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VOL.223『食物繊維摂取の重要性』 [食べ物]

◆サプレッサーT細胞
 免疫細胞は病原体の侵入を防ぐとともに病原体と闘って炎症を引き起こします。その免疫細胞には、キラーT細胞(体内に侵入した毒素や病原体を攻撃・排除・殺す)やヘルパーT細胞(キラーT細胞に攻撃の指令を出す細胞で指令官の役割を持つ)、サプレッサーT細胞(キラーT細胞の攻撃を抑制する役割を持つ)があり、炎症の度合いを見てバランスよく働いています。具体的には、攻撃的なキラーT細胞が多く働き、制御するサプレッサーT細胞が少なければ炎症が激しくなり、その逆であれば炎症は弱まります。
 炎症の状態を和らげるにはサプレッサーT細胞を増やすことで、その働きをするのが短鎖脂肪酸です。短鎖脂肪酸とは、酢酸・酪酸・プロピオン酸などの有機脂肪酸の総称で、その中の一つ、酪酸が多いとサプレッサーT細胞へと成長分化する細胞が増えます。短鎖脂肪酸は食物繊維やオリゴ糖の豊富な食事によって生成量を増やすことができます。

◆短鎖脂肪酸の役割
 短鎖脂肪酸はアレルギーの予防や改善にも役立ちます。2013年、理化学研究所は動物実験で、食物繊維を少なく与えたマウスと多く与えたマウスを比較した結果、多く与えたマウスの方が酪酸の生産量を増やし、サプレッサーT細胞の働きが活性化しました。酪酸がサプレッサーT細胞の遺伝子に働いて活性化することが分かったのです。
 その結果を実証しているのがアメリカで文明を避けて昔ながらの生活をする宗教団体「アーミッシュ」の人々です。彼らにはアレルギー疾患がありません。しかも血液検査の結果、サプレッサーT細胞が通常よりも35%以上多いことが分かったのです。アーミッシュの人々は生まれた時から牛やシマウマなどの家畜と共に生活し、車を持たず、電気も使わず、電話もありません。畑を耕す際には牛や馬に農耕具を引かせて、食事は自給自足です。自分たちが畑で育てたものを収穫し調理する、自然と共にある暮らしをしています。このような生活のおかげで彼らの腸内フローラはバランスが良く、短鎖脂肪酸を多量に生産します。
 短鎖脂肪酸は腸粘膜の上皮細胞のエネルギー源となります。上皮細胞には腸壁を保護する粘液を分泌し、水分や栄養素の吸収を助ける働きがあります。上皮細胞がエネルギー不足になると、腸壁のバリア機能が低下し炎症を起こします。短鎖脂肪酸は腸内フローラのバランスを整え、腸粘膜上皮細胞との間隔を塞ぐ方向に働きます。短鎖脂肪酸が減少すると、ウェルシュ菌や大腸菌などの悪玉菌が増え、腸内フローラのバランスが乱れます。すると、腸粘膜上皮細胞間の接合を緩めてしまうゾヌリンというタンパク質が増え、ゾヌリンの分泌量が多くなると、細胞間隙をつなぐ鎖が緩んで腸粘膜上皮細胞の透過性を高めてしまいます。また、セリアック症はグルテン摂取量の増加によりゾヌリン分泌が増し、小腸が損傷する自己免疫疾患です。自己免疫疾患とは自分の正常細胞や組織に対して過剰に反応し、攻撃してしまう免疫異常の病気で、強い炎症症状を示します。この病気の人はわずかなグルテン摂取でも腸の絨毛組織が破壊されて下痢症となる重症なグルテン不耐性になります。
 グルテンは、タンパク質で分解されてアミノ酸となり、腸の上皮細胞から吸収されます。ところが、グルテン含有量が多いとアミノ酸にまで分解されず、タンパク質のままで粘着性が増し、腸粘膜から吸収されなくなります。これがアレルギーの原因ともなります。

◆食物繊維を摂りましょう
 腸内フローラのバランスが乱れると、ゾヌリン分泌量が増え、腸粘膜上皮細胞の間隙が開いて、腸の内容物が血液中に流れ込む異常事態に進展します。
 腸内フローラにとって最高の栄養素は食物繊維で、人類の命の源となって今日に至っています。ところが日本人の食物繊維の摂取量は、かつて1日あたり300gほどであったものが120g以下に著しく減少しています。その結果、1日の糞便量も100g以下となり、排便を毎日しない人も増えています。これがアレルギー疾患やうつ病のなどの病気、炎症疾患に関係しているのです。

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