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VOL.304『ベージュ脂肪細胞を知っていますか?』 [体]

◆白色脂肪細胞と褐色脂肪細胞
 脂肪は通常、白色脂肪細胞と褐色脂肪細胞の2つに分けられます。褐色脂肪細胞は脂肪を貯め込まないので中が見えず、外観は若干褐色に見え、首の周囲や肩甲骨・脇の下・腎臓の周囲に集中して存在し、中性脂肪を燃焼する働きをします。白色脂肪細胞は皮下脂肪や内臓脂肪が主で中性脂肪や糖をエネルギーとして貯め込みます。
 生物はあらゆる組織になり得る幹細胞から発生し、それが筋肉細胞や筋肉前駆細胞になっていきます。褐色脂肪細胞は筋肉前駆細胞になった後に発生します。ですから見た目は脂肪細胞ですが働きは筋肉細胞に似ていて、脂肪を貯め込まずに燃焼させることで筋肉を動かすエネルギー作られ、褐色脂肪細胞では脂肪が燃焼するのでエネルギーが作られます。
 褐色脂肪細胞は乳幼児のときに多く存在します。その理由は、母親の胎内に比べて出産後の外は寒いので熱を発生するために褐色脂肪細胞が多く作られるからです。乳幼児の体温が高いのはそのためで、褐色脂肪細胞が熱を多く産生しています。運動をしなくても太らない人はこの褐色脂肪細胞を多く持っています。

◆脂肪の褐色化
 最近、白色脂肪細胞と褐色脂肪細胞の中間的細胞(ベージュ脂肪細胞)が見つかりました。ベージュ脂肪細胞は本来白色脂肪細胞だったのですが、ある刺激を受けると褐色脂肪細胞と似た性質を持つように変化します。これを脂肪の褐色化とかベージュ化と呼びます。ベージュ脂肪細胞は白色脂肪細胞からできていますが、褐色脂肪細胞と同じように中性脂肪を分解する働きや脂肪を燃焼する働きを持っています。脂肪が燃焼する場所は細胞のミトコンドリアで、肺呼吸によって酸素が取り込まれると細胞内のミトコンドリアで酸素を利用して糖や脂肪を燃焼させ、エネルギー源となるATPを作ります。筋肉内のミトコンドリアは身体を動かすために脂肪を燃焼させてATPを産生します。一方、褐色脂肪細胞やベージュ脂肪細胞は身体を動かすためのATPが必要ないのでATPを産生せずに熱を放出します。
 人類は飢餓の時代を生き抜くためにエネルギーを脂肪に貯め込むように進化してきました。褐色脂肪細胞やベージュ脂肪細胞を多く持っている人はエネルギーを無駄に放出し、運動しなくても脂肪が燃焼されるので、太りにくい体質となりました。

◆ベージュ脂肪細胞を増やす刺激
 今や世界中で3人に1人が肥満となっており、日本ではそれ以上です。そこで白色脂肪細胞をベージュ脂肪細胞に変える研究が進んでいます。ベージュ脂肪細胞に変える刺激は、寒冷刺激・食事・運動の3つです。寒い場所では身体が震えるので筋肉を激しく動かして熱を発生させます。この運動がベージュ脂肪細胞を作ります。次に食材は唐辛子・キムチなどのカプサイシン、青魚などに含まれるDHAやEPA、紅茶などのカテキン、ミントのメントールや、ペパーミントのメンチル乳酸があります。辛味成分にはダイエット効果がありますが、健康寿命を短くするという欠点があります。運動刺激では交感神経が活性化され、白色脂肪細胞のベージュ化が進みます。寒い時に乾布摩擦をすると寒冷刺激と運動刺激が受けられベージュ脂肪細胞を増やすことができます。一方、顔が赤くなるほど限界までの激しい運動はグリコーゲンをエネルギー源にするため、脂肪が燃焼せず効果がありません。軽く息がはずむ散歩程度の運動の方が白色脂肪細胞の燃焼には効果的です。運動量が激しくなると必要なエネルギーが酸素を使わずに作られるので効果がないのです。筋肉がエネルギー源とするのは糖と脂肪です。タンパク質はエネルギー源にはなりません。
 40歳を過ぎる頃から毎日一定の時間を作り20〜30分ほどの散歩をすることで肥満が解消されます。食事として必要以上のタンパク質を摂り筋肉を鍛えるよりも白色脂肪細胞をベージュ脂肪細胞に変えることで肥満が防げます。同時に水分補給を忘れずに行いましょう。

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VOL.303『リンパの流れを良くして健康維持を』 [体]

◆むくみは必然(?)
 人間は地球上で重力に逆らって生活しているため、1日中立ち仕事をすると夕方には足がむくみます。デスクワークをしていてもふくらはぎがむくんで靴がきつくなったりします。朝起きて鏡を見ると顔がむくんで見え、冷水で顔を洗ってもすぐには治りません。昨夜のお酒が残っていればそのむくみはなおさらです。特に女性は美容の観点から気になるものです。
 むくみは医学的には浮腫と言います。体内には37兆個ほどの細胞があり、1つ1つの細胞には水分が含まれています。その細胞と細胞の隙間に増えた水分を浮腫と言います。体表面の浮腫は、顔がはれぼったくなったり、下肢にむくみとして現れます。
 地球上に生活している私たちの体液は上から下へと流れ、心臓より下にある静脈血は肢の方に溜まりやすくなります。静脈に溜まった血液の一部は血管壁から細胞の隙間に漏れ出します。この現象は自然の理屈にかなっていて、寝ている状態では顔と肢の位置が同じ高さになるので、行き場所を失った水分が顔に溜まり、顔がむくんだ状態になるのです。宇宙ステーションで生活する宇宙飛行士はいつも顔がむくんで大きくなったように見えます。

◆血液とリンパ液
 身体は血液循環によって血液から酸素と栄養素を各細胞に供給し、代わりに細胞は老廃物や二酸化炭素を排出します。これを回収するのが毛細血管とリンパ管です。老廃物や余分な水分は毛細血管を通して静脈血に戻っていきます。余分な物だけが毛細リンパ管に流れリンパ流となり、リンパ節を通って胸管を介し静脈へ回収されます。その流れは再び心臓に戻り、心臓を介して肺に送られ、酸素を含んだ新鮮な血液に変えられて全身の細胞に送られます。
 リンパ液は細胞の周りの余分な水分を常に回収しており、リンパ管は体内の排水管のような働きをします。ところが、このリンパ液の流れる働きが悪くなれば回収しきれない水分が細胞の周囲に溜まります。これが浮腫の原因となります。全身の浮腫が悪化すれば心不全となり死に至ることもあります。塩分濃度の高い塩辛い食品を食べれば血液中の塩分濃度が高まるので、それを薄めるために水分を欲します。大量の汗をかいた時にも同じように水分が欲しくなります。リンパ管は、ふくらはぎの筋肉が生み出すポンプ作用が正常に働いて、細胞周囲の余分な水分をリンパ管に誘導し回収できれば、その程度の水分量ならなんともありません。大量の水分は腎臓に運ばれ尿として排出されます。腎臓が正常に働いていれば、いくら大量の水分を摂取しても水中毒になることはありません。腎不全患者は水中毒になるので水分量を控えなければなりません。

◆リンパ液の流れを活発に
 新鮮な血液を全身に流すには心臓という強力なポンプが必要となります。ところがリンパ管にはそのようなポンプがありません。自らを押し出す力が弱いため、手助けが必要となります。それがふくらはぎの筋肉です。ふくらはぎをよく揉み解すか、足首をグルグル回すとリンパ液の流れが良くなります。肢をこまめにマッサージすることによってリンパ流は簡単に改善します。整体院などでマッサージをしてもらうとリンパ流が回復するので全身の疲れや肩こり、腰痛や膝痛がなくなります。しかし、この状態は長くは続きません。すぐに元のような状態に戻ります。
 リンパ管の特徴は、毛細リンパ管が皮下脂肪や内臓脂肪の中を通っていることです。肥満ではリンパ液の流れが滞るので健康を害します。水をたくさん飲んで肥満にならないように注意し、散歩などでふくらはぎの筋肉を鍛えることです。
 長時間飛行機に乗ることで起きるエコノミークラス症候群は、下半身のリンパ流が悪化して発症します。静脈内に血栓ができて地上に着いた時、血栓が肺に詰まって肺塞栓症となり、死に至ることもあります。それを防止するにはこまめに水分を補給することです。弱アルカリ性のカルシウムイオン水を飲んで、リンパ液の流れを活発にすることで血液はサラサラとした状態となり、健康維持が可能となります。


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VOL.302『長生きや健康維持に関わる食生活』 [長寿]

◆100歳以上の人の食生活
 日本では100歳以上の高齢者が増えています。長生きをしている人の食生活の特徴を調べると、肉や魚などの動物性タンパク質や大豆製品などの植物性タンパク質をバランス良く少量ずつ摂取していることが分かりました。一般的には高齢になると食事は淡白になり、肉や魚を食べなくなる人が増えますが、免疫機能を高めるためにはそれは有利な食生活とは言えません。だからと言って高齢者が肉を食べることは本当に健康長寿に役立つのでしょうか?60歳を過ぎた人は積極的に肉を食べるべきなのでしょうか?

◆肉や魚の効能
 肉の赤身の部分にはミネラル成分や亜鉛が含まれています。亜鉛は身体の生命維持の基となる新陳代謝に必要な多くの酵素を作る成分やタンパク質の合成、遺伝子情報を伝えるDNAの転写にも関与しています。亜鉛は牛肉に14.5mgと食肉の中で最も多く含まれています。豚肉や鶏肉にも牛肉の半分ほどの亜鉛が含まれています。また、牛肉に含まれるコレステロールは男性ホルモンのアンドロゲンの原料になります。週に1度はステーキを食べ、亜鉛を摂って新陳代謝を盛んにすることで免疫力の増強を図れます。さらに牛肉の赤身に含まれるエラスターゼという酵素は血管や筋肉の腱などを支えるエラスチンという繊維の働きを抑制するので、筋肉をバランス良く保つことで血管の弾力を保ち動脈硬化を予防します。
 徳川幕府、最後の将軍となった徳川慶喜は健康長寿のために豚肉を食べたことが知られています。豚肉はビタミンB1が他の肉よりも多く、焼いて調理するとさらに含有量が増えます。ビタミンB1の働きは糖代謝の補酵素としてブドウ糖をエネルギーに変換します。ビタミンB1が不足すると脳神経が働かなくなり、心臓発作の原因となります。
 牛肉、豚肉と並んで肉の御三家が鶏肉です。まず鶏肉は低カロリーで、タンパク質量は牛肉にも劣りません。なので、鶏肉は成長期の子供や高齢者に適しています。毎日鶏肉を食べても肥満や動脈硬化の心配は要りません。他に羊肉のマトンがあります。マトンは不飽和脂肪酸が多いのでコレステロールや中性脂肪を増やさないため、動脈硬化の予防に役立ちます。また、新陳代謝を活性化するアミノ酸のカルチニンも含まれています。カルチニンが欠乏すると筋肉の働きが低下し、ミオパチーと呼ばれる低血糖を起こし、心筋梗塞を起こすこともあります。カルチニンは身体のエネルギー代謝を参観にし、免疫力を高めます。
 魚類に含まれる不飽和脂肪酸のEPAやDHAの脂肪酸は血管の弾力性や若々しさを維持します。また、日本人はタコやイカをよく食べます。タコにはタウリンが奥含まれており、カキなどの貝類にも多く含まれています。イカは高タンパク質で低脂肪、タコと同じようにタウリンも豊富です。

◆新陳代謝を高めて免疫力を上げよう
 免疫力を高めるには新陳代謝を高めることです。新陳代謝とは体内で行われる生理反応のことであり、すべての臓器が順調に働くことです。新陳代謝を活性化するには亜鉛やカルシウムが必要です。特に女性は更年期以降に女性ホルモンが急激に減少するとカルシウムが溶け出しやすくなってしまうため、カルシウム不足が目立つようになります。すると骨粗鬆症が起きて骨折しやすくなります。肉類や魚介類のタンパク質を摂り、吸収性に優れた弱アルカリ性のカルシウムイオン水を飲むことでカルシウムを補うことが重要です。
 活性酸素は血管の動脈硬化を起こし、老化やガン発症の原因となるのですが、鮭の紅色の色素であるアスタキサンチンはカルテノイドで、活性酸素の働きを抑えます。また魚類には動脈硬化を防ぐEPAやDHAが含まれています。歴史的に魚料理や海藻、魚介類や大豆食品を食べ続けてカルシウムを含む弱アルカリ性の水を飲んできた日本人は知らず知らずのうちに良質のタンパク質やアミノ酸を摂取しており、新陳代謝を活性化することで健康長寿になったようです。

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VOL.301『ゲノム解析で遺伝子の働き方が解ってきた』 [生命]

◆若返りホルモン、マイオカイン
 古くから適度な運動習慣やエクササイズは健康に良いとされてきましたが、運動による筋肉刺激で筋細胞から分泌されるマイオカインが大腸ガンの抑制に作用していることが分かり、その科学的根拠が解明されました。マイオカインは若返りホルモンと呼ばれ、主に太ももやふくらはぎなど下半身の筋肉から分泌されるホルモンです。筋肉運動によってマイオカインは血液中で増加し、大腸粘膜の病変部に直接作用したり、新陳代謝を高めることによって大腸ガンの発症を抑制しています。
 身体を動かすことに関して、古来からインドのヒンズー教でのスクワットやヨガがよく知られていましたが、世界的にもヨガを行うことで血糖値が低下するという論文が多数あります。そしてその効果にマイオカインが関与しているのです。

◆ゲノム医療
 日本には昔から未病という病気があります。なんとなくだるいとか、食欲がない、どうも元気が出ないけれど病院に行って血液検査をしてもどこにも異常が見当たらない…このような状態を未病と呼びます。血液には問題ないが、遺伝子的には異常が生じているということが最近の研究で初めて解ったのです。
 日本未病システム学会の報告によれば、一般的な人間ドックの検査では全て正常範囲内で貧血もなく、肝機能や腎機能も正常だった男性が、倦怠感や食欲低下を訴えて来院したため8000種類の遺伝子を検査したところ、23.1%の遺伝子に変化が見られました。遺伝子レベルでは20%以上が異常を示したことになります。この男性は血液の治療とステロイド薬の投与によって1週間後に体調が回復して元気になりました。今後、未病は遺伝子検査によって病気の早期発見が可能となります。
 日本の遺伝子解析のレベルは世界トップクラスで、東北大学には世界から注目されているToMMo(東北メディカル・メガバンク機構)という施設があります。ToMMoには15万人以上の臨床データとゲノム情報が存在し、バイオバンクとしては世界一と言われています。全ゲノム解読ができる最新解析装置が10台以上あり、スーパーコンピューターが数10台並んでいます。一般的なパソコンのHDDの100万倍以上のデータ容量を持つスーパーコンピューターが数10台あるということです。現在、全ゲノム(30億塩基対)の解析に3100人が成功しており、この情報量は世界一です。このシステムで15万人の日本人の遺伝子を解析し、遺伝情報や体質を計測しています。イギリスのバイオバンクでは遺伝子を中心に情報を集めていますが、日本ではそれに加えてタンパク質や臨床情報、臨床検体などの情報が含まれています。
 ゲノム医療とは、DNAに含まれる遺伝情報を調べて、効率的・効果的にガンや病気の診断・治療・予防を行う医療です。上記の解析装置は一度に100種類以上の遺伝子変異を調べられるので変異がある箇所は分かるのですが、特定できる最適な抗ガン剤は20%ほどだそうです。とはいえ、この装置が未病医療の早期発見の突破口となったことは間違いありません。

◆SOS遺伝子
 未病とともに腎機能に障害を持つ人も増えています。腎臓は血液中の老廃物をろ過し、尿として排泄します。腎機能が低下すると老廃物が体内に溜まって尿毒症を起こし、腎不全へと進みます。そうなると腎臓の働きを人工的に行わなければなりません。2015年の人工透析者は32万人以上となり2兆円産業となりました。2013年、透析関連遺伝子の余命遺伝子が見つかりました。この遺伝子は慢性炎症などのSOS遺伝子と呼ばれます。免疫細胞の中には活性酸素を消去するSOD2というタンパク質があります。SOS遺伝子とSOD2タンパク質のゲノム解析が進めば寿命が延びる可能性が出てきます。未病を早期に発見するゲノム解析装置による新しい医療の開発が進んでいます。健康寿命が伸びそうですね。

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