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VOL.252『カラダが毒を排除する力』 [体]

◆食物や水の毒に対して
 ヒトが生きるために必須なものは食物と水です。それらの中には時として毒物が混入している場合があります。そのため厚生労働省は食品安全委員会という組織を作り、科学的知見に基づいて客観的かつ中立公正に食品や水のリスク評価を行っています。例えば、牛海綿状症候群(BSE)の牛肉の輸入条件を提言したり、食品中の農薬や環境汚染物質・食品添加物・放射性物質が健康に影響を与えるか否かなどの評価を行っています。食品や水に含まれる毒物に対してカラダでは、カラダが備えている健康維持の仕組みが膨大な数の化学反応の集合体として対応し、機能しています。

◆カラダに備わった代謝機能
 食の安全性は科学的根拠に基づき評価できますが、安心には個人差があり、知識や感情・心理によっても左右されます。通常、異物は口や鼻、皮膚から体内に取り込まれると、血液中に入り全身に拡散します。毒物には、そのまま組織に入って直接毒性を発現するものもあれば、細胞内の酵素によって分解・代謝され活性化して毒性を発揮するものもあります。しかし、ほとんどの毒はカラダが備えている解毒システムによって代謝され、体外に排泄されます。例えばお酒(アルコール)は体内で代謝されてアセトアルデヒドとなり、その後、酢酸に酸化され無毒化します。ところが、過剰なアルコール摂取が続くと代謝されたアセトアルデヒドが肝炎や肝硬変、肝臓ガンを引き起こす場合があります。
 口から入った毒物は食道から胃を経て小腸で吸収されます。基本的に小腸から吸収されるのはタンパク質でアミノ酸に分解されたものです。水溶性の毒物は細胞膜の脂質に阻害されて細胞内には侵入できません。ところが、合成着色料や食品添加物などは水溶性であっても脂分と混合することによってゲル化し、細胞膜の脂質に溶け込んで脂溶性物質となって細胞膜を通過し、血液中に入り、門脈を経て肝臓にまで達します。肝臓や小腸には毒物を解毒する仕組みとして代謝機能があります。
 また、血液中に入った毒物は腎臓でもろ過されて体外に排出されます。腎臓には必要な分子やイオン物質を認識して再吸収するタンパク質が存在し、必要のない毒物は尿中に排出されます。つまり、腎臓が正常であれば毒物は排出されるのです。
 通常毒物は血液中に侵入しても腎臓でろ過されて尿中に排泄され、解毒できます。しかし、脂溶性の毒物は水に溶けにくく、タンパク質と結合しているので腎臓から排泄することはできません。そこで脂溶性の毒物を水溶性分子に変換する仕組みを備えているのが肝臓です。肝細胞に存在する薬物代謝酵素が水酸基の抱合反応によって水溶性の分子を結合させ、水溶性にすることで尿中に排泄できます。

◆食物や水を自分で選ぼう
 ヒトへの毒性として最も問題となるのが発ガン物質です。特に硝酸塩は口腔内の微生物や水によって亜硝酸塩に変換されます。また、肉類や野菜によって亜硝酸塩に変換され2級アミン(ニトロソ化合物)となります。硝酸塩(硝酸性窒素)を高濃度で含む井戸水や水道水を飲み続けるとメトヘモグロビン血症(酸素欠乏)の中毒症状を起こすことがあり、アメリカでは乳幼児が突然死することでニュースになりました。
 また、食の安全性の問題として水道水の塩素殺菌があります。欧米ではオゾン処理法が主流で、塩素殺菌は使いません。日本の水道水は塩素を残すので細菌などの微生物は生存できません。しかし、この塩素が有機物と反応してトリハロメタンを生成します。2015年に改正された水道法によりますとジクロロ酢酸0.03mg/L以下、トリクロロ酢酸0.03mg/L以下となっています。この基準値を体重60kgの人が1日2リットル一生涯飲み続けると10万人に1人の確率でガンを発症するといいます。
 毎日食べている食品や毎日飲んでいる水の安全性を確認し、健康を維持するには一人一人が毒物について知ろうという気持ちで食の現状を把握し、選択することが大切です。

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VOL.251『夏の疲れをのこさないために』 [生活]

◆体の疲れ、脳の疲れ
 今年の秋は、残暑が続いたかと思えば、初冬のように肌寒い日が続き、おまけに幾つもの台風が直撃するなど、気候変動が激しいので体調を崩しがちになっています。一般に疲れには肉体労働によって感じるものと、頭脳労働によって感じるものがありますが、これらをヒトは明確には区別できません。通常、ストレスは脳で感じ、疲労はストレスを増やします。ストレスを感じるとそれに対抗するため、脳から副腎を刺戟するコルチゾールというホルモンを分泌し、ストレスを緩和します。

◆疲れの原因物質
 脳には常にエネルギーとしてグリコーゲンが貯蔵されています。このグリコーゲンが疲労を伴う長時間のストレスを減らします。グリコーゲンの原料はブドウ糖で、血糖値を維持する役目を果たしています。肝臓内にグリコーゲンが蓄積していれば低血糖やめまいで立ちくらみすることはありません。しかし、長時間運動する際には肝臓や筋肉内のグリコーゲンが使われるため、脳に届く血液中の糖が減って低血糖になります。すると脳内のセロトニン濃度が増加し、必須アミノ酸の1つであるトリプトファンが脳内に取り込まれます。また、これを補うために別の必須アミノ酸である分岐鎖アミノ酸(バリン・ロイシン・イソロイシン)がトリプトファンと同様に脳内に輸送されます。
 通常、アミノ酸が脳の関所(血液脳関門:BBB)を通過する際にはトランスポーターと呼ばれる運搬役が必要となります。分岐鎖アミノ酸はトリプトファンよりもアミノ酸トランスポーターに優先的に乗って血液脳関門のゲートを通過できます。ですから分岐鎖アミノ酸濃度が低下すると、血液中のトリプトファンよりも分岐鎖アミノ酸が脳内には優先的に取り込まれ、セロトニン濃度が上昇します。その結果、トリプトファンの運搬が促進され脳の疲労が進みます。運動時や運動後に分岐鎖アミノ酸を摂取すると、運動による疲労や脳疲労が
取れてくるのはこの作用によるものです。
 長時間の運動は脳の温度も上昇させるので、うまく機能しなくなります。通常、暑い日などに脱水することで体温や脳の温度は上昇し、それが脳の疲労となります。例えば、熱中症は水分不足とミネラル成分の不足が脳の疲労となって発症します。疲労の症状といえば、倦怠感・だるさ・体が重いなど、感覚的な症状や筋肉の病気を思い浮かべます。筋肉が疲れると乳酸が溜まります。乳酸がたまると筋肉痛になるので、疲労物質は乳酸ということになります。乳酸は運動時にグリコーゲンやブドウ糖が使われると同時に生成されます。
 乳酸が大量に発生するとビタミンB群が消費されます。疲労はストレスなので、ビタミンB群が不足すると疲労症状が増し、集中力が続かなくなり、イライラします。疲れの原因は体力の低下です。疲れを取るには食事によるビタミンやミネラルなどの栄養素の補給です。暑い日にはエネルギーが不足するので、肉類や脂肪分、乳製品を大量に摂取すると、逆に疲労を助長してしまいます。不足するのは水分やナトリウム・カルシウム・マグネシウム・カリウムなどのミネラル成分、加えて分岐鎖アミノ酸をはじめとするアミノ酸なので、適量のタンパク質摂取で十分なのです。

◆分岐鎖アミノ酸・ミネラル成分・十分な睡眠
 分岐鎖アミノ酸は運動時の筋肉の疲労を減少させる作用がありますが、脳の疲労はとれません。冷房が効いた室内でパソコンに向かって仕事をする人や会議をしている人でも脳の疲労は進みます。ストレスが過剰になると脳はさらに活発に活動します。疲れを解消しようと休憩時間に甘いものを食べると逆に脳の疲労が増します。また、仕事帰りにビールなどのアルコールを飲むと一時的にストレガ解消したように思えますが、むしろ疲労を増強しているのです。それよりも早く帰宅し、ゆっくり入浴する方が副交感神経が優位になり、リラックスできます。また、肉体と脳の疲れを取るのに不可欠なのは睡眠時間の確保です。無理にスタミナ食を食べるのではなく、適度に分岐鎖アミノ酸やミネラル成分を補給して、十分に睡眠をとることが疲労回復の秘訣です。

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VOL.250『健康長寿のために腸を元気に』 [健康]

◆フコイダン・βグルカン
 近年、海藻類やキノコ類の抗酸化作用が注目されています。キノコ類にはβグルカンと呼ばれる多糖類の成分が含まれています。βグルカンは抗酸化力を発揮するだけでなく、インターロイキン12(IL-12)と呼ばれるサイトカイン(タンパク質、生理活性物質、細胞間の情報伝達)を放出することで、白血球の貪食系の免疫細胞であるマクロファージや樹状細胞を活性化し、NK細胞やヘルパーT細胞、キラーT細胞などの免疫機能の主役となる攻撃部隊を強化します。βグルカンは、抗酸化力や免疫力を高めるとともに胃ガンや大腸ガンの発症リスクを低減させます。個々の体質によっても違いますが、週に1〜3回摂取することで効果が現れますので種々のキノコを日替わりで食べてみてはどうでしょう?

◆中鎖脂肪酸・乳酸菌・食物繊維
 コンブやワカメ・モズクなどの海藻類にはフコイダンと呼ばれる多糖類が含まれています。海藻の種類によって含まれる多糖類は多少異なりますが、いずれも水溶性の食物繊維で免疫機能の向上や抗ガン作用が確認されています。なかでも注目を集めている食材が函館近海のカゴメコンブです。主成分はフコイダンやアルギン酸・ラミナンなどの多糖類で、独特の粘り成分であるフコイダンが他のコンブの2倍以上含まれています。
 実験的にヒト骨髄性白血病細胞にフコイダンを添加して培養した結果、ガン細胞を自然死させるアポトーシスという作用が活性化されることが分かりました。最近、フコイダンの吸収性を高める低分子フコイダンが開発され抗ガン作用が期待されています。しかしこれは飲みにくい上に高額なため、根コンブを入れた水が注目されています。根コンブの表面の汚れを落とし、水洗いしてハサミでなるべく小さく切り、200mlの水を入れて冷蔵庫で夏場なら10〜12時間、冬場では12〜24時間放置することでフコイダンの粘り成分が染み出した根コンブ水ができます。これに酢またはレモン汁を小さじ1杯入れれば完成です。お湯を使うと粘り気が出ないので気をつけましょう。逆にミネラル成分の多い水は相性が良いのでオススメです。
 フコイダンやβグルカンは単独でも抗ガン作用を発揮しますが、アボカドや中佐脂肪酸のオイルを併せて摂取するとさらに効果が高まるとの研究報告があります。また、乳酸菌との相乗効果も明らかにされています。通常、乳酸菌は腸内細菌を活性化させ、腸の蠕動運動を整えます。実験的に乳酸菌(フェカリス菌)にフコイダンを添加し、37℃で培養したものをマウスの脾臓細胞に注入した結果、3日後にはNK細胞が3倍以上に増加しました。
 βグルカンと乳酸菌を併用することでも腸管の免疫細胞を活性化させる効果が報告されています。乳酸菌が腸内細菌叢の中の善玉菌を増殖させることは知られていますが、乳酸菌を増殖させるにはエサとして多糖類の食物繊維が必要となります。普段の食生活でキノコ類や海藻類とともに野菜などから食物繊維を十分に摂取すれば、乳酸菌などの善玉菌は常に優位に増殖でき、腸内細菌叢のバランスは善玉菌が優位となります。

◆腸は免疫機能の中心
 腸は脳の次に免疫機能を調節する中枢神経系器官なので、腸の活動が活発になれば免疫力が高まります。肉類や脂肪分・乳製品を多く摂取していると、腸内に消化できないタンパク質が吸収されずに長く停滞します。それが大腸ガンの原因となったり、リスクを高めます。キノコ類や海藻類は腸の蠕動運動を活発にするので下痢や便秘を防止することから大腸ガンの抑制に役立ちます。腸の免疫系細胞が活性化することでNK細胞やヘルパーT細胞・キラーT細胞などガン細胞を攻撃する免疫機能が向上し、それにマクロファージや樹状細胞などが協力してガン細胞の増殖を抑制する方向に働きます。
 毎日、キノコ類や海藻類を中心に野菜など食物繊維が豊富な食物をたくさん摂取することは、病気にならない身体を作り、慢性疾患やガンの予防にもつながり、健康寿命を延ばすことにつながります。そして、ミネラル成分であるカルシウムやマグネシウムを併用すれば、さらに効果が高まります。

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