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VOL.315『天然由来の成分を摂取する効果』 [食べ物]

◆天然の薬としての食物
 人類は細菌が発見される前から身体を治す天然の薬として食物を利用してきました。その一つがニンニクです。紀元前数千年からニンニクは病気を治す薬効があるとされてきました。現在では自然の抗菌作用があることが知られており、天然の抗ガン剤としても認定されています。アメリカ国立ガン研究所では、ガンの予防に効果があると考えられる食品約40種類を期待できる順に上からピラミッド型に並べ『デザイナーフーズ・ピラミッド』という分類を行いました。その最上位にニンニクがあります。
 ブロッコリースプラウトに含まれるスルフォラファンは、植物が害虫から身を守るために作り出した天然の抗菌薬で、独特の苦味があります。1日70グラムのブロッコリースプラウトを8週間摂取すると、ヘリコパクター・ピロリ菌の数が8分の1以下に減少するので、小腸内細菌増殖症(SIBO)や過敏性腸症候群にも効果的です。天然の抗生物質なので耐性菌の出現を心配する必要もありません。
 他にもニンニクとレモンの組み合せには静菌作用があり、ココナッツオイルに含まれる遊離脂肪酸は分子量が小さいので膵液や胆汁の関与なしで消化し、もずくに含まれるフコイダンは腸内ガス(水素ガス)を減らし、生姜は腸管運動を促進します。逆に、腸内細菌に悪影響を与える食品はジャンクフードやファーストフードです。これらは最大級の努力で食べないようにしましょう。一方、オリーブオイルやオメガ3脂肪酸を多く含む地中海料理や和食は日本人に適しています。

◆お腹の不調の原因
 お腹の不調の指標となるのがオナラの数です。通常、オナラは男性で1日14回、女性は7回ほどが健康体と言われます。これが2倍以上であれば腸内に多くのガスが溜まっていることになります。飛行機の中は気圧が低下するのでお腹の空気が膨張し、ガスが多く産生され腹痛も起こしやすくなります。そこで畿内ではできるだけウエストを締め付けない服装を心がけ、機内食は少なめに食べて炭酸飲料は飲まないようにすると良いでしょう。気圧が下がるという意味では高山に登る際にも同様の注意が必要です。
 小麦に含まれるグルテンというタンパク質は摂取すると小腸粘膜に異常免疫反応が起こり、腹部の張りや腹痛、下痢、便秘などが生じます。グルテンは小麦以外にもライ麦や大麦などの穀物類に多く含まれており、パンやピザ、パスタ、シリアルなどのモチモチ感やふっくら感の成分となるタンパク質です。セリアック病の人はこのグルテンを控えなくてはなりません。セリアック病は症状が過敏性腸症候群に似ており、グルテンを摂取しなければ症状が回復することが知られています。
 運動による腹部の症状を運動誘発性胃腸症候群と呼びます。激しい運動をすると骨格筋の血液量が増加し、そのせいで腸管の血液量が減少するので腸は虚血状態になります。すると腸内細菌が産生するエンドトキシンという毒素が血液中に漏れ出すので下痢や腹痛、吐き気、下血を引き起こします。

和食を見直し、摂取しよう
 日常生活の中で、糖質のグルテンをあまり含まず、水溶性の食物繊維や魚介類、豆類、発酵食品を多く使用する和食が腸の健康には最適であることが分かってきました。日本人は古来から自然の中で生活し、肉類よりも野菜など食物繊維や魚介類、豆類などを主食として摂取してきました。この環境が数千年も続いてきたのです。それが欧米食になることで腸内環境は急激に悪化しました。第二の脳と言われる腸の環境を整えるため、今一度和食を見直し、積極的に摂取してみてはいかがでしょう。

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VOL.305『朝食をしっかり食べてもお腹が空く理由』 [食べ物]

◆運動不足と睡眠不足
 新型コロナウイルス感染症のせいで、多くの人が自宅で過ごす時間が増えています。時間の観念が崩れ、夜更かしすることも多くなり、すると無性に何か食べたくなったりします。睡眠不足に加えて食欲に関与するホルモンのバランスが崩れるせいでお腹が空いて何かを食べてしまう、これには脳の視床下部にある摂食中枢と満腹中枢をコントロールするホルモンであるグレリンとレプチンが関係しています。
 空腹になると胃からグレリンが多量に分泌され、摂食中枢に働きかけて食欲を高めます。食事を摂って脂肪細胞に中性脂肪が大量に蓄えられると、脂肪細胞からレプチンが分泌され満腹中枢に働き食欲を抑えます。レプチンは交感神経を刺激するので全身にエネルギーを消費するように脳から指令が出ますが、運動しなければ脂肪が内臓脂肪に溜まるので肥満となります。するとレプチンの働きが悪化して感受性も低下するので、さらに脂肪を蓄積するように食欲が増します。睡眠不足が続くと食欲を高めるグレリンが増え、食欲を抑えるレプチンが減ります。その結果、食べることを我慢できなくなります。運動不足と睡眠不足が太りやすい体質を作ります。

◆お酒を飲む時に食べるべき物
 特に太りやすい食物は糖質や脂質の多い食物です。夜遅くにラーメンや餃子を食べると太るという研究報告もあります。はしご酒をしてお腹が空き、締めにラーメンや餃子を食べ、翌朝は寝不足と二日酔いで運動どころではないという悪循環が一番良くありません。これでは体力や免疫力も低下し、新型コロナウイルスに感染する確率も増してしまいます。
 お酒を飲む時には肝臓の機能を高めてくれるビタミンB1やナイアシン、タンパク質を摂った方が良いとされています。これらの栄養素はアルコールを代謝する過程で働くので、意識的に補給すればアルコール代謝が高まり、肝臓の働きを高めます。肝臓はアルコールをアセトアルデヒドに分解する仕事をしています。アルコール量が多いとアルデヒド脱水素酵素やそれ以外の酵素が同時に働きますが、ビタミンB1はそれらの酵素の補酵素として使われます。ナイアシンはアルコールをアセトアルデヒドに分解するアルコール脱水素酵素の補酵素として働き、タンパク質は肝臓の材料になるのでアルコールを分解するための栄養素と言えます。これらの栄養素はお酒を飲む前後に補給しても効果がありません。飲酒の習慣がある人が太りやすいのはお酒のせいではなく同時に食べる食物に原因があります。アルコールを飲んで分解されたエネルギーを優先的に使うのが、体内に蓄積されている脂肪や糖質で、アルコールの分解は後回しになります。一緒に食べるフライドポテトやポテトサラダ・ピザ・焼きそば・ラーメン・餃子などは糖質が多いので肥満となります。結局、お酒が脂肪の蓄積を促してしまうのです。お酒を飲む時には豆類や海藻類・ごぼう・ネバネバ野菜などの水溶性食物繊維を摂ることです。

◆有効な朝食の摂り方
 朝食をきちんと食べたのに、午前中のうちにお腹が空いてグーグーなってしまうという話をよく聞きます。朝食の量が足りなかったのだと翌日にはパンなどを増やし、小腹が空くとチョコレートを食べたりします。しかし、これは朝食の量が足りなかったのではありません。朝食が糖質メインなので中途半端な時間にお腹が空くのです。ですから、さらに糖質量を増やしても空腹感が生じるのです。これは糖質の吸収を抑える食物繊維が不足しているためです。血糖値は急上昇するとインスリンが大量に分泌され、そのせいで血糖値が急降下して空腹となります。朝食にはタンパク質と食物繊維が必要なのです。腸内の善玉菌の餌となるのが食物繊維なので、食物繊維はお腹の調子を整えてくれます。善玉菌は食物繊維を分解して短鎖脂肪酸を作ります。短鎖脂肪酸は脂肪細胞に働いて脂肪の蓄積を抑えます。特に有効なのがネバネバの食物繊維です。納豆などのネバネバ食品や発酵食品は胃や腸で水分を吸収してくれるので満腹感が続きます。食物繊維や発酵食品は腸内細菌の善玉菌を増やし、腸内の蠕動運動を活発にするので下痢や便秘、大腸ガンの発症を防ぎます。健康を維持するには朝食が一番大切です。乳製品よりは和食の方が日本人の体質には合っています。和食を中心に食物繊維や発酵食品が豊富な朝食を摂り、免疫力を高めてコロナ対策を続けましょう。

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VOL.258『和食文化は14世紀に始まっていた』 [食べ物]

◆独自の進化を遂げた食文化
 日本は歴史的に大陸の影響を長い間受けてきましたが、外国からの文化を旺盛に取り入れてもそのまま受け入れたことはほとんどなく、必ず風土と慣習に沿った改良と工夫を加え、独自の文化を形成してきました。そして、和食という他に例のない独自の食文化が確立されました。例えば、同じ箸文化を持つ国でも、日本では食事全般に箸を用いますが、中国や朝鮮半島では汁物やご飯には匙を使い、箸だけで食べる作法は日本独特の文化です。また、日本では食器を持ち上げて食べますが、この方法は日本以外の国では不作法であるとされます。

◆素材と風土が育んだ和食
 日本には、格式高い懐石料理から質素な精進料理、正月の御節料理、海や山の鍋料理、庶民的な丼物やお好み焼き、ラーメンなどがあり、他に寿司や天ぷら、すき焼き、しゃぶしゃぶ、味噌汁、うどん、そば、トンカツなどもあり多種多様です。
 和食は土地の素材と風土を基に発展しました。日本人は古代より神の怒りを買うのを畏れて伝統的に獣肉を食べることを避けてきました。しかも草原など放牧に適した土地もなく、酪農にも適さなかったことから、乳製品も日本料理にはありません。
 稲作に適した温帯気候のため、麦よりも米が主な穀物として定着し、そこで白米を主食として淡白な味わいの野菜や魚を中心とした料理が発達しました。新鮮な食材の一汁三菜というバランスの良い組み合わせで、自然と季節感を表現したものが和食の基本コンセプトです。

◆和食を劇的に発展させた麹
 和食を劇的に発達させたのが発酵食品です。味噌や醤油、みりん、酢など和食に欠かせない調味料は米や麦に着く麹菌というカビで製造されます。つまり、麹菌こそが和食料理の基本となるのです。発酵食品の製造にカビを用いるのは東洋の伝統です。西洋には例外的に白カビを用いたカマンベールチーズや、青カビを用いたロックフォールチーズなどがありますが、食品の加工にほぼカビは使いません。夏に乾燥するヨーロッパや北アメリカでは食品を放置してもカビは生えません。日本のように高温多湿の環境ではカビが繁殖しやすいのです。
 米や麦、大豆などの穀物にカビなどの微生物を生育させた物を麹といいます。日本で水田耕作が本格的に始まった弥生時代には、蒸した米を口に入れて噛み砕き、唾液を含ませてからツボに吐き入れて保存していました。唾液のアミラーゼによってデンプンが分解され、天然の酵母となってアルコール発酵が起こり酒ができました。これを口噛み酒といいます。口噛み酒は大変な手間がかかるので大量生産には向かず、神事などの儀式に用いられました。その後、蒸し米にカビが生えることから口内で噛まなくても酒ができることが分かり、麹菌は米に生えるカビという意味になりました。そして、酒造りのためにカビを専門に造る技術集団ができ、酒造家にカビを提供する種麹屋が出現しました。室町時代には、幕府の役人が麹の密造を取り締まった記録も残っています。やがて種麹屋は、味噌や醤油の製造者にも専用の麹を提供するようになり、和食料理の根幹となりました。現在でも秘伝の技術によって製造され、桐の箱に納められた種麹が全国の酒造家に出荷され、醸造に用いられています。
 種麹屋の技能の根幹は麹菌の純粋培養です。樫や椿の材木の灰に麹菌を種付けし、蒸し米を加えると麹菌は木炭の添加によって胞子をつけます。この胞子だけを集めたものが純度99%の麹菌となります。木炭の投入によって蒸し米が塩基性となり、他の雑菌が死滅するのです。これにリン酸カリウムなどのミネラル成分を供給することで麹菌の胞子の着床が促進されます。麹菌に木炭を投入する合理的な方法は誰が始めたのか不明ですが、発酵食品の発展に貢献した画期的な方法です。
 微生物の純粋培養法はドイツの細菌学者ロベルト・コッホが1870年代に寒天培地を使用して確立しました。しかしながら、日本ではすでに14世紀には麹菌を純粋培養と発酵技術で商品化していました。日本の和食文化はすでに確立され、実行されていたのです。先人たちの発酵技術のレベルの高さと和食文化に頭が下がります。

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VOL.223『食物繊維摂取の重要性』 [食べ物]

◆サプレッサーT細胞
 免疫細胞は病原体の侵入を防ぐとともに病原体と闘って炎症を引き起こします。その免疫細胞には、キラーT細胞(体内に侵入した毒素や病原体を攻撃・排除・殺す)やヘルパーT細胞(キラーT細胞に攻撃の指令を出す細胞で指令官の役割を持つ)、サプレッサーT細胞(キラーT細胞の攻撃を抑制する役割を持つ)があり、炎症の度合いを見てバランスよく働いています。具体的には、攻撃的なキラーT細胞が多く働き、制御するサプレッサーT細胞が少なければ炎症が激しくなり、その逆であれば炎症は弱まります。
 炎症の状態を和らげるにはサプレッサーT細胞を増やすことで、その働きをするのが短鎖脂肪酸です。短鎖脂肪酸とは、酢酸・酪酸・プロピオン酸などの有機脂肪酸の総称で、その中の一つ、酪酸が多いとサプレッサーT細胞へと成長分化する細胞が増えます。短鎖脂肪酸は食物繊維やオリゴ糖の豊富な食事によって生成量を増やすことができます。

◆短鎖脂肪酸の役割
 短鎖脂肪酸はアレルギーの予防や改善にも役立ちます。2013年、理化学研究所は動物実験で、食物繊維を少なく与えたマウスと多く与えたマウスを比較した結果、多く与えたマウスの方が酪酸の生産量を増やし、サプレッサーT細胞の働きが活性化しました。酪酸がサプレッサーT細胞の遺伝子に働いて活性化することが分かったのです。
 その結果を実証しているのがアメリカで文明を避けて昔ながらの生活をする宗教団体「アーミッシュ」の人々です。彼らにはアレルギー疾患がありません。しかも血液検査の結果、サプレッサーT細胞が通常よりも35%以上多いことが分かったのです。アーミッシュの人々は生まれた時から牛やシマウマなどの家畜と共に生活し、車を持たず、電気も使わず、電話もありません。畑を耕す際には牛や馬に農耕具を引かせて、食事は自給自足です。自分たちが畑で育てたものを収穫し調理する、自然と共にある暮らしをしています。このような生活のおかげで彼らの腸内フローラはバランスが良く、短鎖脂肪酸を多量に生産します。
 短鎖脂肪酸は腸粘膜の上皮細胞のエネルギー源となります。上皮細胞には腸壁を保護する粘液を分泌し、水分や栄養素の吸収を助ける働きがあります。上皮細胞がエネルギー不足になると、腸壁のバリア機能が低下し炎症を起こします。短鎖脂肪酸は腸内フローラのバランスを整え、腸粘膜上皮細胞との間隔を塞ぐ方向に働きます。短鎖脂肪酸が減少すると、ウェルシュ菌や大腸菌などの悪玉菌が増え、腸内フローラのバランスが乱れます。すると、腸粘膜上皮細胞間の接合を緩めてしまうゾヌリンというタンパク質が増え、ゾヌリンの分泌量が多くなると、細胞間隙をつなぐ鎖が緩んで腸粘膜上皮細胞の透過性を高めてしまいます。また、セリアック症はグルテン摂取量の増加によりゾヌリン分泌が増し、小腸が損傷する自己免疫疾患です。自己免疫疾患とは自分の正常細胞や組織に対して過剰に反応し、攻撃してしまう免疫異常の病気で、強い炎症症状を示します。この病気の人はわずかなグルテン摂取でも腸の絨毛組織が破壊されて下痢症となる重症なグルテン不耐性になります。
 グルテンは、タンパク質で分解されてアミノ酸となり、腸の上皮細胞から吸収されます。ところが、グルテン含有量が多いとアミノ酸にまで分解されず、タンパク質のままで粘着性が増し、腸粘膜から吸収されなくなります。これがアレルギーの原因ともなります。

◆食物繊維を摂りましょう
 腸内フローラのバランスが乱れると、ゾヌリン分泌量が増え、腸粘膜上皮細胞の間隙が開いて、腸の内容物が血液中に流れ込む異常事態に進展します。
 腸内フローラにとって最高の栄養素は食物繊維で、人類の命の源となって今日に至っています。ところが日本人の食物繊維の摂取量は、かつて1日あたり300gほどであったものが120g以下に著しく減少しています。その結果、1日の糞便量も100g以下となり、排便を毎日しない人も増えています。これがアレルギー疾患やうつ病のなどの病気、炎症疾患に関係しているのです。

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VOL.217『食の安全性について』 [食べ物]

◆食品による中毒の可能性
 人が生きていく上で食物は必須です。しかし実は食物の中には様々な毒物(生体異物)が含まれており、この毒物を研究するのが中毒学です。中毒学では内閣府の食品安全委員会が科学的見地に基づいて食品のリスク評価を行います。毒物は、カラダの健康維持の機構に介入し毒性を発揮します。食品の安全性を守り、中毒の発生を防ぐために日本には様々な機関が整備されており、世界的にもWHO(世界保健機関)やFAO(国連食糧農業機関)など国際機関が設けられています。
 食について『安全性』は科学的に評価できますが『安心』は個人の知識や感情・心理に左右されます。今日、食品の生体に与える障害や、その毒性を発揮するメカニズムを分子レベルまで分かっている毒物は少数で、大多数は未解明です。つまり、中毒の可能性を秘めているものの方が多いということです。

◆毒物とは
 毒物は大きく分けて、①自然毒(動物毒・植物毒・カビ毒・細菌毒)、②合成毒(工業化学薬品・医薬品・農薬)、③無機毒(重金属)、④その他(放射線)の4種類に分類されます。これらの多くは食品に含まれ、口から消化管に侵入する場合がほとんどです。つまり、毒を摂取するリスクが圧倒的に高いのが食品だということです。そして食品に起因する健康障害を食中毒と呼びます。食品に付着した細菌やウイルスによっては短時間で症状が現れることもあります。そしてその毒性や効果量は個体間で大きく異なります。
 しかし、カラダには薬物代謝酵素が存在し、これを使って毒物を無毒化・低毒化して体外に排泄する解毒システムが備わっています。
 食品は口から消化管に入り、食道から胃を経て消化・分解され小腸で吸収されます。必要な栄養素は各種輸送タンパク質によって吸収されます。タンパク質は吸収すべき分子の化学構造を認識し、細胞膜の脂質部分に取り込まれる以外に侵入経路はありません。一方、水溶性分子(栄養素)は細胞膜からは侵入できません。つまり、脂質は水と混合しにくく、水に溶けやすい分子とも混ざりにくいのです。食品添加物は水溶性が高いため小腸からは吸収されません。脂質性物質は小腸の細胞膜に侵入すると血液中に入り、門脈を介して肝臓に到達しますが、小腸や肝臓は解毒システムを備えています。また、血液中に入った毒物は腎臓の糸球体でろ過され尿細管から排出されます。つまり、腎臓が正常であれば分子量の大きいタンパク質や糖質・赤血球(出血)などの細胞は尿中には排泄されません。それでも、代謝機構が壊されると解毒できず病気を発症します。

◆水にも注意
 今日、食の安全に関する社会的許容量としてトリハロメタンの毒性が注目されています。水道水を塩素殺菌するために水道水には1リットルあたり0.1mg(0.1ppm)の塩素が含まれていなければなりません。この量であれば病原微生物は生存できません。しかし、気温が高くなると塩素が多く投入されるようになります。その塩素と有機物の反応によってトリハロメタン分子が大量に生成されます。体重60kgの人が1日2リットルの水道水を一生飲み続けると10万人に1人の確率でガンを発症するという報告があります。また、WHOは2011年にクロロホルム規制値を0.3mg / リットルに、2015年4月には水道水の水質基準に一般細菌・カドミウム・鉛・ヒ素・6価クロム・カドミウム・ベンゼン・亜硝酸窒素・テトラクロロエチレン・トリクロロエチレンなどを加えて、水系伝染病を劇的に減少させました。中毒の観点から見ると食品だけでなく、水道水にもリスク管理の発想を考える時代になってきたようです。

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VOL.216『食べ物の不思議の科学』 [食べ物]

◆お餅の秘密
 日本人に馴染みの深い食べ物の一つに餅があります。つきたての餅は軟らかいですが時間が経つと硬くなります。これは餅の成分であるデンプン(糖質)の構造が変化するせいで、時間が経過して乾燥するからではありません。
 デンプンは、房状構造のアミロペクチンと直鎖状構造のアミロースからなります。もち米は80℃のお湯で15〜20分温めると、つきたてに近い食感になります。これは房状構造が開いて内部に水分が入り込むためです。それが冷めると再び房状構造が閉じて硬くなります。また、焼いて温めても房状構造が開くので軟らかくなりふっくらします。これはアミロペクチンの房状構造が緩み、気泡の中の気体が加熱されて膨張するためです。電子レンジは一気に水分が沸騰するので餅には適しません。
 餅の食感はデンプン構造だけではなく、米の破砕片や細胞壁、気泡の割合で大きく変化するので、杵と臼でついた場合の方が市販の餅よりも食感がよくなります。市販の餅は細かい組織片や気泡・水分量が多いので食感が落ちるのです。冷凍保存した場合は房状構造が広がりアミロペクチンがそのまま固まります。

◆肉の美味しさの秘密
 次に、肉の美味しさは何で決まるのでしょう。牛肉・豚肉・鶏肉の中で一番硬いのは牛肉です。硬さの原因は筋繊維の太さで、筋繊維が太い牛肉は硬く、ついで豚肉、鶏肉の順になります。そのため牛肉は数週間冷蔵庫で熟成させます。すると筋繊維に含まれる酵素が筋繊維の結合を分解するため軟らかい肉質に変化します。肉の美味しさは、肉に含まれる脂肪やアミノ酸に起因します。豚肉は牛肉や鶏肉に比べてイノシン酸やグアニル酸などのうまみ成分が多く、牛肉には焼くことでうまみ成分に変わるアミノ酸が多く含まれています。和牛には和牛香と呼ばれる甘い香り(ラクトン)が含まれており、この香りは80℃で最も強くなります。80℃はすき焼きやしゃぶしゃぶの最適温度です。
 肉は脂がのっていると美味しいと言いますが、実は脂肪の質と香りのバランスが重要なのです。美味しい肉の脂肪(脂肪酸)には低温で溶けるオレイン酸が多く含まれています。オレイン酸量が多いほど口どけが良く美味しくなります。鶏肉の脂肪は牛肉や豚肉に比べて低温の30〜43℃で溶けるので、冷えた体でも口の中で溶けて美味しく感じます。
 また、牛肉はオスとメスで味が違います。オスは男性ホルモンによって肉が臭くなるので加工食品に使われます。また健康に発育していない場合は水っぽく、筋繊維が弱く肉質が悪くなるので美味しくありません。餌にビタミンAを含ませて肉質を変え、肉に脂肪が入りやすくなるように工夫した肉もあります。

◆納豆の科学
 次は日本伝統の発酵食品である納豆の科学です。納豆は煮た(蒸した)大豆に納豆菌を加え、16〜24時間ほど発酵させます。納豆菌は土の中の稲わらなどに分布し、バチルス属という菌種に含まれます。納豆菌の胞子は熱に強く、熱湯で30分程度熱しても死滅しないので、稲わらを熱湯で煮沸し、大豆の納豆菌以外の細菌を殺して作ります。納豆の最大の特徴であるネバネバの正体は、グルタミン酸が1万個ほど結合したポリグルタミン酸(PGA)です。納豆をかき混ぜるとPGAが糸を作りますが、グルタミン酸が増えるわけではありません。
 納豆は高タンパク質、低脂肪で大豆の80倍のビタミンKを含んでいます。ビタミンKは骨を作りますが、血栓を溶かす効果を弱めるので、心臓の人工弁の薬を飲んでいる人は食べられません。2010年、納豆のゲノムが解読され、新しい品種改良や健康効果が期待されています。
 毎日食べる食品を美味しく食べながら、それぞれの食べ物の特徴を知ることで健康的かつ人生が豊かになれば幸いです。

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