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VOL.209『子供のストレスは要注意』 [脳]

◆幼少期のストレスが健康に影響
 近年、脳科学の急激な進歩により、心と体の病気を引き起こすストレスについて解明されてきました。特に、幼少期の環境が極めて大きな要因となることが分かってきており、子供の頃の強いストレス体験が大人になってからのストレスに対する耐性を弱め、脳に障害を与えるというのです。
 子供の頃に虐待・いじめ・ネグレクト(育児放棄)などを受けた人の出来事を点数化し、子供時代のストレス量を集計した調査があります。同時に脳の扁桃体を調べたところ、幼少期のストレス量が多い人ほど、大人になってから扁桃体が敏感に反応することが分かりました。そのような人は毎日の不安や恐怖といった刺激に対し、実際に経験している以上により大きなストレスを感じたり、ストレス状態が長く続いてしまいます。

◆報酬系と扁桃体
 脳におけるストレスへの反応メカニズムは報酬系と呼ばれています。報酬系とは、人に快感を与える系列で、美味しいものを食べた時、お金がたくさん入ってきた時などに働く神経の興奮です。ヒトは常にこうした快感を与えてくれるものを追求することで意欲が高まります。このように脳内の報酬系が刺激され働く際に関与するのが扁桃体です。つまり、脳は辛いことが終われば報われたいし、快感を覚えます。これが報酬系です。
 ところが、子供時代に大きなストレスを受け続けた人は、この報酬系がうまく作動しません。通常なら、ストレスを受けた後には脳の報酬系が働いてストレス反応の暴走にブレーキをかけるのですが、報酬系の働きが低下しているので、ストレス反応が大きくなり長期化してしまうのです。
 子供の頃に虐待を受けた人が自分の子供を虐待するケースも少なくありません。これは、ストレス刺激によって遺伝子が傷つけられ、記憶として残っているためです。遺伝子が傷つけられると、若くても老化が進みます。細胞の年齢と実際の年齢の違いを測定してみると、ストレスを受けた子供では老化が早いことが分かっています。このような現象を遺伝子DNAのメチル化と呼びます。遺伝子のメチル化とは、遺伝子が老化した状態をいいます。細胞が分化して成熟すると、その後は細胞死に向かいます。これが細胞のメチル化です。ストレスを受けた子供の健康状態について調査した結果では、細胞の加齢と病気の発症に相関性が見られました。11〜12歳の子供を10年間にわたり追跡調査した結果でも、成人になってからのライフスタイル・家庭環境・家族との関係・健康状態など、全てにおいて遺伝子の老化傾向が見られました。強いストレスが遺伝子の老化を早めるようです。この傾向は40代、50代、60代になっても続き、心臓疾患や脳卒中・糖尿病・ガンなどになる確率も高くなっています。
 また、通常、ストレスホルモン値(コルチゾール)は朝に最も高く、寝る前に減少するのですが、強いストレスを経験するとコルチゾール値が変化しなくなります。子供の頃のストレスで体内の炎症反応が活発化し、コルチゾール値が減少しなくなるのです。

◆ストレスから子供を守ろう
 ストレスによる脳の傷は治らない傷ではありません。今日、ストレス社会から子供を守る研究が進んでおり、効果的なホルモン投与や生活環境の改善による脳の回復治療が行われています。また、子供の頃に受けた強いストレスは成人になっても長く影響することから、精神的治療も必要とされています。
 サルでの実験では、子供の頃に親から子育てを放棄されたサルは自分が親になっても子供を育てないことが証明されています。人間でも、虐待された子供は親になって自分の子供を虐待する傾向があります。このような連鎖は止めなければなりません。ストレスがさまざまな病気の素となることも分かっています。21世紀はガン対策よりもストレス対策が重要なのかもしれません。

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