SSブログ

VOL.266『医療分野におけるゲノム編集』 [生命]

◆ゲノム編集とは
「ゲノム編集の技術を使って人間の医療研究は神の領域にまで足を踏み入れてしまった。」特殊な酵素を使って一部の遺伝子を壊す(切断)、あるいはその切断した部分に別の遺伝子を挿入し、生命の設計図である遺伝情報を自由に書き換えることができるのがゲノム編集です。2012年にクリスパー・キャス9という画期的な手法が開発され、簡単に効率よく遺伝子の改変ができるようになりました。これは高校生や大学生でも知識があれば容易に使える技術で、3ヶ月ほどの練習で習得できます。

◆倫理的懸念
 まさか科学者が神の領域を侵すはずがないと、この分野の研究者は思っていたのです。ところが、2018年11月に中国南方科学大学がゲノム編集の技術を受精卵に使い、エイズウイルスに抵抗力を持つ健康な双子の女児を誕生させたのです。安全性が確立されていない状況で生まれた双子が今後どのような健康被害を発症するか、誰にも分かりません。
 受精卵にゲノム編集を行うと、簡単に自然界に存在するはずのない人間を作成することができます。いわゆるデザイナー・ベビーで、人類の明るい未来のための革新的な技術が悪用される可能性が極めて高いことを示しています。アメリカの研究者はすでにヒトの受精卵を改変し、遺伝性の心臓病を引き起こす遺伝子の変異を修復する実験に成功しました。さらに特定の酵素が作れないために発症する難病、ムコ多糖症の臨床試験を実施し、その患者の体内で遺伝子を修復するDNA手術を実施しています。
 内閣官房によれば、アメリカの遺伝子治療に関する臨床試験や研究の承認件数は2018年1月の時点で1600件を超えています。日本は60件ほどなので、27倍の多さです。イギリスのナフィールド生命倫理評議会は2018年ゲノム編集について格差や差別を助長しない限り人類の幸福のために用いられるべきであると報告書をまとめました。ところが、中国でのゲノム編集技術によるベビー誕生の報告によって研究開発に急ブレーキがかかってしまったのです。
 WHO(世界保健機関)は2019年3月にゲノム編集に関する科学、倫理、社会、法的な問題を検討するため専門委員会の初会議を開き、ゲノム編集の医療分野での技術は国際的に批判を受けました。この技術への関心の高まりを受けて現時点での医療応用は無責任であると非難したのです。

◆日本におけるゲノム編集
 日本での医療分野におけるゲノム編集は血友病や筋ジストロフィー症など難病治療に向けた研究に留まり、慎重な姿勢を取っています。日本における医療分野でのゲノム編集の遅れを取り戻すために国はゲノム医療を推進する法案の提出を目指す意向を表明しました。この法案にはゲノム編集を含むことを明記しましたが、中国でゲノム編集のベビーが引き起こした懸念から生命倫理への適切な配慮が盛り込まれました。遺伝性のガン疾患や遺伝子疾患など、ほとんどの病気がゲノムに関与します。そのため、今後はゲノム編集が医療の中心になると考えられています。そして、このゲノム医療推進法案の審議が進まない限り日本の医療が先進国の中で非常な遅れを取ることは間違いありません。
 ヒトでの受精卵を使い操作する基本研究は日本でも2019年4月から解禁されました。生物の遺伝子を狙った通りに効率よく改変できるゲノム編集は厚生労働省や文部科学省が研究に関する倫理指針を了承しました。しかし、ゲノム編集した受精卵を胎内に戻すことや医療への応用は禁止されています。受精卵が発達する仕組みについては不明な点が多く残っており、胎児になるまでのメカニズムを研究することで不妊治療や生殖補助医療に役立つことも多いと考えられます。ゲノム編集に使う研究材料は不妊治療を行った提供者の余った受精卵を使用するので提供者の同意が必要です。受精卵が自由に使えない日本では研究においても遅れが出ます。研究機関が倫理審査委員会を設けて国の審査とすることです。その研究成果を公開するという透明性も必要となります。世界中でゲノム編集の医療分野が急激に進歩しています。日本もそのスピードに乗り遅れないようにすべきだと考えます。

v266.jpg


VOL.265『肥満防止のダイエットについて』 [体]

◆肥満とは
 肥満と痩せの区別はあくまでも見た目でしかないという考え方があります。標準体重というものがありますが、これは理想体重とは違います。標準体重も理想体重も便宜的に定義されたものでしかありません。若い人が考える理想体重はいわゆる痩せのことで、肥満は脂肪分の占める割合が多い場合です。例えば、80kgの体重であってもスポーツ選手のように筋肉が占める割合が多ければ体重が重くても肥満とは言いません。

◆肥満遺伝子
 多くの人は標準体重よりも痩せ型になるためにダイエットをします。その結果、生理的にホルモン異常を起こす場合があります。食べる量を減らせば痩せると思うことが間違いなのです。肥満には大抵遺伝子が関与しているので、痩せ型の人は食べても太りません。学校保健調査では5〜17歳までのほとんどの年代で、女子の体重はこの50年間、前年を下回っています。ダイエットが低年齢化しているのです。
 最近の研究では脳が体重維持に影響していることが分かっています。脳内の視床下部という部分には満腹中枢があり、それ以上食べないように指令を出しています。逆に摂食中枢もあります。この両者のバランスで食べる行為がコントロールされています。食事を制限して食べる量を減らせば、脳がコントロールして消費を減らしてしまうため、少ないカロリーでも体重が維持されます。反対に食事の量が増えればエネルギー消費も増えて同じ体重が維持されます。
 人は各々違うので体型にも差が出ます。肥満体の人は体重が一気に増えると減量してもなかなか元には戻せません。そしてダイエットをしても数ヶ月後にはまた元の体重に戻ってしまいます。せっかくダイエットしても脳が食事が摂れない緊急事態と判断してエネルギー消費を減らしてしまうからです。
 また、太っている親の子供は太る確率が高くなります。これは食生活が同じで、なおかつ親からの肥満遺伝子を受け継いでいるためです。肥満遺伝子は塩基配列105番目のアミノ酸であるアルギニンがタンパク質への翻訳終了時に正常なタンパク質とならずに異常となったもので、1個の遺伝子の塩基配列が違ってしまっただけで肥満になるのです。この肥満遺伝子産物をレプチンといいます。レプチンは痩せるという意味のギリシャ語に由来しており、食欲を抑制して消費エネルギーを増加させます。これは飢餓など緊急事態に備えてエネルギーを脂肪に溜め込む働きをします。脂肪細胞にだけ作用し、筋肉には影響しません。そしてレプチンは脂肪組織だけでなく、胎盤や胃壁からも作られます。つまり、食事をすれば胃壁からレプチンが分泌され、食欲を抑える働きをするのです。

◆時間をかけてゆっくりやろう
 肥満の人の多くはカロリー制限をします。しかし、カロリー制限食は満足感がないので長続きしない上に、期間限定のダイエットとなるので期間が終了すると必ずリバウンドが待っています。さらに一時的にカロリーを制限すると筋肉量が落ちて基礎代謝が下がります。基礎代謝とは体温や呼吸、内臓機能などのために心身ともに安静にしている時でも生命維持活動のために消費される必要最低限のエネルギー代謝のことで、1日の消費カロリーの60%を占めています。一方、筋肉は動かさなくても体温を保つために熱を発散します。カロリー制限食で筋肉が落ちると基礎代謝も消費カロリー量も低下してしまうのです。
 基本的に、体重と体脂肪率は食事からの摂取カロリーと活動による消費カロリーのバランスで決まります。摂取カロリーの方が多ければ当然太ります。筋肉タンパク質が消費されると基礎代謝が下がります。肥満は長期間の生活習慣で対応しなければなりません。人の体で最優先されるのは死に至る生命活動から守ることです。基礎代謝や体重はその次となります。無理なダイエットはホルモンバランスを破綻させ体の不調を招きます。骨の形成に影響も与えるため体が維持できず骨折しやすくもなります。ダイエットは体重のコントロールが大切です。正しい知識とやり方で長期間かけて行いましょう。

v265.jpg