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VOL.299『100歳以上の長寿者に免疫力を学ぶ』 [長寿]

◆100歳以上の長寿者が増えている
 近年、日本では100歳以上の長寿者が急激に増えています。1980年代は1000人以下だったものが、1998年には1万人を超え、2012年には5万人、2019年には7万人を超えました。さらに2015年の国勢調査では110歳以上のスーパーセンチナリアンが146人おり、そのうち9人が男性、137人は女性でした。
 2019年に理化学研究所と慶応大学医学部研究センターが共同でスーパーセンチナリアン7名の血液を調べたところ、免疫細胞、特にキラーT細胞の中にあるCD4陽性と呼ばれる免疫細胞が20〜80代の人に比べて10倍以上も多く存在することが分かりました。つまり、110歳以上まで生きる人には免疫細胞に秘密があったのです。過去にも長生きする人と短命な人の違いはその人に備わった免疫力の差であるという報告がありましたが、その原因は生活習慣でした。長寿を目指すには免疫力を高めることが不可欠なようです。通常は加齢に伴って免疫力は低下するため、ガンの発症やウイルス感染症のリスクが高まるものなのですが、長寿者は免疫力が高いため致命的な病気を回避でき高齢になっても免疫機能が良好な状態を保つことができます。

◆免疫力を高める方法
 人間は、生まれつき持っている自然免疫と後天的に獲得した獲得免疫によって生命が維持されています。獲得免疫の主役を占めるのがリンパ球です。超長寿者ではリンパ球自体の生命力が驚異的に強いことが分かっています。リンパ球には、リンパ球、顆粒球(好中球・好酸球・好塩基球)、単球(マクロファージ)、単球から分化した樹状細胞があります。
 細胞の寿命は赤血球が120日、血小板が8〜12日であるのに対してリンパ球は数十年も生きられます。リンパ球はなぜそんなに長く生きられるのでしょうか?自然の中で人類が
生命を長く維持できるようになったのは免疫という防衛機能を獲得できたからです。絶えずウイルスや細菌の攻撃を受け、生存競争に明け暮れていた人類は、リンパ球が存在しなければ地球上で生存できなかったでしょう。21世紀に入ってからもSARSやMARS、今回の新型コロナウイルスなどによって生命を脅かされています。
 人類はウイルスとの生存競争に打ち勝つだけの武器をまだ手に入れていません。それまでは体内の免疫力を高める努力をしなければなりません。リンパ球に守ってもらえるよう、全身全霊を傾けるしかないのです。免疫力を高める免疫細胞の70%は腸管内に存在し、免疫が長寿の鍵を果たす役割を腸管免疫と呼びます。腸内には膨大な数の腸内細菌が住み着いています。健康な人では善玉菌が20%、悪玉菌が10%、日和見菌が70%の割合で存在し、このバランスが崩れると体調が悪化します。
 腸内細菌叢の中には腸管免疫細胞群と呼ばれる免疫細胞の集団が存在し、小腸粘膜には免疫力を高めるパイエル板があります。このパイエル板に免疫細胞が触れるだけで免疫細胞は攻撃的になり、ウイルスや細菌の特徴や戦い方を学習します。この教育を受けた免疫細胞が腸内から全身に拡散されて免疫力を高めます。

◆免疫細胞を活性化するために
 腸管免疫力には体内時計が関与しています。体内には24時間周期の体内時計が組み込まれており、その中枢は視床下部にあって朝と夜の生体リズムを調節することで生命活動を促します。その結果、免疫細胞やリンパ球、キラーT細胞が活性化します。朝に太陽を浴びることで活性型ビタミンD3が働いてカルシウムの腸からの吸収を高め。活性型ビタミンD3のカテリシジンと呼ばれるアミノ酸を生合成します。カテリシジンは免疫力を強化します。免疫力の強化にカルシウムは補助的な役割を果たします。体内時計が乱れるとリンパ球やキラーT細胞が活性化しません。若い人の中には昼間寝ていて夜になると仲間と食事や酒を飲みに出かける人がいます。そういう人は免疫力が落ちているので集団で新型ウイルスに感染する恐れがあります。40代を過ぎるとさらに感染しやすくなります。体内時計の乱れを直し、朝の太陽を浴びて免疫細胞を活性化し、スーパーセンチナリアンを目指しましょう。
 
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VOL.298『オートファジーで若々しく』 [体]

◆オートファジーとは
 2016年に大隈良典教授は世界で初めてオートファジーの分子レベルでのメカニズムを解明した功績が認められ、ノーベル生理学・医学賞を受賞されました。オートファジー(自食)は人体における生産と破壊の根源で、語源はギリシャ語の『自ら』と『食べる』を組み合わせた言葉です。自らを食べるという意味で自食作用とも訳されます。

◆オートファジーの役割
 人間のカラダは37兆個ほどの細胞からできていますが、その中で古くなった細胞は自らを壊して食べるオートファジーを行っています。老化して衰えた細胞が生まれ変わる、オートファジーこそ老化予防と若返りに不可欠な仕組みであり、ヒトの体内で繰り返される見事な
リサイクルシステムなのです。
 細胞の寿命やリサイクルのスピードは細胞の種類によって異なります。例えば、腸内壁をつくる腸粘膜の上皮細胞は3〜5日で新しい細胞が古い細胞と入れ替わります。そして古い腸粘膜が剥がれ落ちて塊となったものが糞便の主成分です。皮膚の表皮細胞は約1ヶ月、赤血球は約4ヶ月で入れ替わります。怪我をして血が出た時、出血を止めるのが血液成分の中の血小板ですが血小板は約2週間でオートファジーされます。細胞の誕生から寿命までの期間もそれぞれの細胞によって異なり、それは細胞の働き方にも関係します。労働力が大きい細胞ほど寿命は短くなります。ヒトの細胞の中で最も寿命が短いのは腸粘膜の上皮細胞です。寿命が来た細胞は細胞室内にあるミトコンドリアや小胞体などの微細構造を含めて次々にオートファジーして入れ替わります。部屋が掃除をしないとゴミが溜まるよう体内も掃除をしなければゴミが溜まるので、体内の細胞ではオートファジーが絶えず繰り返されています。
 細胞の主成分はタンパク質です。体内では2万種類以上のタンパク質が分解されて20種類のアミノ酸を作ります。そのアミノ酸から再び2万種類以上のタンパク質が作られます。つまり、古くなった細胞は自食されタンパク質がアミノ酸に分解されます。分解されたアミノ酸は生産のためリサイクルに回されます。再生する際にはリサイクルできないゴミとなるタンパク質もあります。細胞はオートファジーによって再生できないタンパク質をゴミとして体外に排出します。このゴミ出しが出来ているため体内はいつもクリーンで良質な環境を保つことができ、それが老化防止や健康維持に役立ち、病気にかかりにくくしています。逆に36〜37℃の体内に長時間放置されたゴミタンパク質は腐敗が進みます。そこで細胞はゴミタンパク質ができないようにオートファジーをして体外へ排出します。それが毎日の排便や、排尿・発汗で体内の老廃物や不要物は体外に排出されています。

◆オートファジーが働かないと…
 皮膚は内臓を映す鏡と言われます。皮膚や毛髪には如実に体内の状態が現れるからです。体内のゴミ出しが上手くいっていないと皮膚や毛髪が明らかに老化していきます。体内の毛細血管はオートファジーによって細胞が出したゴミを回収しますが、細胞からゴミを上手く回収できなかったり、腸粘膜からゴミが毛細血管を介して血液中に戻されたりすると、これが病気の原因となる炎症を引き起こします。体内の不要なゴミ(タンパク質)は免疫機能を低下させ、急性炎症は徐々に慢性炎症へと移行して体調不良や老化現象の症状が出てきます。その現象は特に、40歳を過ぎる頃から運動不足も加わって、肌荒れやシミ・シワ・抜け毛・白髪・薄毛など皮膚や頭表面で明確になっていきます。同時にお腹周りが膨らんで肥満型になっていきます。これらの症状は慢性炎症の度合いが進んでいることを示します。
 日本では近年長寿者が増え、100歳を超える人の数が世界一多い国となりました。彼らはオートファジーの機能が正常に働き、体内にゴミが溜まらない体質や体内環境だったのです。若い頃から暴飲暴食や昼と夜が逆転した生活をしている人は老化するスピードが速くなります。新型コロナ感染症が若者を中心に拡大していますが、彼らは無症状なので気づかないことが多く、オートファジーが正しく働いていない可能性が高いので、慢性疾患へと移行していく可能性があります。予防の基本は規則正しい生活習慣と、毎日飲む水にあります。

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