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VOL.301『ゲノム解析で遺伝子の働き方が解ってきた』 [生命]

◆若返りホルモン、マイオカイン
 古くから適度な運動習慣やエクササイズは健康に良いとされてきましたが、運動による筋肉刺激で筋細胞から分泌されるマイオカインが大腸ガンの抑制に作用していることが分かり、その科学的根拠が解明されました。マイオカインは若返りホルモンと呼ばれ、主に太ももやふくらはぎなど下半身の筋肉から分泌されるホルモンです。筋肉運動によってマイオカインは血液中で増加し、大腸粘膜の病変部に直接作用したり、新陳代謝を高めることによって大腸ガンの発症を抑制しています。
 身体を動かすことに関して、古来からインドのヒンズー教でのスクワットやヨガがよく知られていましたが、世界的にもヨガを行うことで血糖値が低下するという論文が多数あります。そしてその効果にマイオカインが関与しているのです。

◆ゲノム医療
 日本には昔から未病という病気があります。なんとなくだるいとか、食欲がない、どうも元気が出ないけれど病院に行って血液検査をしてもどこにも異常が見当たらない…このような状態を未病と呼びます。血液には問題ないが、遺伝子的には異常が生じているということが最近の研究で初めて解ったのです。
 日本未病システム学会の報告によれば、一般的な人間ドックの検査では全て正常範囲内で貧血もなく、肝機能や腎機能も正常だった男性が、倦怠感や食欲低下を訴えて来院したため8000種類の遺伝子を検査したところ、23.1%の遺伝子に変化が見られました。遺伝子レベルでは20%以上が異常を示したことになります。この男性は血液の治療とステロイド薬の投与によって1週間後に体調が回復して元気になりました。今後、未病は遺伝子検査によって病気の早期発見が可能となります。
 日本の遺伝子解析のレベルは世界トップクラスで、東北大学には世界から注目されているToMMo(東北メディカル・メガバンク機構)という施設があります。ToMMoには15万人以上の臨床データとゲノム情報が存在し、バイオバンクとしては世界一と言われています。全ゲノム解読ができる最新解析装置が10台以上あり、スーパーコンピューターが数10台並んでいます。一般的なパソコンのHDDの100万倍以上のデータ容量を持つスーパーコンピューターが数10台あるということです。現在、全ゲノム(30億塩基対)の解析に3100人が成功しており、この情報量は世界一です。このシステムで15万人の日本人の遺伝子を解析し、遺伝情報や体質を計測しています。イギリスのバイオバンクでは遺伝子を中心に情報を集めていますが、日本ではそれに加えてタンパク質や臨床情報、臨床検体などの情報が含まれています。
 ゲノム医療とは、DNAに含まれる遺伝情報を調べて、効率的・効果的にガンや病気の診断・治療・予防を行う医療です。上記の解析装置は一度に100種類以上の遺伝子変異を調べられるので変異がある箇所は分かるのですが、特定できる最適な抗ガン剤は20%ほどだそうです。とはいえ、この装置が未病医療の早期発見の突破口となったことは間違いありません。

◆SOS遺伝子
 未病とともに腎機能に障害を持つ人も増えています。腎臓は血液中の老廃物をろ過し、尿として排泄します。腎機能が低下すると老廃物が体内に溜まって尿毒症を起こし、腎不全へと進みます。そうなると腎臓の働きを人工的に行わなければなりません。2015年の人工透析者は32万人以上となり2兆円産業となりました。2013年、透析関連遺伝子の余命遺伝子が見つかりました。この遺伝子は慢性炎症などのSOS遺伝子と呼ばれます。免疫細胞の中には活性酸素を消去するSOD2というタンパク質があります。SOS遺伝子とSOD2タンパク質のゲノム解析が進めば寿命が延びる可能性が出てきます。未病を早期に発見するゲノム解析装置による新しい医療の開発が進んでいます。健康寿命が伸びそうですね。

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