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VOL.313『直感力を鍛えて人生を楽しもう』 [脳]

◆大抵のことは顔に出る
 自然界において人の顔ほど多くの情報を効率よく伝えるものはありません。新生児は生まれて1時間ほど経つと、目や鼻、口に表情が出てきます。生後4日目には母親の顔を見分けられるようになり、2週間ほど経つと母親の顔の真似をし始め、徐々に言葉を覚えていきます。通常、顔を見ればその人の性格や年齢・素性・感情・意図・健康状態などがある程度分かります。何を感じているか、何を言いたいかを顔は同時に表現します。偽りの微笑みや心にもないこと・関心を抱いたふりなどは大抵悟られてしまうので『顔は嘘をつかない』とか『ちゃんと顔に書いてある』と言われます。
 網膜から入った情報は視覚経路を通り扁桃体に集められます。外界からの情報は常に流動的なので、脳は途中で変化するものはすぐに切り捨て、朝も夜も変わりなく恒久的なものだけを取り出して海馬に記憶します。人は、対面すると直ちに相手の顔にどのような特徴があるのか無意識に見抜こうとし、特徴的なものは海馬に記憶され蓄積されます。扁桃体では今見た画像と脳内に先住した画像の情報を照合し、同定して分類します。人は本能的に相手の目の動きが気になるため、相手が見ている方向に視線が行きます。手品師はこれを利用して観客の目をそらすために大袈裟に振る舞い、目をそらします。そこにトリックが仕込まれているのです。

◆感覚は影響しあって働いている
 目は見て、耳は聞き、鼻は嗅ぎますが、各々の感覚はお互いに影響しあいながら専用回路を経て脳の領域で情報が処理されます。つまり、脳はあらゆる感覚を総動員して横断的に外界の像を捉えているのです。声を聞いて知るのは耳だけではなく、無意識に相手の顔を見て口の動きを観察しています。また、顔の動きが分からなくても、母音や子音の区別を顎の動き方で推察します。有声子音と無声子音では頬の動きが違い、舌の奥の位置や口の中の空気量でも変わってきます。顔を触ることによって声を確認できたり、匂いで警戒情報を得たりもできます。相手に接近すべきか回避すべきか、気が付かないほどの匂い刺激であっても嗅覚神経細胞は反応し、脳領域は活性化します。食事や飲み物は、舌で感じ、目で色を感じ、鼻で匂いを感じて味を判断します。暗い夜には指に目があるかのように空間的な位置関係が分かったりします。目が見えない人ほど聴覚や触覚が鋭敏で、脳が視覚領域よりも聴覚や触覚領域を拡大させて対応します。

◆直感力は鍛えられる
 感覚の一つとして、直感力を鍛えることができます。直感となる洞察力が冴えると大脳皮質や情報伝達物質が働きます。直感とは一瞬のうちに意識が高まる『勘』なのです。視覚に想像と創造があるように、直感でも想像と創造を巡らせ情報の先読みをします。直感力のある人は大脳辺縁系が発達しており、意識する情報を気に留めめません。固定観念を払いのけ、ある事象だけを歪めて過大評価することもありません。遺伝子が関与し、個人が学習した経験を有効に活用することもできます。その情報を使って判断や言動の根拠にすることもできます。危険を回避して今後生きるための指針ともなります。直感力がついてくると情報が正しいか正しくないかの区別を自然に判断できるようになります。また似顔絵を描くと、その人の特徴を写真よりも分かりやすく強調することができます。常に相手の顔から微妙な感情の変化を瞬時に読み取れるようになり、知らず知らずのうちに新しい人との偶然の出会いが多くなり、その人の第一印象を明確に判断することができるようになります。直感力を鍛えれば、今後の人生で仲良くできる人なのか、相手を見る目ができて人生が楽しくなります。

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VOL.267『何を食べるかで脳の働きが変わる』 [脳]

◆脳に与える栄養素
 6月になり、新入学を果たした学生も環境にだいぶ慣れてきたことでしょう。どこの親も我が子が立派な大人に成長して社会で活躍することを望んでいます。幼児の頃から食べ方や歩き方、話し方、文字の書き方などの生きる術を教え、学ぶ環境を整え、感性を磨き、運動能力を高めるために種々の塾にも通わせます。
 今日、少子化のせいもあり、子供を成功させようと早期からの教育に余念のない親も増えています。そしてどの親も子供の頃には学び、考え、判断し、想像し、人間関係の構築を経験しました。その全ての活動は脳の働きによって生じます。この脳の働きを活性化させるのは栄養素で、幼い頃から毎日、口にする食べ物に脳の働きは大きく左右されるということです。つまり、子供に食べ物を提供する親の責任は重大であると言えるのです。子供の人生を決める大きな要因は脳に与える栄養素なのです。

◆栄養素でIQも変わる
 持って生まれた頭の良さや、遺伝的性質は決して変わるものではないと主張する人がいますが、それには疑問があり、誤りであることが最近の脳科学研究で分かりました。脳の性能は脳内の神経細胞を結びつけるシナプスで決まります。つまり、記憶や思考力、感情、判断力はシナプスを介した情報ネットワークの多さが重要なのです。神経細胞の総数は1000億個、シナプスの総数は3京個とも言われます。ヒトの遺伝子は2000年に解析され、総数は2万3000個ほどであると分かりました。この遺伝子は両親から受け継がれたもので、全ての遺伝子が脳の成長に関与したとしてもシナプスの数には遠く及びません。子供は出生時には脳が未完成のまま生まれ、その後の成長過程において摂取する栄養素や環境、学習からの刺激を受けて大人に向かって成長していきます。
 アメリカのスウォンジー大学は2003年に、ビタミン類とミネラル成分を摂取することによって子供のIQが10以上も上昇し、逆にジャンクフード漬けは子供の脳に悪影響を及ぼすという研究報告を行いました。
 最近キレる子供が増えています。小・中・高校における暴力行為も年々増加する傾向にあります。暴力の特徴にも変化が生じており、今から20〜30年前、暴力を振るうのは特定のグループでしたが、現在は普段温厚な子供が何らかのきっかけで突然キレて暴力に走るケースが増えています。キレる子供に共通する特徴は、感情をコントロールできない・自分の気持ちを言葉で表現できない・他人とコミュニケーションが取れないなどです。
 語学・芸術・スポーツなどの分野において、それらの技術を身につけるには練習しかなく、しかも継続的に行わなければなりません。そして、集中力がなければ学習や練習を繰り返しても効果は出ません。最近の子供は一定時間(20〜30分)椅子に座って教師の言葉を聞くことができないそうです。落ち着きがなく、集中力が持続しない子供が増えているのだそうです。これらの原因が脳の栄養素バランスの欠如なのです。キレる子供は過剰なほど糖分を摂取し、DHAやEPAなどの必須脂肪酸の摂取が不足しています。

◆親の責任は重大
 ヒトは毎日、巨大な脳を動かしています。脳が働くことで心が生まれます。心を具体化したものが言葉であり、言葉を実践したものが行動となります。DHAやEPAの脂肪酸量は脳内の20%を占めています。
 親の最大の任務は子供の学習や運動能力を高めるのに必要な栄養素を提供することです。糖質は脳にとってのエネルギー源です。エネルギー不足になると落ち着きがなくなり、過剰になるとイライラしたり、攻撃的になったり、不安や集中力の欠如につながります。子供を落ち着かせるのに有効なのはカルシウムやマグネシウムで、神経をリラックスさせる効果があります。ミネラル成分が不足しても不安やイライラが起こり攻撃的になります。子供にとってカルシウムやマグネシウムは必須な栄養素なのです。

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VOL.235『脳と健康維持の関係』 [脳]

◆ 脳細胞は新しく作られる
 人は加齢とともに疲れがたまるようになり、朝目覚めると十分寝たはずなのに頭がすっきりせず、1日じゅう体が重く感じたりすることがあります。そしてそれを仕方ないと思って生活しています。しかし、年齢を重ねても記憶力に優れている人もいるし、元気で活力にあふれ、若い頃のように行動力がある人もいます。認知症の発症が早い人もいるし、遅い人もいます。最近の脳科学の急速な進歩によって、このような健康状態の違いに脳の働きが関与することが分かってきました。
 1980年代までの脳科学では、脳の神経細胞は再生して生産されることはないと言われていました。脳神経細胞は20代から徐々に減少し、失われた脳神経細胞は元に戻ることはないと。ところが、最近の研究では脳神経細胞が新しく作られることがわかり、脳の容積が増加する現象がMRI(画像診断)でも確認されています。基本的には、脳の機能は加齢とともに低下します。しかし、脳を毎日意識して習慣として使い続ける人は、脳神経細胞が萎縮しても脳の機能は衰えていきません。つまり、40〜50代からの脳の使い方や働き方を含めた生活習慣が後の人生に大きく影響するということなのです。

◆ 脳のトレーニング
 脳の前頭前野には、司令塔として明確に指示を出す場所があります。脳に入ってきた情報を一時的に保存し、他の情報と組み合わせて思考や計算・判断などの作業をします。これを脳の処理能力と言い、この能力は加齢とともに衰えていきます。50歳を超える頃には20〜30代に比べて30%以上低下します。
 また、思考や計算・判断など物事を考えるときに使う機能を作業機能と呼びます。これは短期の記憶として情報を一時的に保存記憶する機能です。記憶は全てが長期記憶に移行するわけではありません。その選別を行っているのが海馬です。海馬はこれまでの人生で得た膨大な情報を大脳皮質に長期記憶として蓄積するかどうかの判断をする役割を持っています。そして海馬の手助けをするのが海馬の近くに位置し、感情をコントロールする役割の扁桃核です。扁桃核が強く刺激されると、海馬は重要な記憶と判断し長期記憶とします。特に、感情を動かし強く刺激する情報は記憶に残ります。ヒトは、脳の司令塔となる前頭前野、記憶の中枢となる海馬、感情をコントロールする扁桃核、これら全てを使ってあらゆる情報を整理します。ですから加齢とともに衰える上に、増加する情報を整理するために脳のトレーニングが必要となります。このトレーニングが認知症の予防にもなり、脳の機能の低下を防ぐ効果を持っています。毎日、意識もせずに生活していると、50歳前後から周囲にも明確に分かるほど衰えてきます。
 健康の維持も同様です。40代になると体内の血液循環が低下し、基礎代謝が急激に落ちてきます。にもかかわらず若い頃と同じ食生活を続けたり、運動をしないでいると、自然に脂肪が蓄積して体重が増加し、中性脂肪が増えて内臓型肥満となります。脂っこい肉類中心の食生活を続ければ血管壁の動脈硬化が進みますが、症状が現れないのでただの疲労と思って放置してしまいがちです。すると50〜60代で2型糖尿病や脳梗塞、脳出血、心筋梗塞を経験する危険性が高くなります。これが脳の機能を急激に低下させます。

◆ 脳を刺激して健康維持を
 脳は、神経細胞同士がシナプスで結ばれて情報ネットワークを形成し、1つの神経細胞には2000以上のシナプスが結合しています。このシナプスの結合数は40〜50代で決まります。シナプス数が減少すれば認知症の方向に進むので、10〜20年後に大きな違いとなります。定年後に急激に人的交流を失う人などは、脳に受ける情報量が極端に減るため記憶力の低下が急激に進みます。
 30〜50代の生き方、食生活のバランスや適度な運動習慣、そして弱アルカリ性でミネラル成分を豊富に含む水をたっぷり摂取することがその後の健康や人生を大きく左右し、認知症の発症を遅らせることにつながります。

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VOL.209『子供のストレスは要注意』 [脳]

◆幼少期のストレスが健康に影響
 近年、脳科学の急激な進歩により、心と体の病気を引き起こすストレスについて解明されてきました。特に、幼少期の環境が極めて大きな要因となることが分かってきており、子供の頃の強いストレス体験が大人になってからのストレスに対する耐性を弱め、脳に障害を与えるというのです。
 子供の頃に虐待・いじめ・ネグレクト(育児放棄)などを受けた人の出来事を点数化し、子供時代のストレス量を集計した調査があります。同時に脳の扁桃体を調べたところ、幼少期のストレス量が多い人ほど、大人になってから扁桃体が敏感に反応することが分かりました。そのような人は毎日の不安や恐怖といった刺激に対し、実際に経験している以上により大きなストレスを感じたり、ストレス状態が長く続いてしまいます。

◆報酬系と扁桃体
 脳におけるストレスへの反応メカニズムは報酬系と呼ばれています。報酬系とは、人に快感を与える系列で、美味しいものを食べた時、お金がたくさん入ってきた時などに働く神経の興奮です。ヒトは常にこうした快感を与えてくれるものを追求することで意欲が高まります。このように脳内の報酬系が刺激され働く際に関与するのが扁桃体です。つまり、脳は辛いことが終われば報われたいし、快感を覚えます。これが報酬系です。
 ところが、子供時代に大きなストレスを受け続けた人は、この報酬系がうまく作動しません。通常なら、ストレスを受けた後には脳の報酬系が働いてストレス反応の暴走にブレーキをかけるのですが、報酬系の働きが低下しているので、ストレス反応が大きくなり長期化してしまうのです。
 子供の頃に虐待を受けた人が自分の子供を虐待するケースも少なくありません。これは、ストレス刺激によって遺伝子が傷つけられ、記憶として残っているためです。遺伝子が傷つけられると、若くても老化が進みます。細胞の年齢と実際の年齢の違いを測定してみると、ストレスを受けた子供では老化が早いことが分かっています。このような現象を遺伝子DNAのメチル化と呼びます。遺伝子のメチル化とは、遺伝子が老化した状態をいいます。細胞が分化して成熟すると、その後は細胞死に向かいます。これが細胞のメチル化です。ストレスを受けた子供の健康状態について調査した結果では、細胞の加齢と病気の発症に相関性が見られました。11〜12歳の子供を10年間にわたり追跡調査した結果でも、成人になってからのライフスタイル・家庭環境・家族との関係・健康状態など、全てにおいて遺伝子の老化傾向が見られました。強いストレスが遺伝子の老化を早めるようです。この傾向は40代、50代、60代になっても続き、心臓疾患や脳卒中・糖尿病・ガンなどになる確率も高くなっています。
 また、通常、ストレスホルモン値(コルチゾール)は朝に最も高く、寝る前に減少するのですが、強いストレスを経験するとコルチゾール値が変化しなくなります。子供の頃のストレスで体内の炎症反応が活発化し、コルチゾール値が減少しなくなるのです。

◆ストレスから子供を守ろう
 ストレスによる脳の傷は治らない傷ではありません。今日、ストレス社会から子供を守る研究が進んでおり、効果的なホルモン投与や生活環境の改善による脳の回復治療が行われています。また、子供の頃に受けた強いストレスは成人になっても長く影響することから、精神的治療も必要とされています。
 サルでの実験では、子供の頃に親から子育てを放棄されたサルは自分が親になっても子供を育てないことが証明されています。人間でも、虐待された子供は親になって自分の子供を虐待する傾向があります。このような連鎖は止めなければなりません。ストレスがさまざまな病気の素となることも分かっています。21世紀はガン対策よりもストレス対策が重要なのかもしれません。

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VOL.200『脳を活性化させる神経幹細胞』 [脳]

◆新しく増え続ける神経幹細胞
 脳の神経回路の働きは成人を過ぎると衰える一方だとか、毎日数千個の細胞が破壊されているなどと言われますが、最近の研究では、決してそんなことはないということが分かりました。人の脳は500万年にわたる進化の過程で変化し続け、その環境に適応していくために特別な装置を組み込んできたのです。
 脳の中には、今も新しく増え続けている神経細胞があります。それが神経幹細胞です。神経幹細胞は5〜50億個存在し、脳細胞全体の5%を占めています。海馬という記憶を生み出している場所では神経幹細胞が日々新しくニューロン(神経回路)を作っています。つまり神経幹細胞とは、記憶を作り出すためにある特別な仕組みなのです。脳はどんなに歳を重ねても幸福を感じ続けていたいために成長し、進化し続けているのです。

◆活力を失っているだけ
 近頃、若い人の話についていけないとか、自分には到底縁のないジャンルの話に対して参加する気持ちが起きないなど、興味も好奇心もなく、物忘れが多くなる…これは脳細胞が壊れたのではなく、神経細胞が萎縮してきた兆候です。脳細胞の数は変わりませんが、活力を失ってきているのです。かつて、脳細胞は1日に10万個以上死滅するとか、一切生まれ変わらないという俗説がありました。しかし、脳細胞の数は健康であれば劇的に減ることはありません。大部分の脳細胞は生まれ変わらないのですが、唯一海馬の歯状回では日々生まれ変わり、新生ニューロンを増やしているのです。急激に脳細胞が減少するのはアルツハイマーやパーキンソン病などの慢性的な病気です。
 脳細胞は、樹状突起と呼ばれる神経突起がシナプスという回路を使って情報伝達します。歳をとると、この神経細胞1つ1つのパワーが低下し、信号や刺激が伝わるスピードが落ちてきます。つまり、神経細胞の処理能力が落ちて気力や活力が低下するので、脳が衰えたと感じるのです。脳が衰えるスピードを遅らせるには脳に刺激を与えることです。物事に感動するとか、仕事や趣味に夢中になるとか、新しいことにチャレンジするのがいいでしょう。このような刺激を受けると脳は、ドーパミンやノルアドレナリンなどの神経伝達物質を分泌させ、脳細胞を活性化させます。脳はいつでも新鮮で驚きのある刺激を求めているのです。いつもと違う変化や予期しない出来事に対応することが生じると、脳細胞は今まで使ったことがない別の神経回路を使って情報を処理します。別の神経回路を使うことで新しい神経回路が伸びるのです。新しい出会いや感動が毎日をイキイキと過ごす脳の栄養源となるので、若々しく輝いて見えるようになります。

◆新しいことにチャレンジしてみよう
 新生ニューロンは神経幹細胞が作ります。そして、新生ニューロンの活性化を補助する役割を担うのが神経伝達物質のGABAです。GABAは既存の神経ニューロンに対しては落ち着かせるように抑制的に働きますが、若いニューロンに対しては興奮させ活動を高めるように働きます。また、GABAの刺激を受けることで神経幹細胞は神経ニューロンへと成長します。神経幹細胞に対してGABAは必要不可欠な栄養素です。新生ニューロンの働きは記憶力の向上であり、思考力・発想力・意欲などを高め、嫌な記憶を消し、ストレスに対して抑制的に働き、適応力を高めるなどです。
 今日、神経幹細胞の存在が確認されているのは海馬の歯状回・脳室・大脳新皮質の3カ所です。ところが、新生ニューロンになるのは海馬の神経幹細胞のみです。今まで経験したこともない難問や、新しい課題にチャレンジすると、今まで使っていた神経回路では間に合わないので、新しい神経回路が作られ、気力が高まります。脳を活性化し、認知症を予防するために、新たな刺激を求めたり、新しいことにチャレンジして脳の神経幹細胞を増殖させ、活性化してみませんか。

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VOL.158『IQが高いとは?』 [脳]

◆IQテスト
 今日のストレス社会では、人間関係がうまくいく人・うまくいかない人、頭の良い人・悪い人などと区別されたりしますが、本当に頭が良いとはどういうことでしょうか。目安のひとつにIQがあります。IQテスト(成人知能検査)は1933年に開発され、医療・教育・福祉など幅広い分野で活用されています。IQテストは言語能力と数学能力に加えて、空間図形能力を測る知能検査で、これらをいかに速く理解し、把握できるかという処理速度で判断します。これらの能力には相関性があるからで、言語能力が低ければ計算能力も低く、空間図形の能力も低いということになります。
 IQテストは、同じ人が受けると10歳でも20歳でも同じような結果になるように作られています。IQが家族に遺伝するかどうかを調べると、親子では共有率が50%、兄弟姉妹では50%、祖父母や孫は25%、叔父・叔母・甥・姪で25%、一卵性双生児では100%、二卵性双生児では50%となりました。但し、これに環境因子が加わるので実際の数値は変わってきます。また、いくらIQが高くても勉強しなければ良い成績は得られず、逆に一生懸命勉強すればIQが高い人よりも良い成績が得られることもあり、IQと学力との相関関係については分かっていません。学力においては環境要因の占める割合が大きいといえるでしょう。社会に出てからは、人間関係能力やコミュニケーション力にさまざまな因子が絡んでくるので、社会性とIQの高さに関係性があるかどうかには疑問が生じます。

◆記憶力と睡眠
 IQを高める項目のひとつに記憶力があります。記憶力の良さは頭の良さを決定する要素となります。記憶力は生まれつきや遺伝で決まるのでしょうか。記憶には脳の海馬が関係しています。海馬は貧血に対して非常に弱く、海馬に血液が行き渡らないと短期記憶が悪くなります。この現象は認知症の初期段階にも見られます。認知症の初期にはついさっきの行為である短期記憶が失われますが、昔のことはよく覚えています。短期記憶は海馬や側頭葉で蓄積されますが、長期記憶の方は大脳全体のさまざまな部分に断片的に蓄積され、それが神経細胞の情報ネットワークによって呼び起こされます。
 短期記憶から長期記憶への移行は睡眠中に行われます。睡眠は昼間の不必要な記憶を消去して、大事な記憶だけを残す働きがあります。記憶力を高めるには睡眠が不可欠なのです。脳神経の情報ネットワークにはシナプスが関与しており、神経線維内を流れた電位信号は、シナプス内の神経伝達物質が情報を伝達します。精神遅滞(IQは極めて低い)の人は神経伝達物質の分泌が少なく、不規則です。精神遅滞の人が物覚えが悪いのは、脳の神経細胞の回路がつながりにくくなっているからです。

◆脳を活性化しよう 情報回路を活性化し、記憶力を高めるには単純な練習の繰り返しが最も効果的です。反復練習を3回以上することで、脳の神経細胞が刺激され、長期記憶となります。暗記力は生まれつきの遺伝で決まるようですが、いくらIQが高くて頭が良い素質を持っていても、集中力がなければ能率は上がりません。集中力は遺伝よりも環境要因に左右されます。好奇心の強い人は脳内の神経伝達物質が活性化されるので、集中力が高まります。日常生活の中で、いろいろなことに興味を持ち、初めてのことにも挑戦し体験する機会を増やすことで、いつまでも脳を活性化させておくことが認知症の予防につながります。


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VOL.146『三つ子の魂百までと言いますが…』 [脳]

◆子供は憶えている?
 1991年、チェンバレン医師は『3歳前後の幼児は胎内での経験や自分が生まれた時のことを記憶していて話したりする』と発表しました。胎内にいる時は周囲が明るく、丸く、眩しかったなどと記憶しているというのです。また、9歳から23歳を対象にした催眠状態で出生児のことを思い出すという実験では、お腹の中の自分のことを医師と母親が話しているとか、母親がベッドで自分を抱いているということを覚えているという結果が出ました。
 これらの事例は、脳科学の世界では支持されてはいません。胎児期や新生児期には、経験を記憶する長期のエピソード記憶を支える脳が未発達で構築されていないと考えられているからで、その時期のことを覚えているというのは不確実な記憶であると結論しているからです。私たちが幼児期の記憶だと思っていることの中には、後で人から聞いたり、写真などで付け加えられたことが入っており、本人はそのことに気づいていないことが多いものです。これが幼児期の脳の発達の概念である刷り込み現象(インプリンティング)です。雁は生まれて最初に見たものを母親と認識し、脳に刷り込まれるという有名な話があります。刷り込み現象は雛が生き延びるために必要な現象です。ヒトの乳児の脳の発達でも刷り込み現象の臨界期があります。

◆幼少期が脳の発達を決める
 乳児の脳内のシナプスは成人と同じくらいの密度です。新生児期には成人の1.5倍あり、最大の密度ですがその後は急速に減少し、思春期から16歳頃までに30%ほどが失われます。すなわち、幼少期の生活環境が脳の発達を決めるのです。
 言語を身につける時期にも臨界期があるといいます。狼少女カマラの話は有名で、カマラは幼児期に狼に育てられたため、大きくなっても言語を理解せず、四つ足で歩き回り、夜になると遠吠えをし、鶏を見ると飛びかかって生のまま食べてしまいました。17歳まで生きましたが、ついに言葉を話すことなく死亡しました。このように、幼児期の環境は事象が脳に刷り込まれ、子供は人間にも狼にもなるのです。これが臨界期で、年齢とともに影響は少しずつ減少します。
 例えば、生まれた時から2つの言語に接していると、2つの言語中枢は一致するのでバイリンガルになります。完全なバイリンガルになるには3〜5歳くらいの間の環境が重要で、この時期に言語的知性が構築されます。つまり、この間に学習の臨界期が存在するということなのです。3歳頃までに人の基本的な知性は決まってしまうので、その間に良い環境下で刺激を与えることが大切です。

◆お稽古ごとはいつから?
 ヒトを含めた哺乳動物には、インプリンティング(刷り込み現象)の臨界期の間に受ける刺激が人生に極めて大きな影響を及ぼします。特に、脳の神経細胞は胎児期後期(妊娠後期)に盛んに分裂し、脳の形と構造(神経ネットワーク)が作られます。生後、脳の機能が急激に発達するこの時期の外界からの刺激は脳に多大な影響を与えます。
 幼児期からの習い事やお稽古ごとは脳の機能にどのような影響を与えるのでしょう?多くの人が幼い頃からの習い事を推奨しています。しかし、脳が発達した後の方が良いとする人も少なくありません。どちらが良いかは今後のさらなる研究を待ちたいと思います。

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