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VOL.146『三つ子の魂百までと言いますが…』 [脳]

◆子供は憶えている?
 1991年、チェンバレン医師は『3歳前後の幼児は胎内での経験や自分が生まれた時のことを記憶していて話したりする』と発表しました。胎内にいる時は周囲が明るく、丸く、眩しかったなどと記憶しているというのです。また、9歳から23歳を対象にした催眠状態で出生児のことを思い出すという実験では、お腹の中の自分のことを医師と母親が話しているとか、母親がベッドで自分を抱いているということを覚えているという結果が出ました。
 これらの事例は、脳科学の世界では支持されてはいません。胎児期や新生児期には、経験を記憶する長期のエピソード記憶を支える脳が未発達で構築されていないと考えられているからで、その時期のことを覚えているというのは不確実な記憶であると結論しているからです。私たちが幼児期の記憶だと思っていることの中には、後で人から聞いたり、写真などで付け加えられたことが入っており、本人はそのことに気づいていないことが多いものです。これが幼児期の脳の発達の概念である刷り込み現象(インプリンティング)です。雁は生まれて最初に見たものを母親と認識し、脳に刷り込まれるという有名な話があります。刷り込み現象は雛が生き延びるために必要な現象です。ヒトの乳児の脳の発達でも刷り込み現象の臨界期があります。

◆幼少期が脳の発達を決める
 乳児の脳内のシナプスは成人と同じくらいの密度です。新生児期には成人の1.5倍あり、最大の密度ですがその後は急速に減少し、思春期から16歳頃までに30%ほどが失われます。すなわち、幼少期の生活環境が脳の発達を決めるのです。
 言語を身につける時期にも臨界期があるといいます。狼少女カマラの話は有名で、カマラは幼児期に狼に育てられたため、大きくなっても言語を理解せず、四つ足で歩き回り、夜になると遠吠えをし、鶏を見ると飛びかかって生のまま食べてしまいました。17歳まで生きましたが、ついに言葉を話すことなく死亡しました。このように、幼児期の環境は事象が脳に刷り込まれ、子供は人間にも狼にもなるのです。これが臨界期で、年齢とともに影響は少しずつ減少します。
 例えば、生まれた時から2つの言語に接していると、2つの言語中枢は一致するのでバイリンガルになります。完全なバイリンガルになるには3〜5歳くらいの間の環境が重要で、この時期に言語的知性が構築されます。つまり、この間に学習の臨界期が存在するということなのです。3歳頃までに人の基本的な知性は決まってしまうので、その間に良い環境下で刺激を与えることが大切です。

◆お稽古ごとはいつから?
 ヒトを含めた哺乳動物には、インプリンティング(刷り込み現象)の臨界期の間に受ける刺激が人生に極めて大きな影響を及ぼします。特に、脳の神経細胞は胎児期後期(妊娠後期)に盛んに分裂し、脳の形と構造(神経ネットワーク)が作られます。生後、脳の機能が急激に発達するこの時期の外界からの刺激は脳に多大な影響を与えます。
 幼児期からの習い事やお稽古ごとは脳の機能にどのような影響を与えるのでしょう?多くの人が幼い頃からの習い事を推奨しています。しかし、脳が発達した後の方が良いとする人も少なくありません。どちらが良いかは今後のさらなる研究を待ちたいと思います。

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