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VOL.249『血圧維持に関与するミネラル』 [高血圧]

◆血圧と硬水
 カルシウムの摂取量が多ければ、血圧の上昇は少ないことが知られています。カルシウムは摂取するとナトリウムの尿中への排泄を促進する効果があるからです。骨粗鬆症になる原因の一つに食塩の過剰摂取があります。ナトリウムの排泄を助ける効果から骨粗鬆症の予防においてもカルシウムの摂取が有効であると言えます。
 1950〜60年代、飲料水として硬水(水に溶けているカルシウムとマグネシウムの濃度が高い水)を常用している地域の人は軟水を飲んでいる地域の人に比べて高血圧や脳卒中、心臓病などの病気による死亡率が低かったという報告がありました。この報告をきっかけにカルシウムとマグネシウムの有効性が確認されました。硬水とは一般的に炭酸カルシウムが1リットルあたり200〜500mg以上含まれている水を言います。軟水は1リットルあたり100mg以下の水です。

◆カルシウム・マグネシウム
 その後、血圧の値が正常で健康長寿の人々と食事中のカルシウム摂取量との関係が疫学的に研究され、世界各地で数多くの報告があげられました。カルシウムの有効性は、高血圧自然発生ラットを用いた実験で高食塩食を与えた場合でも証明されました。臨床実験でも塩分の影響を受けやすい食塩感受性高血圧の人に対してカルシウムの降圧作用が認められたことが、アメリカ人のレスニックによって報告されました。血圧が変動しやすい食塩感受性の人は食塩によって血圧が上昇し、カルシウムを摂取することで正常な血圧になったのです。食塩感受性の人が食塩を多く摂取すると、尿中へのカルシウムの排泄量は健康な人に比べて多くなります。そこで、カルシウムの摂取量を増やせば、体内のカルシウム欠乏が防げて血圧の上昇も抑えられます。食塩感受性の人は、常にカルシウムを多く含む、魚の干物や納豆・豆腐などの大豆製品、炭酸カルシウムを摂取するように指導されます。
 マグネシウムもカルシウム同様、硬水に含まれるミネラル成分です。1978年、カーパネンは、世界各国の食事中に含まれるカルシウムとマグネシウムの含有量を調べ、比率が高いほど心臓病や心筋梗塞による死亡率が低いことを報告しました。事実、食事中のカルシウムやマグネシウム含有量が少ないフィンランドやアメリカ、オランダ、イタリアなどでは虚血性心疾患による死亡率が高いことが知られています。
 また、血圧との関係においてもカルシウムと同様にマグネシウム摂取量の多い地域の人ほど血圧が低い傾向にあります。マグネシウムは多量に投与すると尿中へのナトリウム排泄を促進しますが、マグネシウム自体も排泄されてしまいます。マグネシウムにも血圧の降圧作用がありますが、食塩感受性の人に食塩を負荷した場合、カルシウム同様マグネシウムも喪失してしまいます。つまり、一時的に大量のマグネシウムを摂取するのではなく、常に一定量を摂取し続けることが望まれるということです。カルシウムやマグネシウムが作用する正常範囲は極めて狭いので、大量に一時的に摂取しても、余った分はほとんどそのまま尿中から排出してしまいます。

◆ミネラルイオン水を飲もう
 マグネシウムを多く含む食品は、ココア・コーヒー・ナッツ類・ごぼう・バナナ・アボカドなどです。他に働くミネラルにはカリウムがあります。特に炭酸カルシウムや炭酸マグネシウムは水に溶けていることで腸管から体内への吸収性が高まります。高齢になると腸管からの吸収力が低下するので余計に取り続けなければなりません。
 カルシウムやマグネシウムなどのミネラル成分はカラダの生命維持に関与する生体成分であり、細胞外の水分バランスにも関与します。ナトリウム・カリウム・カルシウム・マグネシウムなどのミネラル成分がお互いに関連しながら作用することで体内の恒常性は維持されるのです。食生活の中でカルシウムやマグネシウムが豊富に溶けている水、ミネラルイオン水を飲むことで高血圧や虚血性心疾患の発症を抑制しましょう。これは世界的にも証明されている事実です。


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VOL.248『「養生訓」に学ぶ健康長寿の心得』 [生活]

◆エピジェネティクス
 今から300年ほど前の江戸時代、江戸の人口は100万人を数え、世界一の大都市でした。その頃の日本はヨーロッパからは文化の遅れた野蛮な国とされていましたが、実際は下水道や上水道が整備され、糞尿処理と野菜生産という今で言うリサイクルシステムも存在しており、パリなどより進んだ都市でした。
 この時期に儒学者の貝原益軒が健康で長生きするための心得をまとめたのが『養生訓』です。健康と長寿は昔から人類にとって最大の願いでもありました。秦の始皇帝は日本にその秘訣があるとして、何度も日本を攻めようとしましたが実現しませんでした。日本人の健康と長寿の秘訣は、先人たちの経験や観察を通じて体に良いとされる手がかりを見つけ、仲間に伝えながら代々語り継がれてきたもので、現在、これが科学的な研究と結びつき、多くのことが明確になってきています。
 例えば、ヒトの体質をつくるのには遺伝的要素と環境要因があるということです。生まれながら病気になりやすい遺伝的素因を持っているヒトと、そのような遺伝子を持っていないヒトでは、遺伝的素因を持っているヒトの方が何倍もの確率で病気を発症します。しかし、遺伝的素因に加えて生後の食生活など、環境要因が遺伝子を刺激することで遺伝子に変異が生じて病気になることも解ってきたのです。これをエピジェネティクスと呼びます。

◆食文化に秘訣あり
 ガンは細胞内の遺伝子が刺激を受けて変異し、段階的に異常が起きることで発症して進行します。しかしこれは生活習慣の修正によって70%ほどは予防できるという報告があります。環境要因を変えることによっても病気の発症を抑えられる可能性があるということです。環境要因の一つに日本の伝統的な食生活があります。日本では古来より和食の文化や食生活が維持されてきました。最近の科学的な研究報告によれば、和食はガンをはじめとするほとんどの生活習慣病を防ぐ上で有効なほど健康的に優れていることが分かりました。日本では飢餓の時代が長く続いたため、日本人は遺伝的に生活習慣病の原因となる内臓脂肪が蓄積しやすい民族となり、遺伝的に糖尿病を発症しやすい民族でもあります。基本的には農耕民族で、欧米人の狩猟民族とは遺伝的に大きく異なります。脂肪分はあまり摂らず、野菜や炭水化物を多く摂取、主に魚や大豆製品・野菜・海藻を食べてきました。日本人は海藻を食べる特有な民族で、海藻を消化分解する酵素や腸内細菌叢が存在します。これに対して、欧米人には海藻を消化分解する酵素や腸内細菌叢が存在しないため、海藻を食べられません。
 和食はこれらの食品を上手に料理することで動脈硬化の進行を遅らせ、内臓脂肪の蓄積を抑え、膵臓のβ細胞からのインスリン分泌を少なくすることで糖尿病を予防してきました。和食によって日本人は遺伝的に善玉菌(乳酸菌・ビフィズス菌)を多くし、善玉コレステロール(HDL)を多くすることで、心筋梗塞や脳出血による死亡率を極めて低い水準に維持してきました。その結果、高齢になっても肥満や認知症になりにくく、ガンの発症も遅らせてきました。また、大豆製品によるイソフラボン効果(エストロゲン様作用)や小魚からカルシウムを摂取することで骨粗鬆症を予防し、骨折を防いでいます。発酵食品を和食に利用することで日本人の腸内細菌叢は善玉菌の割合が増え、世界一の長寿国となりました。

◆歴史に学ぼう
近年、食の欧米化により肉類や乳製品を多量に摂取することで、肥満や病気の発症が若年層に広がりました。味付けも濃い味が好まれるようになり塩分量が増しました。さらに、飲酒や脂肪摂取量の増加と運動不足によって肥満や生活習慣病になる人が増えました。つまり、エピジェネティクスによる病気の発症です。
 日本人は長い歴史の中で、健康と長寿と文化が相まって、毎日規則正しく働くという生活習慣の中で生きてきました。これは長い飢餓の時代を経験した日本人の遺伝子の中に組み込まれた記憶です。日本人が健康で長生きできる生き方は、すでに300年前に出版されていた貝原益軒の養生訓からも読み取れます。日本人は今一度歴史から学ぶべきなのではないでしょうか。

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