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VOL.284『カラダを守る苦味成分』 [体]

◆苦味受容体(T2R)
 舌にある味蕾は食べ物の苦味・甘味・塩味・酸味・うま味の5つの味を感じます。そして消化器系の門番として口から入った食べ物に関するすべての情報を脳に提供し、脳が飲み込んでも良いものか否かの判断をします。
 味蕾を形成する細胞には味覚受容体が存在しており、その中の苦味受容体がアルカロイドと呼ばれる植物性由来の毒性化学物質を検知します。苦味は毒物である可能性が高いので「苦い」と表現すると脳が不快であると感じます。苦味受容体は害を及ぼす可能性がある化学物質の存在を知らせるために進化してきました。有害物質の検知は生存に不可欠であることから、苦味受容体(T2R)は25種類もあります。これに対し、甘味・塩味・酸味・うま味を感じる受容体は各々1種類ずつしかありません。

◆T2Rの働き
 2009年、アメリカ・アイオワ大学の研究者が肺の内面を覆う上皮細胞にT2Rが存在することを発見しました。肺に吸い込まれた病原体や刺激物質は上皮細胞の粘液で捕らえられ、細胞表面の線毛が1秒間に8〜15回動いて喉に向かって押し戻されます。戻された刺激物質は体外に吐き出されます。この時、T2Rが苦味物質によって刺激されると肺上皮細胞の線毛運動が激しくなることが分かっています。さらに、コロラド大学の医療研究チームは鼻腔内で刺激物質に反応する特殊な細胞表面で苦味受容体が活発に働くことを見つけました。ヒトでは鼻や副鼻腔の内面の線毛に数種類のT2Rタンパク質があります。舌上の味蕾には2つのタイプのT2Rが存在します。
 白色人種では特定の苦味物質を全く感じない味盲者が30%おり、非常に苦いと感じる超味覚者が20%います。この2つの違いは遺伝子の塩基配列を解読して分かりました。一般的にT2Rの味覚検査に使われるフェニルチオ尿素(PTC)を細胞表面に滴下すると超味覚者は大量の一酸化窒素を作るのですが、味盲者は何も生産しません。この実験結果から苦味受容体(T2R)と免疫に関連性があることが分かったのです。 一酸化窒素が気道の細胞を刺激して線毛運動を活発にすることで侵入した病原体を直接殺します。一酸化窒素は気体なので気道の上皮細胞から粘液中に速やかに拡散します。そして病原体内に入ると膜酵素やDNAに損傷を与えます。通常副鼻腔は常に大量の一酸化窒素を作り出しています。それが気道中に拡散して病原体への感染を防いでいます。つまり、T2Rが舌と鼻腔で病原体の侵入を防いでいるのです。
 舌や鼻腔のT2R苦味受容体が刺激されると、細胞は周囲の細胞にシグナルを送り、ディフェンシンと呼ばれる抗菌タンパク質を気道の粘膜中に放出させます。ディフェンシンは緑膿菌やメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)などの病原体を殺します。しかし甘味受容体が刺激されると苦味受容体の活動を遮断します。これは不適切な時にディフェンシンを放出し過ぎるのを防ぐためです。

◆苦味成分で感染予防
 早期警戒タンパク質としてはToll様受容体が知られていますが、Toll様受容体もT2Rと同様に病原体が作り出した特定の分子に刺激されて免疫反応を活性化します。Toll様受容体が数秒から数分以内に反応すると、それを受けて苦味受容体は一種の臨戦態勢となり、即座に反応を起こすので感染初期には最も重要な防御機構であると言えます。2014年には尿路系の泌尿器でもT2R苦味受容体が最も重要な防御機構であることが分かりました。T2Rを使って膀胱を刺激し、排尿を促すことで膀胱の感染症を防げます。
 感染症の新薬として使われるのはまだ先になりそうですが、毎日食べたり飲んだりする食べ物に含まれる苦味物質の研究が急速に進んでいます。現在、新型肺炎C型コロナウイルス感染症が猛威を振るい、感染者や死亡者が増えています。発症していなくてもウイルスを持っている可能性があり、本人が気づかないうちに感染を広げているかもしれません。自衛するしか方法はありません。苦味成分を多く含む食品を摂って感染防御力を高めましょう。

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