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VOL.141『クリプトスポリジウムによる感染症』 [水]

◆都内2ヵ所の小学校で学年閉鎖
 先月、東京都府中市の小学校で5年生の児童だけが嘔吐や下痢を訴えて学年閉鎖となり、同時期にそこから25km離れた文京区の小学校でも、5年生だけが同じ症状を訴えて学年閉鎖となりました。遠く離れた二つの小学校で、しかも5年生だけになぜ同じことが起きたのか、はじめはミステリーのようでしたが、両校の5年生は同じ日に長野県にある牧場で乳搾りやバター作りなどの体験学習をしていたことが分かりました。症状が出た児童からはクリプトスポリジウムが検出されました。
 クリプトスポリジウムという原虫(病原性微生物)は寄生虫の一種で、環境中ではオーシストという3〜8μmの楕円形の厚い壁に包まれて存在し、淡水・海水・土壌中にオーシストとして生き続け、増殖することはありません。これがヒトや哺乳動物の体内に取り込まれると、腸管上皮細胞の微繊毛に侵入して寄生体胞を形成し、増殖して糞便とともに排泄されます。ヒトの場合、糞便中に含まれるオーシストは10億個にも達します。塩素に対して耐性があり、強い塩素で消毒しても効果はありません。

◆特効薬はない
 クリプトスポリジウムは家畜の排泄物を触った手で食べ物を食べることで経口的に感染します。潜伏期間は3〜10日ほどで、その後、下痢や腹痛・発熱などの症状が出ます。水源となる上流地域が汚染されると、飲料水や水道水に混入して集団的に下痢を発症します。腹痛・発熱を伴う激しい下痢便は水様性で、1日当たり数十回にものぼり、発症者の糞便には数週間にわたってオーシストが排出されます。症状が出ず1〜2週間で自然治癒する場合もありますが、重症化するとコレラのように激しい水様便や失禁を伴い、死を招く危険度の高い感染症です。治療にはさまざまな薬剤が使用されますが効果は一時的で、特効薬はなく、多くの場合、再発したり再燃する厄介な感染症です。ガンやエイズなど免疫不全症を発症していると病気が長引き、重症化して死に至ることもあります。
 ヒトへの感染が初めて報告されたのは1976年で、1980年代にはイギリスやアメリカで、水系汚染に伴う集団感染が頻繁に起きました。1993年にはアメリカのミルウォーキーで200万人を超える集団感染があり、4400人が入院し、数百人の死亡が報告されました。日本では1994年、神奈川県平塚市で460人余りの集団感染、1996年には埼玉県の越生町で町営の水道水が汚染源となり8800人の集団感染が起きました。1997年、健常者に行った下痢症の調査では、発展途上国で6.1%、先進国では2.1%がクリプトスポリジウムの感染に起因していました。

◆予防対策
 予防対策としては、十分に手を洗う・飲料水は70℃以上で1分以上煮沸する・氷水の摂取は避ける・生ものは避け、加熱調理した食品を食べる・食器類は水分を良く拭き取り乾燥させる・感染者の入浴は最後にする・糞便で汚れた下着は熱湯消毒した後、他の健常者のものと分けて洗濯する・浄水器はカートリッジ交換式で、1μm以下のフィルター付きのものを選ぶなどです。これから夏に向かって、氷などの冷たいものや生水を摂る機会が増えるで、クリプトスポリジウムの感染にも十分注意が必要です。

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