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VOL.279『ストレスは病気をつくる』 [健康]

◆副腎皮質ホルモン
 長寿の秘訣は健康を保って生きることです。江戸時代の医師だった貝原益軒は健康を守る上で大事なのは心を穏やかにして平常心を保つことだと言っています。つまり、ストレスを受けないで生きることです。ストレスに対する感受性には個人差があり、同じストレスを受けても全く大丈夫な人もいれば、心と身体に大きな影響が出てしまう人もいます。なぜ人によって差が出るのかについてはまだ良く分かっていません。
 ひとつ分かっているのは、ストレスがかかった時に分泌される副腎皮質ホルモンの量が増えると、免疫細胞、特にT細胞の機能を抑制する作用があるということです。事実、副腎皮質ホルモンはステロイド剤として炎症や過剰な免疫反応を抑える治療薬として使用されています。ストレスが多いと副腎皮質ホルモンが過剰に分泌され、免疫力が抑制されるので病気を発症しやすくなります。例えば風邪を引きやすくなったりするのですが、副腎皮質ホルモンが働く相手は免疫機能だけではなく全身で、特に脳神経細胞に働いて睡眠障害や精神障害などを起こします。ストレスが長く続くと、アルツハイマー病やパーキンソン病の発症が促進されるという報告もあります。脳に炎症が起こることで、うつ病を発症することもあります。つまり、ストレスは健康維持の最大の敵であると言えます。逆に言えば、毎日の生活でストレスを減らし、健やかに過ごせば長生きできるということです。

◆オステオカルシンとアペリン
 スウェーデンでは1870〜1900年の30年間に生まれた2800人以上の双子を対象に寿命と遺伝の関係を調査した報告があります。調査では、寿命には遺伝的要素が20〜30%、環境要因が70%関わっていることが分かりました。アメリカやオランダ、日本でも同様の研究報告があります。また、慶応大学グループの研究では100歳以上の長寿者は一般の人に比べて糖尿病や高血圧、動脈硬化、認知症、ガンの発症が少ないという傾向が見られました。長寿者に共通する点として、適度な運動習慣があり、運動することによって骨を作るオステオカルシンが豊富に分泌されていることが分かりました。オステオカルシンは筋肉運動によって骨の中の骨芽細胞で作られます。オステオカルシンが血液中に放出されるとインスリンの分泌を促すので、血糖値が低下し糖尿病を防ぎます。また、オステオカルシンは血液脳関門を通過して脳内に入り、海馬に働いて認知症を予防します。散歩などの運動が全身の臓器に良いことが分かります。
 2018年には運動することで筋肉自体が作る若返り因子が発見されました。それがアペリンと呼ばれるペプチドです。加齢によって人は筋肉量や筋力が低下するサルコペニア状態を示します。そこで、アペリンを投与するとサルコペニアが改善されることが分かったのです。アペリンは筋肉の収縮により筋細胞で作られる物質です。筋肉の幹細胞に働き細胞分裂を促すとともに、筋細胞のエネルギー代謝を亢進させて筋力を増強します。身体を動かしている人が若さを維持しているのにはアペリンが関与しているようです。

◆養生訓に学ぶ
 貝原益軒は養生訓の中で「人は天と地から生まれてきた。人が元気に生きていくには飲食により養分を毎日摂らなければいけない。でも飲食は願望のひとつであり、願望のおもむくままに飲食を続ければ胃腸のためにも良くない。度を過ぎれば生命に関わる。胃腸から取り込まれた養分が身体を養っている。草木が土の中で栄養を取り込んでいるのと同じである。つい食べ過ぎてしまう。腹七〜八分位で食事を抑えておけばしばらくすると腹は十分になる。腹いっぱい食べると、後で腹が張り病気になる」と言っています。炎症も生活習慣も何事も過ぎると取り返しのつかない困ったことになります。ストレスは慢性炎症を様々な病気へと発症させる根源なのです。副腎皮質ホルモンは一時的には炎症を抑えますが、そのうち効き方が悪化して効果がなくなります。ですから薬に頼るのではなく、まず積極的に笑うように努め、避けられるストレスは避けることです。ストレスには個人差があるので、自分なりに自分に合うストレスを避ける方法を見つけ、対処することです。

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