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VOL.255『ガンの免疫治療薬『オプジーボ』とは』 [体]

◆ノーベル医学生理学賞
 12月10日はノーベル賞授賞式の日です。今年2018年は京都大学特別教授の本庶 佑(ほんじょ たすく)氏が医学生理学賞を受賞しました。免疫を抑制するタンパク質を発見し、ガンの免疫治療薬オプジーボを開発した功績が評価されての受賞です。従来の抗がん剤はガン細胞を直接攻撃するタイプの薬がほとんどでした。それに対してガン細胞が人の免疫力から逃げて生き延びる仕組みを阻止し、免疫細胞の攻撃力を高めて治療する新しいメカニズムの薬がオプジーボです。これは免疫チェックポイント阻害薬と呼ばれ、一部のガンに劇的な効果が確認されています。

◆オプジーボ開発の過程
 免疫力でガンを治療する考え方は以前からあり、ガンワクチンの製造は幾度も試みられてきましたが効果は得られていませんでした。そのため従来ガン治療は、外科手術・放射線治療・抗ガン剤の3つに委ねられてきましたが、ついに免疫療法が加わったのです。日本では現在7種類のガンに対しての治療が認められており、今後さらに拡大されますので標準的な治療薬となっていくでしょう。
 日本では2人に1人の割合でガンを発症しています。PD−1は免疫を抑制するタンパク質で、リンパ球の一種であるT細胞の表面に存在します。1991年に本庶教授はこの細胞の働きを発見したのです。あらかじめプログラムされた遺伝情報に基づき、細胞が自ら死んでいく現象(アポトーシス)を研究する過程で発見されたため、プログラム・ド・セル・デスの頭文字をとってPD−1と命名しました。そして京都大学と小野薬品が協力した産学連携によってオプジーボが開発されたのです。新薬の開発の成功率は2万から3万分の1という確率で、極めて困難なのですが、今回のような画期的な新薬となるとさらに確率は低くなります。PD−1の発見からオプジーボの販売までに20年以上かかりました。しかしこれでも、研究成果が創薬開発に繋がらないケースが多い中、比較的早期に製品化された珍しいケースといえます。基礎研究の実用化には莫大な資金や設備が必要となるため、資金力の乏しい大学と、企業が共同で開発するケースが増えています。例えば、武田薬品工業は2015年から京都大学のiPS細胞研究所とプロジェクトを立ち上げています。今回のノーベル賞受賞は日本の産学連携の潜在力を世界に示した例といえます。

◆その効果と今後への期待
 PD−1は免疫の中心的な役割を果たすT細胞の表面に存在します。本庶教授は1991年にこれを発見し、1992年に論文を発表しました。その機能は当初不明でしたが、マウスを遺伝子操作してPD−1を作れないようにすることで免疫反応が強まることから、免疫の働きを抑えるブレーキ役をすることが分かりました。ガン細胞は自分自身の細胞が異常に増殖するように変化した細胞です。そこで免疫のブレーキ役であるPD−1の仕組みを遮断するようにすればT細胞はガン細胞を攻撃することができると考えました。PD−1は活性化したT細胞の表面に存在し、ガン細胞はPD−1と結合するタンパク質を持っています。このタンパク質によってガン細胞はT細胞に攻撃を抑えろというブレーキ信号を送り、T細胞の活性を弱めることで免疫を弱めるという仕組みです。そこでPD−1の働きを阻害することでガン細胞はブレーキ信号を送れなくなり、T細胞が活性化され、攻撃できると考えたのです。
 本庶教授はアメリカとの共同研究でPD−1にある2つの鍵穴物質を発見し、この働きによって正常組織の細胞は免疫攻撃から守られることを明らかにしました。特に、重いガン患者でこのPD−1の鍵穴物質の量が増えていることを発見しました。ガン細胞はPD−1の機能を悪用してT細胞の表面にある鍵穴を大量に作ることで、T細胞の免疫攻撃をすり抜けていたのです。オプジーボはPD−1に結合する抗体役であり、ガン細胞だけを狙い撃ちできるので、周囲の正常細胞に影響を与えない副作用の少ない治療薬です。それが免疫チェックポイント阻害薬としてオプジーボが期待される理由です。

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