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VOL.226『肥満対策となる新たな分化誘導因子の発見』 [体]

◆肥満対策の朗報
 脳梗塞や心筋梗塞につながるメタボリックシンドローム:内臓脂肪症候群、通称メタボや肥満症の予防または抑制には、食事の減量や運動などで生活習慣を改善することが基本とされていますが、それを長期間継続することは極めて難しいことです。
 2017年9月、東京大学の研究グループはエネルギーを消費してくれる細胞を薬で増量し、活性化するという新たな治療法を発見し、報告しました。かなりの朗報です。

◆エネルギー消費促進を誘導する因子
 メタボや肥満の対策にはエネルギー摂取量を抑制することと、摂取したエネルギーの消費を促進するという2つの方法があります。そこで、治療を行う上で、脂肪治療法を使って減量させる手術などを行うことで摂取量の抑制を行ってきました。ところが、食欲は記憶として定着しているため、脳内の食欲中枢に作用して食欲を抑制する肥満治療薬では、うつ病や自殺のリスクが生じるなどの副作用があり、問題となっていました。また、欧米で多く実施されている小腸の一部を切除し付け替えることで消化吸収を抑える減量手術は効果が確認されていますが、カラダへの負担が大きいのが問題でした。それらを解決すべく、東京大学・糖尿病代謝内科では、脂肪を蓄積させずに燃やす方向に働く褐色脂肪細胞を増殖させ、この細胞を活性化させることでエネルギー消費を促進し、減量する方法の研究を続けてきました。
 脂肪細胞には、エネルギーの貯蔵庫として知られる白色脂肪細胞の他に、寒冷下で体温を保つために熱を作り出しエネルギーを活発に消費する褐色脂肪細胞があります。褐色脂肪細胞は、ヒトでは新生児の頃にしか存在しないと思われていました。ところが最近になって、成人にも首や肩甲骨・鎖骨・腎臓の周囲に存在することが確認されたのです。この褐色脂肪細胞には、筋肉の元となる筋芽細胞が分化し、発育してできるという特殊性があるので、筋芽細胞を利用しようと考えましたが、筋芽細胞は通常、筋細胞に直ちに分化してしまうため褐色脂肪細胞にはなりません。そこで褐色脂肪細胞に分化するように誘導する因子の探索が世界中で研究されるようになりました。研究が進む中、東京大学のグループはマウスのDNA解析からNFIAと呼ばれる新たな誘導遺伝子を発見しました。NFIA遺伝子が欠損したマウスは褐色脂肪細胞の遺伝子プログラムに大きな障害が起きることを突き止めたのです。過去にはPRDM16と呼ばれる誘導遺伝子が見つかっていましたが、PRDM16遺伝子だけでは十分に褐色脂肪細胞を誘導することができませんでした。そこで世界中で褐色脂肪細胞を誘導するための2つ目の遺伝因子の発見が待たれていました。
 脂肪細胞といえば、通常白色脂肪細胞のことを指します。しかし白色脂肪細胞の中に極めて少量で低い能力ではありますが、熱を作り出し、エネルギー消費を行う性質を持つベージュ細胞と呼ばれるものがあることが分かりました。そこで、脂肪細胞になる前の細胞にNFIA因子を導入することで白色脂肪細胞でも褐色遺伝子のプログラムを活性化できることを突き止めたのです。つまり、NFIA因子を導入することでベージュ細胞を作ることを可能にしたのです。

◆肥満対策の切り札
 NFIA因子の発見の報告は、イギリスの科学誌『ネイチャー・セル・バイオロジー』の8月15日付オンライン版に掲載され、国際的にも反響を呼んでいます。10年以内にはNFIA因子(遺伝子)の量を増量し、褐色脂肪細胞を活性化させる飲み薬を開発したいと考えられています。
 NFIA遺伝子には筋肉を増やす作用がないので、体力を増進し、維持するためには運動することが重要であることには変わりありません。肥満防止には運動は不可欠です。しかし、エネルギー消費細胞であるNFIA遺伝子は、肥満対策の切り札となる可能性を秘めています。薬の開発が期待される話題です。

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