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VOL.312『活性酸素を完全に排除できない理由』 [体]

◆大型化と引き換えに活性酸素
 今からおよそ27億年前の地球は、ほとんど海に覆われていたので大気中のエネルギーによって光合成を行うには絶好の環境でした。こうした偶然の元で生命体は誕生し、進化しました。光合成細菌であるシアノバクテリアでは太陽光エネルギーによって水が分解(酸化)されて水素と電子が放出されました。その電子がシアノバクテリアのミトコンドリアの電子伝達系の作用し、発生するエネルギーを使って海水中の水素と二酸化炭素から炭素化合物が作られました。つまり、光合成は炭素化合物を作ることが本質であって、酸素の発生はおまけのようなものでした。
 生物はDNAの基幹を成す糖(ブドウ糖)を自分の体内で作りますが、他の生物に依存しない限り子孫を残すことができず生命体を継承できません。人類の祖先である生命体は自ら糖を作ることができなかったので、光合成の生物から供給してもらって命をつなぎ、酸素を利用する選択をしました。生命体はこの酸素システムによって細胞を組織や臓器へと分化させ大型化を目指しました。結果、その対価として莫大な活性酸素という毒を体内に抱えることとなったのです。そして生物は活性酸素の脅威から逃れるための完璧な対抗手段を作れていません。あるいは敢えて作らなかったのか、それは未だに不明です。

◆活性酸素にもメリットがある
 今日、心臓病・ガン・慢性肺疾患・腎疾患・糖尿病・アルツハイマー病・自己免疫疾患など、世界中で死亡する人の60%以上に活性酸素が関わっています。そして傷や感染に伴う炎症にも活性酸素が関与しており、人類が生き延びるためには日々活性酸素との闘いがあります。SOD(スーパーオキシドジスムターゼ)やカタラーゼという活性酸素分解酵素が体内には用意されていますが十分量ではない上に、若い頃は処理する作用が強いのですが高齢になると十分に働かなくなります。
 そんな活性酸素を酸素呼吸で生きる生物が完全に排除しない理由の一つが、活性酸素を細胞間の情報交換ツールとして多用している事実があります。細胞はDNAからタンパク質の設計図となる遺伝子が誘導されて作られます。これらは全て情報伝達の指令によって起こります。活性酸素はタンパク質を還元型から酸化型に変えることで活性化します。活性酸素の働きがなければ細胞内の情報伝達は停滞し、新しくタンパク質を作ることができないのです。そこで生物がとった活性酸素対策とは何でしょうか?ヒトを含む生物は活性酸素によって傷ついたDNAを子孫に残さないためにその細胞が自ら死を選ぶ機能(アポトーシス)を作りました。異常な遺伝子を確実に死に至らしめるためにアポトーシスを起こしたのです。活性酸素を次世代に引き継がず異常な遺伝子を減らすため、雌雄を同体にせずにオスとメスを分離し、遺伝子を有性生殖で交換することでDNAの修復を進めました。

◆上手に使って健康維持
 細胞内のミトコンドリアではエネルギーを産生する際、同時に2~5%の活性酸素が発生し、それが周辺の細胞に障害を与えます。しかし、活性酸素は日常的に体外から侵入するウイルスや細菌などの病原体を破壊するので、それを利用して免疫防御機構を獲得しました。ヒトは自分自身を危うくする活性酸素を敢えて自分のカラダに常備することで生への執念を持ち続けたのです。こでが活性酸素が諸刃の剣であると言われる所以です。
 活性酸素の働きを上手に使うことで、感染症から身を守り、老化を防ぎ遅らせることで健康維持にもなります。人類の宿命である活性酸素との闘いと共生が生き続けるための鍵なのです。

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