数は1960年代まで10万人を超えていましたが、1897年に日本人の志賀潔が赤痢菌を発見し、今では抗生物質によって根治できます。
 体内の虫を退治するために古くから海藻の一種やザクロの根を煎じて飲ませたり、ヘビトンボの幼虫やアカゲザルを焼いて食べさせるなどの治療が行われましたが効果はありませんでした。明治時代に発売された虫下し薬の広告には疳の虫や夜泣きの虫の姿(想像図)が描かれていました。疳の虫は腕の生えたタツノオトシゴのような姿で、夜泣きの虫は犬とミミズが合わさったような姿でした。明治時代には奇応丸という漢方薬も使用されました。主成分は熊の胆嚢で、虫下しではなく神経の興奮を鎮め、お腹の痛みを和らげる効果がありました。奇応丸は室町時代に奈良の東大寺で太鼓の修理をした際、太鼓の中から製法が記載されたものが見つかっています。中国大陸には存在しないもので、日本で独自に開発されたと考えられています。

◆日本人の健康意識
 奈良時代にはお茶が広まりました。鎌倉幕府の歴史書『吾妻鏡』には3代将軍源実朝の二日酔いをお茶で治したという記録があります。この頃にはすでに健康の基盤として肝臓・心臓・肺・腎臓・膵臓がバランス良く働いていると良いとされ、それぞれの臓器に対応した味を持つ食べ物を摂取することが良いとされました。日本人は基本的には苦いものを食べませんでしたが、この頃から苦いお茶を飲む効果が知られるようになりました。これは陰陽五行説に基づいたもので、宇宙の発生、自然の循環、人体の仕組みなど、あらゆる現象を説明した最先端の学問でした。『病草紙』には今でいう歯周病が書かれています。病草紙によれば食事は一汁三菜に小魚を加える、獣肉を食べることで歯周病となるとのことです。平安時代の記述では寄生虫の感染による病気がほとんどで『今昔物語』には13〜14mのサナダムシが出たとの記録があります。日本人にはこの頃から健康の意識があったようです。

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VOL.279『ストレスは病気をつくる』 [健康]

◆副腎皮質ホルモン
 長寿の秘訣は健康を保って生きることです。江戸時代の医師だった貝原益軒は健康を守る上で大事なのは心を穏やかにして平常心を保つことだと言っています。つまり、ストレスを受けないで生きることです。ストレスに対する感受性には個人差があり、同じストレスを受けても全く大丈夫な人もいれば、心と身体に大きな影響が出てしまう人もいます。なぜ人によって差が出るのかについてはまだ良く分かっていません。
 ひとつ分かっているのは、ストレスがかかった時に分泌される副腎皮質ホルモンの量が増えると、免疫細胞、特にT細胞の機能を抑制する作用があるということです。事実、副腎皮質ホルモンはステロイド剤として炎症や過剰な免疫反応を抑える治療薬として使用されています。ストレスが多いと副腎皮質ホルモンが過剰に分泌され、免疫力が抑制されるので病気を発症しやすくなります。例えば風邪を引きやすくなったりするのですが、副腎皮質ホルモンが働く相手は免疫機能だけではなく全身で、特に脳神経細胞に働いて睡眠障害や精神障害などを起こします。ストレスが長く続くと、アルツハイマー病やパーキンソン病の発症が促進されるという報告もあります。脳に炎症が起こることで、うつ病を発症することもあります。つまり、ストレスは健康維持の最大の敵であると言えます。逆に言えば、毎日の生活でストレスを減らし、健やかに過ごせば長生きできるということです。

◆オステオカルシンとアペリン
 スウェーデンでは1870〜1900年の30年間に生まれた2800人以上の双子を対象に寿命と遺伝の関係を調査した報告があります。調査では、寿命には遺伝的要素が20〜30%、環境要因が70%関わっていることが分かりました。アメリカやオランダ、日本でも同様の研究報告があります。また、慶応大学グループの研究では100歳以上の長寿者は一般の人に比べて糖尿病や高血圧、動脈硬化、認知症、ガンの発症が少ないという傾向が見られました。長寿者に共通する点として、適度な運動習慣があり、運動することによって骨を作るオステオカルシンが豊富に分泌されていることが分かりました。オステオカルシンは筋肉運動によって骨の中の骨芽細胞で作られます。オステオカルシンが血液中に放出されるとインスリンの分泌を促すので、血糖値が低下し糖尿病を防ぎます。また、オステオカルシンは血液脳関門を通過して脳内に入り、海馬に働いて認知症を予防します。散歩などの運動が全身の臓器に良いことが分かります。
 2018年には運動することで筋肉自体が作る若返り因子が発見されました。それがアペリンと呼ばれるペプチドです。加齢によって人は筋肉量や筋力が低下するサルコペニア状態を示します。そこで、アペリンを投与するとサルコペニアが改善されることが分かったのです。アペリンは筋肉の収縮により筋細胞で作られる物質です。筋肉の幹細胞に働き細胞分裂を促すとともに、筋細胞のエネルギー代謝を亢進させて筋力を増強します。身体を動かしている人が若さを維持しているのにはアペリンが関与しているようです。

◆養生訓に学ぶ
 貝原益軒は養生訓の中で「人は天と地から生まれてきた。人が元気に生きていくには飲食により養分を毎日摂らなければいけない。でも飲食は願望のひとつであり、願望のおもむくままに飲食を続ければ胃腸のためにも良くない。度を過ぎれば生命に関わる。胃腸から取り込まれた養分が身体を養っている。草木が土の中で栄養を取り込んでいるのと同じである。つい食べ過ぎてしまう。腹七〜八分位で食事を抑えておけばしばらくすると腹は十分になる。腹いっぱい食べると、後で腹が張り病気になる」と言っています。炎症も生活習慣も何事も過ぎると取り返しのつかない困ったことになります。ストレスは慢性炎症を様々な病気へと発症させる根源なのです。副腎皮質ホルモンは一時的には炎症を抑えますが、そのうち効き方が悪化して効果がなくなります。ですから薬に頼るのではなく、まず積極的に笑うように努め、避けられるストレスは避けることです。ストレスには個人差があるので、自分なりに自分に合うストレスを避ける方法を見つけ、対処することです。

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VOL.277『病気克服の希望、エクソソーム』 [健康]

◆DNAは生命の設計図
 DNAは生命の設計図と呼ばれますが、中には多数の遺伝子が書き込まれており、細胞の分化は遺伝子のスイッチのオン・オフによって起こります。例えば、遺伝子Aがオンになると細胞Aになります。細胞は常に遺伝子と共に行動しているので、遺伝子の状態が変化すると細胞の動き方も変わり、新たな行動を起こすことができます。分裂後の未分化な細胞は外から刺激を受けて遺伝子Aがオンになり、細胞Aがメッセージ物質を放出します。メッセージ物質Aを受け取った隣の細胞では遺伝子Bがオンとなり、細胞Bとなります。こうして次々と周囲の細胞が働き始め、遺伝子のオン・オフに従って細胞は行動するようになります。
 単純な作業の積み重ねによって複雑なことができるようになるのはコンピュータのプログラムに似ています。それゆえ、DNAは生命の設計図と呼ばれるのです。生命は細胞とDNAの関係によって生じたネットワークを形成します。ネットワークが発生の過程で奇跡のように順序良く正しく働くことでカラダは作られていきます。途中で生じるズレはネットワークを引き戻す力によって解消され、また先に進みます。

◆エクソソームの情報伝達能力
 種々の病気の治療に役立つよう、ヒト遺伝子の厖大なプログラムは徐々に読み解かれており、その研究は着実に進んでいます。人類が遥か昔から進化してきた過程が遺伝子の中には記載されています。それが今日、急速に解明されてきており、そこで最も期待されていることが健康長寿です。
 細胞同士は互いにホルモンやサイトカイン、神経伝達物質などを使って情報交換をしています。情報伝達の別の手段としてエクソソームがあります。エクソソームはメッセージ物質が詰まったカプセルのようなもので、細胞よりも遥かに小さく、ほとんどの細胞が放出します。そのため血液中には100兆個以上のエクソソームが流れていると言われます。エクソソームの外膜は細胞膜と同じ成分でできているので、他の細胞へタンパク質の鍵を使って入り込みます。エクソソーム中にはマイクロRNAと呼ばれる多数のメッセージ物質が入っています。マイクロRNAは種類の違いや組み合わせによって全く違ったメッセージになります。エクソソームとマイクロRNAは多様な情報伝達を行える点で他のメッセージ物質と大きく異なる特徴があります。
 エクソソームはガンと深い関わりがあることから研究が急速に進んでいます。ガン細胞は正常細胞よりも多量にエクソソームを放出します。例えば、乳ガンが出すエクソソームは脳の血管に作用し、血液脳関門を破壊します。そのせいで乳ガンは脳に転移するのです。他のガン細胞も転移しやすくするために事前にエクソソームを出して転移する場所の環境を整えます。ガンが増殖するには大量の酸素と栄養も必要になるため、エクソソームを放出して周囲に毛細血管を新生させ、新たな供給ルートを作ることもできます。正常な細胞同士がエクソソームを情報伝達に使っている仕組みをガン細胞が悪用して転移しやすくしているのです。そこでエクソソーム中に含まれるマイクロRNAを分析することでガン細胞を95%以上の確率で特定する方法が開発されました。ガン細胞がエクソソームを利用するのを逆手にとって治療する方法の開発が進んでいるのです。これは健康の原因を探る研究でもあります。

◆体内のゴミだと思われていたのに実は…
 健康とは、完璧な状態を言うのではなく、どこかが壊れていてもそれを補う丈夫な部分が壊れていない状態を言います。壊れた部分が増えると病気になります。壊れた部分を悪化させずに保つことが健康長寿につながります。健康で過ごせる期間を延ばすことで病気で苦しむ時間を減らすことができます。
 最近までエクソソームは体内のゴミとされていましたが、細胞間の情報伝達手段であると分かった上に、それが人体の神秘の巨大ネットワークを作っていることまで明らかになってきました。これを解明することで種々の病気を克服し、健康寿命をもたらしてくれるという研究が進められています。

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VOL.274『カラダに良い水とは』 [健康]

◆水の働き
 紀元前625〜547年頃、古代ギリシャの哲学の祖・タレスは『万物の根源は水である』という言葉を残しました。水は人類の生命のあらゆることに深い関わりを持っており、それは今も変わっていません。人類は200万年前に誕生し、その後ヒトとして進化を遂げ、長い歴史の中で水無しでは生きられませんでした。ヒトのカラダは60〜70%が水で構成され、細胞内には50%、組織内には20%、血液中には7.5%の水が含まれています。そして体内に含まれる水の10%が失われただけで危機的な状態に陥り、20%を失うと死に至ります。
 水は体内の組織に浸透し、塩分や分泌物を溶解し、各器官の活動の媒介となっています。食物の消化や栄養素の運搬・循環・吸収、老廃物の排泄も水が中心的な役割を果たします。

◆水とカルシウム
 水の働きには、生命の恒常性を維持するための体温調節作用があります。体内で発生した熱は発汗することで体温が調節できます。この機能がうまく作動しなくなると、体内の熱をうまく放出することができなくなり熱中症状態になります。35℃以上の猛暑では冷房が効いている室内にいても水分摂取量が少ないと熱中症になってしまいます。水分補給が追いつかない状態で発汗が続くと、汗とともに多量の塩分が奪われ、体内の電解質(ミネラル成分)バランスが崩れて摂食中枢がうまく機能しなくなり、食欲不振に陥ります。熱中症は体内の水分と塩分の不足が原因で発症する病気です。水は人間が生きるために絶対に必要なものですが、どんな水でも良いかといえばそうではなく、ミネラル成分が豊富に含まれた水が良いのです。特に、カルシウムとマグネシウムが多く含まれている水を硬水と言いますが、世界中のどの地域においても硬水を飲んでいる人の方が健康で長寿です。硬水の中でも軟水に近い硬水が一番です。WHO(世界保健機関)は硬水を飲んでいる人の方が脳卒中や心臓病での死亡率が低いとの調査結果を発表しました。標高2000メートル以上の山から流れる谷川の水にはカルシウム、鉄、銅、フッ素などの微量ミネラル成分が多種類含まれています。
 一般的に高齢になるとカルシウムの摂取量が不足します。摂取したカルシウムの腸管からの吸収能力も下がるので、血液中のカルシウム濃度が低下します。すると副甲状腺ホルモンが分泌され、骨のカルシウムを溶かし出して補います。この副甲状腺ホルモンは微調整が効かないので、血液中のカルシウムが適量になっても骨のカルシウムを溶かし続けてしまいます。溶け出すぎて余ったカルシウムが血管壁に付着し動脈硬化が起こると、心筋梗塞や脳梗塞の引き金となります。

◆弱アルカリ性のカラダを保とう
 軟水に近い硬水を絶えず飲んでいると、血液中のカルシウムは適量に保たれます。ヨーロッパなどに比べると日本の水は硬度が低いので日本人は軟水を常飲しています。そのため硬度の高い水はまずく感じて飲みにくいので、軟水に近い硬水が口に合います。肉類や脂肪分の多い食事ばかり摂っていると血液が酸性の状態(アシドーシス)になります。すると自然に骨や歯のカルシウムが溶け出します。アシドーシスは過労やストレス過多の時になりやすく、また、糖類や糖質、肉類などのタンパク質、つまり酸性食品を食べ過ぎてもなりやすいので注意しましょう。
 逆に、カラダは弱アルカリ性の状態(アルカローシス)を保つことが重要です。十分に睡眠や休養をとったり、常に野菜や豆類・海藻・発酵食品などのアルカリ性食品を摂取していると細胞は元気で活性化します。カラダを弱アルカリ性の状態に保てば副甲状腺ホルモンが分泌されることはないので、骨からカルシウムが溶出することもありません。そしてマグネシウムやビタミンD、アルブミン(タンパク質)と結合した炭酸カルシウムの摂取でカルシウムの吸収性を効率化しましょう。カルシウムは腸の蠕動運動を活発にするので便秘を防ぎます。水に溶けてイオン化したカルシウムは吸収性に優れています。血液の粘りを弱め、血液が流れやすい状態になります。これがカラダに良い水の第一条件なのです。

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VOL.263『病気の基となる慢性炎症』 [健康]

◆免疫反応
 免疫とはなんでしょう?免疫とは疫(病気)を免れること、つまり病気にかからないということです。人にはウイルスや細菌などの感染症にかかっても病原体と闘って防御する機能が存在します。体内に侵入した病原体と闘う現象を免疫反応といいます。この免疫反応が病気の予防や病気を治す自然治癒力となります。
 ところが、免疫反応にはカラダにとって悪いこともあり、それがアレルギーです。花粉やハウスダストに対して免疫反応が強く起こり過ぎると、過剰なかゆみや涙、鼻水、くしゃみなどのアレルギー症状に悩まされます。また、自己免疫疾患と呼ばれる病気の人も免疫反応が悪さをします。こちらは遺伝的に発症することが多く、全身性エリテマトーデス(SLE)や関節リウマチなどがその例です。原因は自己抗体が自分の細胞や組織を攻撃する免疫反応が生じることで、発熱し、さまざまな場所に痛みが出ます。

◆慢性炎症とは
 このように免疫反応はカラダに害を及ぼす場合がありますが、通常は病原体からカラダを守っています。病原体が体内に侵入するとカラダを防御する白血球が侵入局所で刺激を受けるので生理活性物質やサイトカインなどの物質を作り出して情報を周囲の白血球系細胞に伝えます。すると樹状細胞やマクロファージ、リンパ球(T細胞、B細胞)が活性化され、病原体を殺す抗体(B細胞)で攻撃します。また、T細胞や樹状細胞は病原体を直接攻撃し、その結果、病原体が減少すると免疫反応は徐々に弱まります。多くの場合、カラダにはその免疫記憶が残り、再び同じ病原体が侵入した時には直ちに攻撃・排除する能力を発揮します。
 この免疫反応は局所の炎症反応です。炎症反応には白血球だけでなく、全身の細胞が反応します。炎症反応はコレステロールや尿酸などの結晶成分が体内に溜まってくる生体反応由来の成分にも起こります。通常、この反応はすぐ収まりますが、炎症反応が長期化すると体内のブレーキ機構が破綻し、これがドミノ倒し的に起きることを慢性炎症と呼びます。近年、慢性炎症があらゆる疾患に関与することが分かってきました。
 慢性炎症は症状がなかったり、軽かったりするので気づきにくいのですが、これがガンや糖尿病、高血圧、動脈硬化、アルツハイマーなどの恐ろしい病気となり、気づいたときには悪化しています。そのため慢性疾患はサイレントキラー(静かなる殺し屋)と呼ばれます。
 今日、健康寿命を阻害する原因は慢性疾患です。慢性疾患は自覚症状がないまま炎症が進行し、気づいたときには臓器の機能不全が始まり、死に至るまで進行します。慢性炎症は特に、神経細胞のように再生しにくい組織で起こります。その例がアルツハイマーで、症状が発症したときには手遅れとなります。
 江戸時代の浮世絵師、歌川国芳が描いた日本に古くから伝わる妖怪・鵺(ヌエ)は誰もその姿を見たことがないため想像で描かれています。顔はサル、胴体がタヌキ、手足がトラ、尾はヘビです。ヌエは知らない間に人の家に入り込み、住み着いて人を恐れおののかせ正体不明の病を起こします。平安時代にもヌエの話があります。ヌエは源頼政によって御所内で弓で射られて殺され、淀川に流され大阪湾に流れ着きます。そのヌエを村人が埋葬し祀ったとされるヌエ塚が今も残っています。ヌエは大阪湾を印象付ける動物として大阪湾の紋章となりました。ヌエによる病気が今日の慢性炎症です。慢性炎症は万病の元とされ、どのように防げばいいのか、治療薬は多種ありますが、これといった効果を示すものは存在しません。

◆過ぎたるは及ばざるが如し
 孔子は論語の中で「過ぎたるは及ばざるが如し」と言いました。やり過ぎても足りなくても、どちらも同じくらい良くないという意味です。これはまさに今日の健康習慣にも当てはまります。何事もほどほど肝心であり、大事なのは中庸の精神です。ほどほどを過ぎると、体内には目に見えない炎症が始まり、次第にカラダの調子がおかしくなってきます。病気の基となる炎症反応を感知するセンサーは体内のすべての細胞に備わっています。毎日の悪い生活習慣が続けば細胞のセンサーが働かないために必然的に慢性化し、病気の方向に進みます。規則正しい生活習慣や野菜を中心とした食生活、適度な運動習慣が慢性炎症を予防する方法です。

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VOL.250『健康長寿のために腸を元気に』 [健康]

◆フコイダン・βグルカン
 近年、海藻類やキノコ類の抗酸化作用が注目されています。キノコ類にはβグルカンと呼ばれる多糖類の成分が含まれています。βグルカンは抗酸化力を発揮するだけでなく、インターロイキン12(IL-12)と呼ばれるサイトカイン(タンパク質、生理活性物質、細胞間の情報伝達)を放出することで、白血球の貪食系の免疫細胞であるマクロファージや樹状細胞を活性化し、NK細胞やヘルパーT細胞、キラーT細胞などの免疫機能の主役となる攻撃部隊を強化します。βグルカンは、抗酸化力や免疫力を高めるとともに胃ガンや大腸ガンの発症リスクを低減させます。個々の体質によっても違いますが、週に1〜3回摂取することで効果が現れますので種々のキノコを日替わりで食べてみてはどうでしょう?

◆中鎖脂肪酸・乳酸菌・食物繊維
 コンブやワカメ・モズクなどの海藻類にはフコイダンと呼ばれる多糖類が含まれています。海藻の種類によって含まれる多糖類は多少異なりますが、いずれも水溶性の食物繊維で免疫機能の向上や抗ガン作用が確認されています。なかでも注目を集めている食材が函館近海のカゴメコンブです。主成分はフコイダンやアルギン酸・ラミナンなどの多糖類で、独特の粘り成分であるフコイダンが他のコンブの2倍以上含まれています。
 実験的にヒト骨髄性白血病細胞にフコイダンを添加して培養した結果、ガン細胞を自然死させるアポトーシスという作用が活性化されることが分かりました。最近、フコイダンの吸収性を高める低分子フコイダンが開発され抗ガン作用が期待されています。しかしこれは飲みにくい上に高額なため、根コンブを入れた水が注目されています。根コンブの表面の汚れを落とし、水洗いしてハサミでなるべく小さく切り、200mlの水を入れて冷蔵庫で夏場なら10〜12時間、冬場では12〜24時間放置することでフコイダンの粘り成分が染み出した根コンブ水ができます。これに酢またはレモン汁を小さじ1杯入れれば完成です。お湯を使うと粘り気が出ないので気をつけましょう。逆にミネラル成分の多い水は相性が良いのでオススメです。
 フコイダンやβグルカンは単独でも抗ガン作用を発揮しますが、アボカドや中佐脂肪酸のオイルを併せて摂取するとさらに効果が高まるとの研究報告があります。また、乳酸菌との相乗効果も明らかにされています。通常、乳酸菌は腸内細菌を活性化させ、腸の蠕動運動を整えます。実験的に乳酸菌(フェカリス菌)にフコイダンを添加し、37℃で培養したものをマウスの脾臓細胞に注入した結果、3日後にはNK細胞が3倍以上に増加しました。
 βグルカンと乳酸菌を併用することでも腸管の免疫細胞を活性化させる効果が報告されています。乳酸菌が腸内細菌叢の中の善玉菌を増殖させることは知られていますが、乳酸菌を増殖させるにはエサとして多糖類の食物繊維が必要となります。普段の食生活でキノコ類や海藻類とともに野菜などから食物繊維を十分に摂取すれば、乳酸菌などの善玉菌は常に優位に増殖でき、腸内細菌叢のバランスは善玉菌が優位となります。

◆腸は免疫機能の中心
 腸は脳の次に免疫機能を調節する中枢神経系器官なので、腸の活動が活発になれば免疫力が高まります。肉類や脂肪分・乳製品を多く摂取していると、腸内に消化できないタンパク質が吸収されずに長く停滞します。それが大腸ガンの原因となったり、リスクを高めます。キノコ類や海藻類は腸の蠕動運動を活発にするので下痢や便秘を防止することから大腸ガンの抑制に役立ちます。腸の免疫系細胞が活性化することでNK細胞やヘルパーT細胞・キラーT細胞などガン細胞を攻撃する免疫機能が向上し、それにマクロファージや樹状細胞などが協力してガン細胞の増殖を抑制する方向に働きます。
 毎日、キノコ類や海藻類を中心に野菜など食物繊維が豊富な食物をたくさん摂取することは、病気にならない身体を作り、慢性疾患やガンの予防にもつながり、健康寿命を延ばすことにつながります。そして、ミネラル成分であるカルシウムやマグネシウムを併用すれば、さらに効果が高まります。

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VOL.238『オゾンの効能と危険性』 [健康]

◆ 紫外線から私たちを守るオゾン層
 大気圏は地表から近い順に『対流圏』『成層圏』『中間圏』『熱圏』『外気圏』の5層に分かれており、地球の表面は1気圧の空気に覆われています。空気の成分は、窒素が78%・酸素が21%で他はアルゴン・二酸化炭素・一酸化炭素・ネオン・ヘリウムなどの微量の混合ガスです。そして空気の密度は、地表から標高が上がるにつれて低下し、気圧も下がります。成層圏にはオゾン層があり、このオゾン層が太陽から放たれる紫外線を調節しています。
 南極上空のオゾン層には穴が空いている部分があります。このオゾンホールを世界で最初に発見したのは日本人です。1980年、南極の昭和基地に勤務していた日本人の観測員が南極上空のオゾンが減少しているのを見つけました。当時はまだオゾンホールという名称すらありませんでした。オゾン層のオゾン量が減ってくると、中長波の紫外線が皮膚に炎症を起こし、オゾンがない場所(オゾンホール)からは太陽光のすべての波長域が直接照射されます。なかでも短波長の紫外線は人体への影響が大きく、皮膚ガンの発生率が高まります。
 オゾン層を破壊してオゾンホールを作る物質の代表がフロン(ガス)です。フロンはフッ素と塩素からなる化合物で、オゾン層に入ると塩素が触媒となってオゾンの分解反応が継続的に繰り返されるため、オゾン層が破壊されます。フロンは冷蔵庫やエアコン、各種スプレーなどに大量に使用されていましたが、1987年にモントリオール議定書が採択されて1995年に製造が全廃されました。
 オゾンホールは年々増加し、ブラジルの南端からニュージーランド、オーストラリアの一部にまで拡大しています。紫外線照射の動物実験では発ガン率が急増しました。また、植物の生長を遅らせ、農作物の収穫量を減らします。短波長の紫外線は、無音の殺傷兵器あるいは殺人光線の可能性があります。

◆ 有害なオゾン
 オゾンには強力な酸化力があり、特有の生臭い匂いがする物質で、稲妻や蛍光灯・殺菌灯から発生します。発生したオゾンには活性酸素が混在します。最近の中国の近代化に伴い大陸から偏西風に乗って運ばれてくるオゾンによって、日本周辺のオゾン濃度は上昇しています。これが光化学スモッグの原因となっており、オゾンガスが人体に及ぼす影響が深刻になってきています。ヒトはオゾン濃度50ppmでは1時間で生命が危険な状態になります。現在、致死量のオゾンにさらされていることはありませんが安心はできません。オゾンの人体への影響から許容濃度は0.1ppmとされます。
 オゾンは空気と同じように体内に吸収されます。酸素とともに酸化力の強いオゾンが体内に吸収されると粘膜を酸化し、機能低下を起こすので、呼吸器の障害を起こす可能性があります。また、麻痺や肺浮腫の症状が出たり、眼粘膜の酸化による視力低下も起こります。

◆ 効果を知って上手に利用しよう
 オゾンには優れた殺菌効果があるため、コンビニやスーパーのおにぎり・サンドイッチ・サラダ・カット野菜などにはオゾンが使われています。オゾンは水を電気分解してできます。トイレを無臭にしたり、院内感染を防ぐのにも使われます。また、水の浄化処理にも使用され、プールの水なども再利用できるようにします。オゾンの処理水は養殖場でも使用され、水族館の水が汚れないのもオゾン処理によるものです。
 21世紀になり、人々のライフスタイルも急激に変化して、ますます便利な世の中となり、衛生環境も整備されました。ところが、オゾンの大量使用による環境汚染が進んでいます。オゾンは少量でも効果があるのにもかかわらず、知らず知らずのうちに過剰に使用してしまい、年々オゾン濃度は上昇しています。
 オゾンには活性酸素が含まれており、この活性酸素が人体に害を与えます。オゾンの効果を知るとともに悪影響も知りましょう。

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