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VOL.255『ガンの免疫治療薬『オプジーボ』とは』 [体]

◆ノーベル医学生理学賞
 12月10日はノーベル賞授賞式の日です。今年2018年は京都大学特別教授の本庶 佑(ほんじょ たすく)氏が医学生理学賞を受賞しました。免疫を抑制するタンパク質を発見し、ガンの免疫治療薬オプジーボを開発した功績が評価されての受賞です。従来の抗がん剤はガン細胞を直接攻撃するタイプの薬がほとんどでした。それに対してガン細胞が人の免疫力から逃げて生き延びる仕組みを阻止し、免疫細胞の攻撃力を高めて治療する新しいメカニズムの薬がオプジーボです。これは免疫チェックポイント阻害薬と呼ばれ、一部のガンに劇的な効果が確認されています。

◆オプジーボ開発の過程
 免疫力でガンを治療する考え方は以前からあり、ガンワクチンの製造は幾度も試みられてきましたが効果は得られていませんでした。そのため従来ガン治療は、外科手術・放射線治療・抗ガン剤の3つに委ねられてきましたが、ついに免疫療法が加わったのです。日本では現在7種類のガンに対しての治療が認められており、今後さらに拡大されますので標準的な治療薬となっていくでしょう。
 日本では2人に1人の割合でガンを発症しています。PD−1は免疫を抑制するタンパク質で、リンパ球の一種であるT細胞の表面に存在します。1991年に本庶教授はこの細胞の働きを発見したのです。あらかじめプログラムされた遺伝情報に基づき、細胞が自ら死んでいく現象(アポトーシス)を研究する過程で発見されたため、プログラム・ド・セル・デスの頭文字をとってPD−1と命名しました。そして京都大学と小野薬品が協力した産学連携によってオプジーボが開発されたのです。新薬の開発の成功率は2万から3万分の1という確率で、極めて困難なのですが、今回のような画期的な新薬となるとさらに確率は低くなります。PD−1の発見からオプジーボの販売までに20年以上かかりました。しかしこれでも、研究成果が創薬開発に繋がらないケースが多い中、比較的早期に製品化された珍しいケースといえます。基礎研究の実用化には莫大な資金や設備が必要となるため、資金力の乏しい大学と、企業が共同で開発するケースが増えています。例えば、武田薬品工業は2015年から京都大学のiPS細胞研究所とプロジェクトを立ち上げています。今回のノーベル賞受賞は日本の産学連携の潜在力を世界に示した例といえます。

◆その効果と今後への期待
 PD−1は免疫の中心的な役割を果たすT細胞の表面に存在します。本庶教授は1991年にこれを発見し、1992年に論文を発表しました。その機能は当初不明でしたが、マウスを遺伝子操作してPD−1を作れないようにすることで免疫反応が強まることから、免疫の働きを抑えるブレーキ役をすることが分かりました。ガン細胞は自分自身の細胞が異常に増殖するように変化した細胞です。そこで免疫のブレーキ役であるPD−1の仕組みを遮断するようにすればT細胞はガン細胞を攻撃することができると考えました。PD−1は活性化したT細胞の表面に存在し、ガン細胞はPD−1と結合するタンパク質を持っています。このタンパク質によってガン細胞はT細胞に攻撃を抑えろというブレーキ信号を送り、T細胞の活性を弱めることで免疫を弱めるという仕組みです。そこでPD−1の働きを阻害することでガン細胞はブレーキ信号を送れなくなり、T細胞が活性化され、攻撃できると考えたのです。
 本庶教授はアメリカとの共同研究でPD−1にある2つの鍵穴物質を発見し、この働きによって正常組織の細胞は免疫攻撃から守られることを明らかにしました。特に、重いガン患者でこのPD−1の鍵穴物質の量が増えていることを発見しました。ガン細胞はPD−1の機能を悪用してT細胞の表面にある鍵穴を大量に作ることで、T細胞の免疫攻撃をすり抜けていたのです。オプジーボはPD−1に結合する抗体役であり、ガン細胞だけを狙い撃ちできるので、周囲の正常細胞に影響を与えない副作用の少ない治療薬です。それが免疫チェックポイント阻害薬としてオプジーボが期待される理由です。

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VOL.254『尿トラブル対策にできること』 [体]

◆洋式トイレの弊害
 日本では近年、多くの家庭で洋式のシャワートイレとなり、和式トイレはわずかに残るのみとなっています。特に高齢女性では洋式トイレが楽で便利なため、和式トイレを使う人がいません。しかし、排尿や排便時の姿勢から見ると、女性の排尿・排便には和式が適しているのです。
 洋式トイレは膀胱炎になりやすいという報告があります。膀胱炎の原因は大腸菌で細菌が外尿道口から侵入することで感染します。女性は尿道が短く、外尿道口から侵入した大腸菌が膀胱内に入りやすいため、圧倒的に男性より感染しやすいのです。肛門付近には大腸菌が多数存在しており、洋式トイレで足を閉じて排尿することで感染しやすくなります。特に、便秘の人は排便が困難なので膀胱炎になるリスクが高くなります。一方、和式トイレは足を大きく開くので肛門と外尿道口の距離が離れて大腸菌の侵入を防ぐことができます。また足を開いて踏ん張ることは、排尿・排便を調整することに関与する骨盤底筋を自然に鍛えることができる上に、排便を促進し、腸の蠕動運動も活発にします。高齢の女性では夜間の頻尿や尿失禁の予防にもつながります。全てにおいて和式の方が好都合であると言えるでしょう。そこで洋式を使用するときにも足を開いて便座に座るといいでしょう。

◆尿トラブルには水分補給
 膀胱炎を予防するためには、尿道周囲を清潔に保つことに加えて、大腸菌が定着しないように水分をたくさん摂り排尿量を増やすことも大切です。もちろんトイレを我慢するのは厳禁です。夜中にトイレに行く回数が増えて睡眠不足になるからと寝る前に水分を摂るのを控える人がいますが、むしろ寝る前にはコップ1杯の水を飲んだ方が健康には良いのです。人は加齢とともに睡眠時間が減る傾向にあり、減少した睡眠時間は15〜20分程度の昼寝で補えば睡眠不足を解消できます。
 また、高齢の女性は頻尿や尿漏れを気にするあまり、トイレに行く回数を減らそうとして水分の摂取量を減らしてしまいます。頻尿や尿漏れの原因は水分摂取量ではなく、膀胱の筋力低下による機能低下です。水分量を減らすと水分不足の脱水状態となり、逆に頻尿や尿漏れ、尿失禁は悪化します。水分不足のため血液もドロドロ状態になり、血流が悪化します。その結果、動脈硬化となり脳梗塞や心筋梗塞を起こしやすくなります。体内の水分量が減り、脱水状態になることで排尿の機会が減りカラダが酸性に傾くと、体内の有害物質を排泄する機会が減ってしまいます。体液のpHバランスは崩れ、感染症を起こす確率も高まります。
 水分は1日あたり1.5〜2リットルを目安に摂取します。頻繁に水を飲むとトイレに行く回数が増えますが、頻尿や尿漏れを理由に外出を控えてはいけません。自宅で寝ていないで尿失禁対策グッズなどを利用し、外に出ましょう。歩くことで骨盤底筋に負荷をかけ、股関節を動かし、変形性関節を予防しましょう。それが肥満を予防し、解消することにもつながります。食事は食物繊維豊富な和食を摂り、腸内細菌のバランスを整えることで便秘が防げます。アルコールやコーヒーなどのカフェインを含む飲み物は適度に嗜みましょう。

◆運動で筋肉を鍛えよう
 高齢者向けの運動教室も尿トラブルの改善に役立ちます。週に1度、60〜90分ほどで十分です。カラダを動かすことが大切で、教室へ自分の足で行くことにも価値があります。健康体操や柔軟体操では同年代の人と会話できるので認知症対策に効果的です。運動が目的なら、散歩が一番です。肥満の予防や解消になり、骨盤底筋や大腿骨筋を鍛えることができるとともに、足腰を強くできるので、骨折や寝たきりなどの要介護の予防にもつながります。散歩する際には汗をかくので、水を持参し、こまめに水分補給することが大切です。
 頻尿や尿漏れは加齢に伴う生理現象であり、誰もが経験する当たり前のことです。これは腎臓や膀胱の機能が低下していることを示しており、特に気をつけたいのは膀胱炎などの感染症です。和式トイレの姿勢で排尿・排便してみてはいかがですか。

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VOL.253『基礎代謝と水溶性食物繊維』 [体]

◆日本人にとって肉食は
 近年、子供や若い女性の肉食化が急速に進んでいます。もともと狩猟や家畜飼育の民族であり、肉食が中心でそれが遺伝子に組み込まれている欧米人には肉類を分解消化する酵素が大量に分泌されます。それに対して農耕や木の実を採取して野菜や魚類が食事の中心であった日本人はそのような遺伝子を持っていないので、肉類を分解消化する酵素の分泌量はわずかです。そのため肉類は小腸でアミノ酸まで分解されず、未消化のタンパク質のまま吸収されずに存在します。アミノ酸まで分解されれば小腸から吸収されます。大量の肉をよく噛まないで食べ続けると、肉を分解消化する酵素を分泌する臓器は徐々に疲弊してきます。そのため、最近、中年から高齢女性に膵臓ガンが急激に増加しているのです。

◆日本人の遺伝子と腸内細菌
 日本人は、飢餓の時代を生き延びるため脂肪を蓄える遺伝子を受け継いできたので、両親が太っている子供が肥満になる確率は80%以上となります。一方、両親とも普通体重の子供の肥満は10%以下となっており、太りやすい体質は遺伝することが分かります。そして、日本人の肥満では遺伝の他にその人の持つ基礎代謝の環境要因が遺伝子の発現を強めます。同じものを同じように食べても太りやすい人と太りにくい人がいるように個人差が生じるということです。しかし、基礎代謝が低いから太るとは限りません。肥満は遺伝よりも生活習慣に起因することが多いので、太りやすい体質の人は生活習慣に気をつけることです。若い頃には普通体重であっても40歳を過ぎると基礎代謝が下がり、積もり積もった不適切な生活習慣によって太り、皮下脂肪、特に内臓脂肪が増えてきます。しかも、太りやすい遺伝子を持つ人が太りやすい生活習慣を送っていると急激に肥満になります。
 肥満は腸内細菌ともリンクしています。通常、腸内細菌は100兆個生息していると言われます。それらは腸内でしか生きられず、その人と一生共に過ごします。腸内細菌は、食物に含まれる消化しにくい食物繊維を酵素で分解し、栄養素として利用できるようにします。そのため腸内細菌の種類とその比率が変化すると、カラダの健康を維持できなくなり、肥満も導きます。マウスを用いた実験で、太った人の腸内細菌を移植するとそのマウスは太ってきます。これは腸内細菌の種類の違いによるものです。ダイエットで体重を減らすと、肥満に関連する腸内細菌が減少し、痩せ型に関連する腸内細菌が増えます。このように、腸内細菌のバランスは肥満度に関連しているのです。
 肥満を導く腸内細菌は食物から栄養素を取り出す力が強いため、この種類の腸内細菌が多量に生息していればエネルギーを吸収して太ります。これに対して、痩せた人の腸内細菌は短鎖脂肪酸を合成します。短鎖脂肪酸は水溶性食物繊維を腸内細菌が分解することで合成される脂肪酸です。水溶性の食物繊維を多量に摂取するとエネルギー消費が高まり、内臓脂肪が中性脂肪を取り込むのを防ぐので、太らなくなるのです。水溶性食物繊維は海藻類やキノコ類、山芋などに豊富に含まれています。食事の際にはまず水溶性食物繊維を含む食品から食べ始めることで、腸内細菌のバランスが変化し、中性脂肪の取り込みを抑制するので太らなくなります。

◆筋肉量を保ってダイエット
 筋肉は30歳頃から徐々に落ちてきます。太ももの筋肉量は毎年1%ずつ失われます。筋肉は足から減少するのです。筋肉量が減少すると基礎代謝も減少するので、脂肪が蓄積してきます。これに甘い食べ物の摂取が加わると、急激に脂肪の蓄積が進みます。適度な運動をせず、食事だけで脂肪を減らすダイエットは一時的で効果が続きません。つまり、元の食生活に戻ると減量した分が直ちに戻り、筋肉量だけが減った肥満となります。これは健康的にとても問題があります。健康的にダイエットするには、野菜や水溶性の食物繊維を摂取して、散歩程度の適度な運動を続けることです。これが脂肪を減らし、肥満を予防します。
 
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VOL.252『カラダが毒を排除する力』 [体]

◆食物や水の毒に対して
 ヒトが生きるために必須なものは食物と水です。それらの中には時として毒物が混入している場合があります。そのため厚生労働省は食品安全委員会という組織を作り、科学的知見に基づいて客観的かつ中立公正に食品や水のリスク評価を行っています。例えば、牛海綿状症候群(BSE)の牛肉の輸入条件を提言したり、食品中の農薬や環境汚染物質・食品添加物・放射性物質が健康に影響を与えるか否かなどの評価を行っています。食品や水に含まれる毒物に対してカラダでは、カラダが備えている健康維持の仕組みが膨大な数の化学反応の集合体として対応し、機能しています。

◆カラダに備わった代謝機能
 食の安全性は科学的根拠に基づき評価できますが、安心には個人差があり、知識や感情・心理によっても左右されます。通常、異物は口や鼻、皮膚から体内に取り込まれると、血液中に入り全身に拡散します。毒物には、そのまま組織に入って直接毒性を発現するものもあれば、細胞内の酵素によって分解・代謝され活性化して毒性を発揮するものもあります。しかし、ほとんどの毒はカラダが備えている解毒システムによって代謝され、体外に排泄されます。例えばお酒(アルコール)は体内で代謝されてアセトアルデヒドとなり、その後、酢酸に酸化され無毒化します。ところが、過剰なアルコール摂取が続くと代謝されたアセトアルデヒドが肝炎や肝硬変、肝臓ガンを引き起こす場合があります。
 口から入った毒物は食道から胃を経て小腸で吸収されます。基本的に小腸から吸収されるのはタンパク質でアミノ酸に分解されたものです。水溶性の毒物は細胞膜の脂質に阻害されて細胞内には侵入できません。ところが、合成着色料や食品添加物などは水溶性であっても脂分と混合することによってゲル化し、細胞膜の脂質に溶け込んで脂溶性物質となって細胞膜を通過し、血液中に入り、門脈を経て肝臓にまで達します。肝臓や小腸には毒物を解毒する仕組みとして代謝機能があります。
 また、血液中に入った毒物は腎臓でもろ過されて体外に排出されます。腎臓には必要な分子やイオン物質を認識して再吸収するタンパク質が存在し、必要のない毒物は尿中に排出されます。つまり、腎臓が正常であれば毒物は排出されるのです。
 通常毒物は血液中に侵入しても腎臓でろ過されて尿中に排泄され、解毒できます。しかし、脂溶性の毒物は水に溶けにくく、タンパク質と結合しているので腎臓から排泄することはできません。そこで脂溶性の毒物を水溶性分子に変換する仕組みを備えているのが肝臓です。肝細胞に存在する薬物代謝酵素が水酸基の抱合反応によって水溶性の分子を結合させ、水溶性にすることで尿中に排泄できます。

◆食物や水を自分で選ぼう
 ヒトへの毒性として最も問題となるのが発ガン物質です。特に硝酸塩は口腔内の微生物や水によって亜硝酸塩に変換されます。また、肉類や野菜によって亜硝酸塩に変換され2級アミン(ニトロソ化合物)となります。硝酸塩(硝酸性窒素)を高濃度で含む井戸水や水道水を飲み続けるとメトヘモグロビン血症(酸素欠乏)の中毒症状を起こすことがあり、アメリカでは乳幼児が突然死することでニュースになりました。
 また、食の安全性の問題として水道水の塩素殺菌があります。欧米ではオゾン処理法が主流で、塩素殺菌は使いません。日本の水道水は塩素を残すので細菌などの微生物は生存できません。しかし、この塩素が有機物と反応してトリハロメタンを生成します。2015年に改正された水道法によりますとジクロロ酢酸0.03mg/L以下、トリクロロ酢酸0.03mg/L以下となっています。この基準値を体重60kgの人が1日2リットル一生涯飲み続けると10万人に1人の確率でガンを発症するといいます。
 毎日食べている食品や毎日飲んでいる水の安全性を確認し、健康を維持するには一人一人が毒物について知ろうという気持ちで食の現状を把握し、選択することが大切です。

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VOL.247『脳に働くミネラル』 [体]

◆ミネラルの働き
 ヒトのカラダは、約95%が水素・炭素・窒素・酸素の4元素で構成されており、残りの5%ほどを構成しているのがミネラル(微量元素)です。そのミネラルの中で人体に必須の元素はカルシウム・リン・硫黄・カリウム・ナトリウム・塩素・マグネシウム・鉄・亜鉛・マンガン・銅・セレン・ヨウ素・モリブデン・クロム・コバルトの16種類です。これらの微量元素は発育や生命活動の維持、恒常性の維持や脳の発育機能に不可欠です。

◆亜鉛・鉄・銅・マンガン…
 グルタミン酸は脳に最も多く含まれるアミノ酸で、神経伝達物質として運動神経や感覚神経の回路で働きます。具体的には学習や記憶に関連する神経回路で働き、海馬では記憶の神経伝達を行います。この働きに関与しているミネラルが亜鉛です。一方で亜鉛は抑制性の神経伝達物質GABA(γアミノ酪酸)の放出を促進します。亜鉛は細胞の増殖に不可欠で、不足すると脳の成長や機能が抑制されるので成長が遅れたり止まったりします。動物実験でも授乳期に亜鉛の摂取量が不足したものは脳の発達が障害され、成長後は学習能力が低下することが分かっています。
 亜鉛の供給が十分でない人口の割合は世界全体の50%ほどで、彼らの健康面での亜鉛不足は深刻です。海馬では細胞外液のグルタミン酸濃度が増加し、痙攣発作によるてんかん様発作を起こします。亜鉛不足のせいでグルタミン酸の神経毒性に対する感受性が増大し、神経細胞が壊死を起こすのです。健康な脳を保ち、脳疾患から脳を守るためには適正な亜鉛摂取が必要となります。
 また、脳疾患を予防するには鉄・銅・マンガンなどの微量元素も重要です。パーキンソン病では大脳基底核に鉄やマンガンの蓄積が見られ、微量元素の代謝異常により脳疾患を発症します。ウイルソン病では銅が脳内に過剰蓄積することによって中枢神経系に障害が起きます。家族性筋萎縮性側索硬化症では銅が脳内に蓄積します。アルツハイマー病では脳の神経細胞に神経原線維変化や老人斑の特徴的な病理組織所見が見られ、これはアルミニウムの蓄積によるといわれています。老人斑の構成成分であるアミロイドβ(ペプチド)の凝集はアルミニウム以外にも、鉄・銅・亜鉛などの蓄積でも促進され、これらの微量元素が老人斑として検出されます。神経細胞を神経突起で結びつけるシナプス小胞には亜鉛以外に鉄や銅・マンガンなどが存在します。それらシナプス小胞の変化や神経伝達物質の機能変化はシナプス周辺の微量元素の凝集・沈着に関係します。

◆弱アルカリ性の水に溶けているミネラル
 今日、高齢化が進み認知症の患者数が急増している中、日頃からカルシウムやマグネシウムをはじめとする種々の微量元素を摂取することが望まれます。微量元素は水に溶けていて金属イオンになっているものでなくてはいけません。これらの微量元素が溶けている水は弱アルカリ性になっています。中性から弱酸性の水に溶けている微量元素は脳の神経細胞に沈着します。すると、脳障害や脳の発育不全、認知症など重症の疾患を起こしかねません。特に、マグネシウムは細胞外液と細胞内液の濃度差が大きく関与します。吸収されたマグネシウムは腎臓で排出され、骨や筋肉で代謝され体内では常に一定量が維持されています。しかし、マグネシウムは消化管からの吸収が極めて悪い上に、この一定量の適正範囲が極めて狭いミネラルです。細胞内液のマグネシウム濃度は低く、神経細胞内に取り込まれると神経細胞が障害されます。細胞内に入ったマグネシウムはミトコンドリアや核内に取り込まれ、ミトコンドリアやDNAの損傷を起こし、神経細胞を死に至らしめます。
 マグネシウムやカルシウムは摂取量が適正で、イオン化した濃度を弱アルカリ性の水環境で摂取すれば認知症を予防し、進行を遅らせることができます。つまり、弱アルカリ性の水に溶けイオン化した微量元素を毎日摂取することは脳の健康につながるということです。

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VOL.245『骨粗鬆症の予防について』 [体]

◆骨粗鬆症が増えている
 今日、高齢者に骨が脆くなり骨折しやすい骨粗鬆症の人が増加しています。骨は、骨を壊す破骨細胞による骨吸収と、骨を作る骨芽細胞による骨形成が同時に活発に代謝されている臓器で、これを骨の代謝回転といいます。通常、成人では生命の恒常性を維持するためにリモデリングと呼ばれる過程において、破骨細胞と骨芽細胞との動的平衡が保たれています。このバランスが破綻すると、骨基質は徐々に減少して骨粗鬆症になります。
 骨は加齢に伴うミネラル成分の変動により、骨粗鬆症の病態へと進んでいきます。その際には骨が壊されるよりもむしろ、骨が作られる能力の低下が問題となります。つまり、骨形成が抑制されることで急激に骨粗鬆症が進むのです。

◆骨粗鬆症のメカニズム
 骨の強度にはミネラル成分が大きく関与しています。成熟した古い骨には沈着しているミネラル成分の量が多く、成長期の若い骨には少ないのです。骨の代謝回転では成長期ほど新しい骨が形成されますが、ミネラル成分の沈着においてはバラツキがあります。それに対し、高齢者の骨では骨の代謝回転が低く、骨を壊す破骨細胞の方が圧倒的に多くなり、骨内のミネラル成分のバラツキは小さく均一化されます。このミネラル成分の骨内でのバラツキは大きすぎても小さすぎても骨の強度は低下します。
 成長期の骨は骨の代謝回転が盛んなので、骨を作る骨芽細胞の形成が進みますが、ミネラル成分の沈着が低いので骨基質は柔らかい状態のままです。骨形成を促進する骨芽細胞は骨吸収も調節して少なくするので骨の形成が進みます。これに対して骨粗鬆症では骨形成と骨吸収のバランスが崩れ、さらに閉経後の女性では骨基質量が急激に低下します。骨基質は基本的に思春期から閉経まではバランスが保たれ骨粗鬆症になることはほとんどありません。骨粗鬆症の病的変化は、特に女性の閉経後の女性ホルモン分泌の低下によって現れます。
 一般的に痩せている人よりも肥満の人の方が骨質量が多く保たれるので骨粗鬆症を発症しにくいようです。性ホルモンや体重は中枢神経系や視床下部によって調節されることから、脂肪組織から分泌されるレプチン(ホルモン)が関与し、体重増加や肥満を引き起こします。またレプチンは交感神経を介して骨形成を調節するため、骨粗鬆症の予防には肉類などのタンパク質の摂取が大切です。

◆カルシウムとビタミンK
 骨粗鬆症の進展による骨折を予防するためには骨密度や骨質量を確保することで、これが転倒の予防にもつながります。老人ホームの高齢女性を対象に3ヵ月間、カルシウムとビタミンDの補充療法を行った結果、骨密度や骨質量、筋肉、骨格機能が高まりました。その結果、転倒が50%以上も抑制されました。特に、カルシウム補充の効果は治験期間、性別に依存した効果ではなく、筋肉量を維持する作用や平衡感覚の機能が関与することで転倒の予防につながりました。
 また、納豆や海藻類などの食品に豊富に含まれるビタミンKが骨粗鬆症を予防する効果があることも研究で確認されています。その結果として、納豆の消費が多い地域では骨折率が低く、関東地方や東北地方は九州や四国、関西地方に比べて骨折率が低いことが知られています。治療効果としてはビタミンKの投与によって骨密度が上昇するので骨折率が低下するというものです。
 カルシウム摂取量が低下すると、副甲状腺ホルモンの分泌による高カルシウム血症となり、血管壁や心臓の冠動脈、大動脈への石灰化が抑制されることも分かっています。カルシウムの中ではリン酸カルシウムや酢酸カルシウムよりも炭酸カルシウムが血管壁の石灰化をより抑制し、骨粗鬆症の進展を遅らせることも分かりました。とはいえ、高齢となる前から予防するに越したことはありません。日頃からビタミンKやカルシウムを積極的に摂取しましょう。

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VOL.242『リンパの流れを良くしよう』 [体]

◆ 医学の考え方
 最近は、健康維持のために医学情報を知る機会が増えました。自然の中に存在する生物の世界にある決まりや法則を見つけていく学問は生理学、異常や病気になる法則を見つけていく学問は病理学といい、これらを基礎医学と呼びます。
 外科や内科など病院で診察するのは臨床医学です。臨床という言葉は、死に瀕して床に臥している人に対して施すという意味の宗教用語で、臨床医学の成り立ちは宗教の考え方に由来しています。臨床医学は個人に対する医学でもあり、同じ風邪をひいても皆同じ薬で治るとは限らないように、症状だけを診るのではなくいろいろな角度からその人を診るのです。内科という言葉は『Medicine』を訳したもので、語源は祈祷師です。施す治療がなければ祈るだけという考え方が脈々と受け継がれてきたのが臨床医学なのです。

◆ リンパ液の流れと浮腫(むくみ)
 1日中立ち仕事をしていると、夕方頃には足がむくんで、靴が窮屈になったりします。特に女性は足がむくむとふくらはぎが太くなったような気がして嫌です。また、朝起きた時、顔がむくむこともあり、冷水で顔を洗っても、すっきりと引き締まった顔にはなりません。これを医学的には浮腫と呼びます。浮腫は細胞の周囲に過剰な水分が溜まった状態のことです。地球上には重力があり、1日中立ち仕事をしていれば心臓より下にある静脈血は足の方に溜まります。静脈に溜まった血液の一部が血管から細胞の隙間に漏れ出す、それがむくみです。朝顔がむくむのは、寝ている状態では顔と足が同じ高さになるので行き場を失った水分が顔に溜まるためです。ですから立ち上がって活動を始めれば数分で治ります。それでも気になる時は、顔をマッサージすれば体表面のリンパ液の流れが良くなり、細胞の周囲に溜まった水分が流れるので元に戻ります。
 血液には酸素や栄養素が含まれており、心臓から押し出された血液は太い血管を通って毛細血管に入り、全身の隅々の細胞まで酸素や栄養素を行き渡らせます。そして、各細胞から排泄された老廃物を回収するのが毛細血管とリンパ管です。老廃物や余分な水分の大部分は血液(静脈)に戻りますが、余分なものがリンパ管に入りリンパ液としてリンパ管を通り、胸管を経て静脈に回収されます。ところが、リンパ管の働きが悪くなると回収できない水分が細胞の周囲に溜まって浮腫の原因となります。リンパ管には心臓のような強力なポンプ作用がないため浮腫になりやすい反面、皮膚の下の皮下脂肪の中を流れているのでマーサージでリンパ液の流れを良くすることができます。体内に病的に水が溜まることで引き起こされる病気はたくさんあります。健康な人の足のむくみはマッサージなどで治りますが、病的な浮腫は医師の治療が必要です。

◆ リンパ液の流れは変えられる
 心臓を出た血液は心臓のポンプの作用によって全身を巡り40秒ほどで戻ります。それに比べリンパ液の流れはゆっくりで体内を1周するのに8〜10時間かかります。そのためリンパ液は濁りやすくなります。リンパ液の流れを正常に保つのは膵臓です。横になり、足を心臓よりも高くして、その状態を6〜7時間保てば回復します。お酒を飲みすぎた時などは、水をたくさん飲んで足を高くして寝ることでリンパの流れは良くなります。
 座る時足を組む人は片方のふくらはぎが圧迫されるので、背骨や骨盤が曲がりやすく浮腫が起こりやすくなります。また、浮腫を起こしやすい人は血液中のアルブミンが低下しているので、疲労物質や細胞周囲に水分が溜まりやすくなります。そして、浮腫(むくみ)を起こす人は肝臓や腎臓、心臓疾患になりやすいので、毎日早歩きで20〜30分散歩をするとリンパの流れが良くなります。この時良い水を十分に補給することも忘れないでください。

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VOL.241『日本人特有の遺伝子を知ろう』 [体]

◆ 病気の発症に関わる遺伝子
 かつて、四国の山奥や九州の山岳部、西日本の人里離れた山村などには平家の落人が住む集落があり、そこでは奇病や難病が多くみられ、感染症が蔓延したり、ガンで死亡する人、病気がちな人が多かったといいます。そのため、平家由来の遺伝子を持つ者は短命であると思われていましたが、集落内で繰り返された近親結婚や同族結婚・血族結婚が原因であると分かりました。病気の発症に遺伝子が関わっているのです。
 また、男性と女性では脳の働きが全く異なり、遺伝子も異なります。男性はY染色体を持ち、100個ほど遺伝子を持っています。男性は出産できないので、母と子を外敵から守り、食料を獲得する遺伝子の設計図が組み込まれています。女性のX染色体は生命活動に必須な遺伝子を持ち、特に免疫機能に関する遺伝子が多数含まれています。女性はこのX染色体を2つ持っていて片方のX染色体が壊れても、もう1つのX染色体が正常に機能してくれます。そのため女性は男性よりも平均寿命が長く、乳幼児期の死亡率も低くなっています。妊娠中に流産する受精卵も男性の方が多いのです。

◆ 太りやすい飢餓遺伝子
 日本人は数千年にわたる飢餓の時代を生き延びてきたので、飢餓に耐える遺伝子が刻み込まれています。例えば、アドレナリンに関する遺伝子には脂肪を燃えにくくする作用があり、この遺伝子を持っている人は持っていない人に比べて1日当たりの基礎代謝が200Kcalほど低く、内臓脂肪が溜まりやすくなります。日本人にはこの遺伝子が34%あり、欧米人の8%に比べてかなり多く持っています。糖質を吸収しやすくする遺伝子は、日本人が92%、欧米人が60%です。また、一度太ると痩せにくく筋肉がつきにくい遺伝子は日本人の95%が持っています。
 このように日本人は少量の食べ物を脂肪として体内に蓄積する飢餓遺伝子(肥満遺伝子)を持っています。この遺伝子は満足な食べ物がなかった時代には役立つ遺伝子でしたが、飽食の時代となった現代では肥満になる遺伝子です。日本では近年、急激に肥満の人が増え、糖尿病や高血圧・動脈硬化・高脂血症を発症させる結果となりました。

◆ おもてなし遺伝子
 2020年の東京オリンピックに向けて『おもてなし』という言葉が流行しました。このおもてなしも遺伝子によることが分かりました。この遺伝子は神経質遺伝子あるいは不安遺伝子・恐怖遺伝子とも呼ばれ、不足すると心が不安定になるという、日本人だけが持っている遺伝子です。この遺伝子を持つ人は細やかな気配りができ、相手に尽くせる、真面目なコツコツ型で、日本人の70%ほどが持っています。日本人のきめ細かいサービス、和食の繊細な味付けや盛り付けなどはこのおもてなし遺伝子によるものです。
 この遺伝子はひとえに小さな努力や工夫を積み重ねてきた日本人特有の遺伝子で、例えば米作りでは、まず苗床を作り、肥料をやり、苗を植え付けます。害虫に気を遣い、こまめに雑草を抜き、天候に気を配り、稲穂が実れば収穫する、その後田んぼを片付け、翌年の田植えに備えるという、実に細かい作業です。それが日本人の稲作文化であり、おもてなし遺伝子に刻み込まれているのです。他の国の人にはこのような遺伝子はほとんど見られません。アメリカ人もおおらかで大胆、外交的で、性格的に日本人とは大きく異なります。
 本来、米は日本のような温帯気候では育ちにくい作物です。それを日本人特有の細やかな気配りで、真面目にコツコツ丁寧に、小さな努力と工夫の積み重ねによって根付かせ、日本をお米の国にしたのです。日本人の気質は太古の昔から刻み込まれ、今日に至るまで変わりません。それが今、世界から高い評価を得ています。これが他の民族にはない日本人独特の遺伝子なのです。

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VOL.240『食生活が乳ガン発症に影響する』 [体]

◆ 乳ガンが増加している
 近年、乳ガンが急激に増加しています。日本では200年以上前に華岡青洲が世界で初めて全身麻酔を用いての乳ガン手術を成功させました。彼の著書には乳ガンは『乳巌』と記録されています。乳巌は石のように固くゴツゴツしていることを表す漢字で、当時はしこりができるのが乳ガンの特徴として考えていたことを示しています。
 ガンを意味する英語『Cancer』は乳ガンに由来する言葉で、星座の蟹座を表す単語です。乳ガンは増殖すると周囲に血管が広がり、その様子がカニが足を伸ばした形に見えることから2000年以上前に命名されていたそうです。人類は昔から乳ガンの発生と増殖を手で触れ、目撃してきたのです。

◆ 乳ガン発症のリスク
 日本では1960年代から乳ガンが胃ガンを抜いて女性が発症するガンの1位となりました。同様に男性も前立腺ガンの発症が急増しており、2024年には最も発症率の高いガンになると推測されています。乳ガンは女性ホルモン、前立腺ガンは男性ホルモンの影響を受けて増殖します。前立腺ガンが60歳を過ぎる頃から急激に増え、70代でピークになるのに対し、乳ガンは30代で増加し、40代と60代に2つのピークがあります。現在は若い世代で発症する人の割合が高くなっています。
 一方、欧米では閉経後に乳ガンになり、60代がピークとなります。これには乳房の構成成分の違いが影響しています。乳房の成分は脂肪と乳腺です。乳腺の割合が高い乳房は脂肪の割合が高い乳房の4〜6倍乳ガンになりやすいとのことです。日本人は乳腺の割合が高く、欧米人の40%に対して80%となっています。これが若い女性に乳ガンを起こしやすくしているのです。日本人は閉経を迎えると乳腺が小さくなり脂肪に置き換わっていきます。しかし、閉経を迎えても乳腺の割合が高いままの人はそうでない人の3倍以上乳ガンになりやすいとの報告があります。
 乳ガンの発症にはBRCA1とBRCA2という遺伝子が関わっています。この2つのどちらかに生まれつき変異があると、乳ガンの発症率が10〜20倍となります。この遺伝子の変異は性別に関係なく、50%の確率で子供に伝わり、女性は卵巣ガン・男性は前立腺ガンの発症率が上がります。また、体格指数(BMI)が標準値を超えると乳ガン発症率が2倍以上に高まります。女性ホルモンは皮下脂肪でも作られるため、肥満の人は女性ホルモンの生産量が多く乳ガンの発生を促します。また身長の高い女性(160cm以上)は148cm以下の女性よりも1.5〜2.4倍の割合で多く乳ガンを発症します。さらに初潮年齢が早い人や閉経年齢が遅い人も乳ガンの発症率が高いことが報告されています。20歳前後で最初の子どもを産んだ人に比べ、30歳以上が初産の人も乳ガンになりやすいようです。

◆ 大豆製品でイソフラボンを
 日本での乳ガン患者は50年前は50人に1人でしたが、現在は14人に1人となっています。この背景には食生活の欧米化があり、肉類や乳製品などの動物性タンパク質の摂取量の増加に比例しています。大豆や大豆製品に含まれるイソフラボンの化学構造は女性ホルモン様作用を示すので乳ガンを予防します。イソフラボンは他にインスリン分泌の効果を高め、脳梗塞や心筋梗塞を抑制するほか、骨からのカルシウム流出を少なくするなどの効果が知られています。日本人はイソフラボンの90%以上を大豆や納豆などから摂取します。男性は乳製品の摂取が多いと前立腺ガンになりやすくなります。日本では女性5万人以上の大規模調査により、閉経後に週3回以上の適度な運動習慣がある人は大腸ガンの発症率が30%以下に低下したとの報告が示されました。また、夜中に起きて昼間に寝ることによる睡眠不足は乳ガンの発症率を高めます。つまり、不規則な生活習慣は乳ガンを発症させやすく、肥満にもなりやすいということです。
 日本人の乳ガンは若い世代に多いのが特徴です。早期の検診受診と規則正しい生活、適度な運動習慣を心がけ、乳ガンから身を守りましょう。


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VOL.239『日本人と欧米人は体質が違う』 [体]

◆ 異なる遺伝子、異なる環境
 ヒトのカラダは37兆個ほどの細胞からなり、個々の細胞には遺伝子が存在し、遺伝子によって体質が決まります。遺伝子は基本的に一生変わらない部分(ジェネティクス)と、生活習慣やストレスなどの環境要因によって変わる部分(エピジェネティクス)が絡み合っています。
 日本人と欧米人では基本的には変わりませんが、それぞれ異なる遺伝子を受け継ぎ、異なる環境で進化しました。日本は島国なので、日本人は外国からの侵入を受けずに農耕民族として生きてきました。一方、欧米人は狩猟民族で、陸続きの異民族との戦いの中で生きてきました。そのため髪や肌・瞳の色などの外見はもとより、筋肉や脂肪の量や質、体温、消化吸収、アルコールの分解能力、インスリンの分泌量、腸内細菌のバランスなど、さまざまな点で違いがあります。そして体質の違いにより病気になる割合や発症の仕方も違います。

◆ 筋肉も違う
 近年、ヒト遺伝子の解明によってゲノム解析技術が急速に進歩しました。2003年には欧米人の遺伝子を使用してヒトの全遺伝子が解明され、日本人の遺伝子配列は2016年に明らかにされ、日本人と欧米人の体質の違いが明らかになりました。例えば、筋肉には赤筋と白筋の2種類があり、白筋の割合はアフリカ人が70%、欧米人は50〜60%で日本人は30%以下です。一般に筋トレで鍛えるのは白金です。日本人は白筋の合成に関する遺伝子に変異があり、白筋が作りにくいので赤筋が発達しました。筋肉が増えると基礎代謝は上がります。基礎代謝とは安静にしていても消費する必要最低限のエネルギーです。日本人は筋肉が簡単にはつきにくいので、運動で筋肉をつけようとすると少ない白筋を集中的に鍛えることになり、効率が良くありません。つまり、筋トレだけで基礎代謝を高めることが難しいのです。
 欧米では、地中海沿岸地域の人々が心臓病による死亡率が低いことから、オリーブ油に動脈硬化を抑制する効果があるとされています。オリーブ油にはコレステロールの合成を抑える不飽和脂肪酸が多く含まれていますが、悪玉コレステロールや中性脂肪を減らす効果はありません。これはゴマ油や大豆油・コーン油・アマニ油なども同様です。日本人は欧米人に比べて白筋が少ないため内臓脂肪がつきやすく、脂肪を過剰に摂取すると血糖値や血圧が上昇し、動脈硬化が進んで心臓病が増えます。つまり、欧米人には効果があっても日本人にはありません。ですから、摂り過ぎに気をつけましょう。オリーブ油にはオレイン酸が豊富に含まれていますが、オレイン酸は肝臓で合成できるので意識して摂取する必要はありません。

◆ 健康維持の方法も違う
 骨粗鬆症の発症率では日本人が欧米人の50%以下です。骨粗鬆症は遺伝的要因が大きく、カルシウムやビタミンD・女性ホルモン(エストロゲン)の作用、骨基質の減少、動脈硬化に関連する遺伝子によって発症します。この遺伝子に変異が起こると骨粗鬆症の発症率が上昇します。日本人は海藻や緑黄色野菜、大豆、魚介類からカルシウムを摂ってきました。これらの食品に含まれるイソフラボン成分が骨のカルシウムの流出を抑え、骨粗鬆症の発症率を低くしています。一方、遺伝的に乳糖不耐性が多いので、赤ちゃんの頃はラクターゼ分解酵素で母乳を消化できますが、成長すると分解できなくなって70〜90%が乳糖不耐性となります。欧米人では10%以下です。ですから、日本人はカルシウムを摂るために乳製品にこだわる必要はないのです。
 また、フランス人は狭心症や心筋梗塞などの心臓病の発症が欧米諸国で最も少ないのですが、それは赤ワインに含まれるポリフェノールが悪玉コレステロールの酸化を防ぐためだと言われています。その代わり肝臓ガンの発症率は日本人の3〜5倍です。日本人は心臓病が世界一少ないので赤ワインを飲み過ぎる必要もありません。
 以上のように日本人と欧米人では体質の違いから、病気の発症率も異なります。日本人には日本人に適した健康維持の方法があることを知りましょう。

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