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VOL.294『自分の免疫力の状態を知ろう』 [体]

◆免疫力は3歳までに決まる
 人間の身体は3歳までに完成した組成を基に免疫力が構築され、風邪をひきやすいとか、アレルギーになりやすい、ガンになりやすいなどの体質が決まります。そしてこれはその後にどのような生活を送っても変えることができません。しかし、腸内細菌の組成(善玉菌・悪玉菌・日和見菌のバランス)は3歳以降も生活環境や食事内容によって変わります。特に薬剤や清潔志向で身の周りの常在菌(病原菌とは異なる)を排除する生活を続けていると、腸内細菌の善玉菌は増殖力を失って数量も種類も減ってしまいます。

◆腸内細菌にはほとんどの免疫機能が存在する
 人間は母親の胎内ではほぼ無菌の状態で存在し、産道を通る時に膣内に存在する細菌が新生児に吸い込まれ、外界に出た直後に母の持つ常在菌が新生児に受け継がれます。新生児はこれらの細菌によって免疫力が形成されます。ところが新生児はどんな常在菌でも受け入れるわけではありません。免疫機能によって強い選択性を受け、選ばれた細菌だけがその個体を形成するのです。
 腸内細菌の組成を決めているのが個人の抗体です。抗体(免疫抗体)は外部からの異物や病原体を排除し、個体を守る武器として働きます。同時に腸内細菌の種類を選ぶ働きもしているので、腸内細菌には個体のほとんどの免疫機能が存在するのです。生後3歳までに腸内に侵入してきた細菌の中で、どの細菌を腸内に住まわせ、どの細菌を排除するのかは個体のIgA抗体が決めています。このIgA抗体は母親の母乳、特に出産から数日間に出る初乳中に大量に含まれています。そのため昔から初乳を飲ませることが免疫抵抗力を維持するのに必要とされています。
 ではIgA抗体は何を基準に細菌を選択するのでしょう?これは明確ではありませんが、IgA抗体の免疫力が強くないと新生児は生まれず、生後の発育にも影響があります。新生児の成長には栄養素の吸収が必要です。小腸の繊毛と呼ばれる粘液細胞には細かな突起が多数あり、分解された栄養素(水・糖・アミノ酸・ビタミン・ミネラル成分など)の専用の入り口があります。栄養素の吸収はトランスポーターによって厳密にコントロールされており、体内で必要とされない栄養素や異物は糞便として排出されるため、小腸粘膜細胞の選別機能は神の手と呼ばれます。
 体内に取り込まれた食品は大きなタンパク質のままでは吸収されず、アミノ酸に分解され最小成分になって小腸から吸収されます。しかし、食品中のタンパク質がそのまま小腸から吸収される場合があります。この時、体内の免疫機能はこれを異物と認識し、T細胞やB細胞などの免疫細胞がこのタンパク質を攻撃排除します。これが炎症反応です。食物アレルギーの人は免疫抗体が働いてアナフィラキシーショックを起こし、血圧が急激に低下し、意識が喪失して死に至ることもあります。

◆免疫細胞とウイルスの闘いの場所が炎症となる
 アレルギーはタンパク質が小腸粘膜細胞から吸収されて発症します。このアレルギーを起こすのがIgE抗体です。IgE抗体はヒスタミンと呼ばれる化学物質を短時間のうちに放出し、激しい症状を示します。この典型例が花粉症です。日常的に食べる加工食品や和菓子などでアレルギーになる、これはIgG抗体によります。IgG抗体はIgE抗体よりも分子量が小さいので発症までに数時間から数日かかります。免疫機能が働くと外敵との闘いの場所が炎症となります。例えば風邪をひいて発熱し、喉の腫れや痛みが起き、咳や鼻水・関節痛が生じる時、免疫細胞はウイルスと闘って炎症を起こします。
 新型コロナウイルスに感染すると症状が出て肺炎になります。しかし、免疫力が高い人や若者は無症状のままで気づかずに感染源となります。毎日排便の際に自己チェックすると良いでしょう。糞便がしっかりと大きな塊であれば、あなたの免疫機能は正常に働き健康体であると言えます。糞便の色や形に変化があり、軟便や下痢の場合には無症状であっても何らかのウイルスに感染していることが考えられるので、ウイルス検査を受けましょう。

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VOL.289『胃腸が元気なら健康が維持される』 [体]

◆日本人の腸は長い?
 2014年の厚生労働省の調査によれば、消化管の病気は1000万件を超えました。腹も身の内という言葉があります。お腹も体の一部なので大事にしなさいという意味ですが、消化管の病気は自然に治ることがよくあるため、食べ過ぎだからと少しの間食べずにいたり、市販の消化薬を飲めば治るなどと軽く考えられてきました。
 古代人もお腹(消化管)の病気には苦労したようで重要な臓器と考えられていました。消化管といえば、昔から日本人は欧米人よりも腸が長いと言われています。足が短く、胴が長いのは腸が長いためです。欧米人は主に肉食で、日本人は草食であるため食物繊維の多い食品を消化するため腸が長くなったと思われます。長い進化の過程では古代日本人も肉食でした。その後、植物や海藻を食べる能力を手に入れたのです。
 日本人の腸が欧米人よりも長いと言われる理由は、欧米人が肉食中心で日本人が穀物中心の食生活だったからですが、近年の調査では日本人とアメリカ人(白人)の腸の長さはほぼ同じであることが分かりました。

◆消化管の中心を担う胃と腸
 消化管である胃は胃袋と呼ばれ、食べたものを胃袋の筋肉で強く混ぜ合わせます。胃の大きさには個人差がありません。食べる量が少ないと胃が小さくなると言いますが、胃の大きさは変わらないのです。食べ物は胃・小腸・大腸を平均1〜1.5日で通過します。食べた物は胃の中に3〜5時間とどまります。胃の形は人種によって異なり、日本人は食物繊維を豊富に含む穀物を主食としてきたので、消化を助けるため胃の筋肉を使って細かく砕くのに適した形になっています。欧米人は肉食が中心なので胃は牛角胃という形をしており、大量の胃酸で食べ物を溶かし速やかに小腸に送ります。欧米人の胃酸の分泌量は日本人の2倍以上だといいます。胃には胃酸(pH1~3)が溜まっていて、食べた物に付着した微生物(病原体)は生きられません。喉に侵入した新型コロナウイルスでも頻繁に水を飲み、胃へと流し込むことで感染を予防することができます。
 胃酸を強力に中和するのが膵臓の消化酵素(膵液)です。膵液はアルカリ性なので小腸と大腸を守っています。また膵液は脂肪を分解します。脂肪は通常3〜4時間で小腸を通過しますが、脂肪分の多い食品では10時間以上かかることもあります。日本人は脂肪の消化酵素が欧米人の50%以下と少ないのでさらに時間がかかります。
 喉元過ぎれば熱さを忘れるという諺がありますが、熱い茶粥を食べる地域では食道ガン、唐辛子を大量に摂取すると胃ガン、脂肪分を多く摂る人は大腸ガンの発症リスクが高くなります。食べ過ぎによる脂肪肝は、飲み過ぎによる脂肪肝よりも肝臓ガンになる割合が高くなります。肥満で内臓脂肪が増えると、脂肪肝・便秘・逆流性食道炎・大腸ガン・肝臓ガン・膵臓ガンを発症する危険性が高まります。乳ガンは思春期までに肉類や脂肪分の多い食事をしていると発生頻度が高まります。大腸ガン・胃ガン・肺ガンは運動不足の影響を受けやすいことも分かっています。

◆腸内細菌を活性化する食物繊維
 大腸内に生息する腸内細菌は食物繊維を餌としているので、食物繊維を多く摂れば悪玉菌が減少して善玉菌が増えます。さらに食物繊維は乳酸菌よりもビフィズス菌の増殖に役立ち、免疫力を高めます。乳酸菌や乳製品は腸内細菌を増やし、バランスを改善するといいますが、増えるのは腸内細菌全体の0.004%以下です。
 体内は活性酸素で酸性化が進み、これを抗酸化物質で還元しています。その役割の中心を担うのが水素です。水素は腸内細菌の活動によって発生します。乳酸菌の摂取よりも食物繊維を摂ることによって腸内細菌は水素を発生してくれるので、活性酸素による酸性化を還元します。弱アルカリ性の水を飲み、食物繊維を多く摂ることは免疫力を高めます。

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VOL.284『カラダを守る苦味成分』 [体]

◆苦味受容体(T2R)
 舌にある味蕾は食べ物の苦味・甘味・塩味・酸味・うま味の5つの味を感じます。そして消化器系の門番として口から入った食べ物に関するすべての情報を脳に提供し、脳が飲み込んでも良いものか否かの判断をします。
 味蕾を形成する細胞には味覚受容体が存在しており、その中の苦味受容体がアルカロイドと呼ばれる植物性由来の毒性化学物質を検知します。苦味は毒物である可能性が高いので「苦い」と表現すると脳が不快であると感じます。苦味受容体は害を及ぼす可能性がある化学物質の存在を知らせるために進化してきました。有害物質の検知は生存に不可欠であることから、苦味受容体(T2R)は25種類もあります。これに対し、甘味・塩味・酸味・うま味を感じる受容体は各々1種類ずつしかありません。

◆T2Rの働き
 2009年、アメリカ・アイオワ大学の研究者が肺の内面を覆う上皮細胞にT2Rが存在することを発見しました。肺に吸い込まれた病原体や刺激物質は上皮細胞の粘液で捕らえられ、細胞表面の線毛が1秒間に8〜15回動いて喉に向かって押し戻されます。戻された刺激物質は体外に吐き出されます。この時、T2Rが苦味物質によって刺激されると肺上皮細胞の線毛運動が激しくなることが分かっています。さらに、コロラド大学の医療研究チームは鼻腔内で刺激物質に反応する特殊な細胞表面で苦味受容体が活発に働くことを見つけました。ヒトでは鼻や副鼻腔の内面の線毛に数種類のT2Rタンパク質があります。舌上の味蕾には2つのタイプのT2Rが存在します。
 白色人種では特定の苦味物質を全く感じない味盲者が30%おり、非常に苦いと感じる超味覚者が20%います。この2つの違いは遺伝子の塩基配列を解読して分かりました。一般的にT2Rの味覚検査に使われるフェニルチオ尿素(PTC)を細胞表面に滴下すると超味覚者は大量の一酸化窒素を作るのですが、味盲者は何も生産しません。この実験結果から苦味受容体(T2R)と免疫に関連性があることが分かったのです。 一酸化窒素が気道の細胞を刺激して線毛運動を活発にすることで侵入した病原体を直接殺します。一酸化窒素は気体なので気道の上皮細胞から粘液中に速やかに拡散します。そして病原体内に入ると膜酵素やDNAに損傷を与えます。通常副鼻腔は常に大量の一酸化窒素を作り出しています。それが気道中に拡散して病原体への感染を防いでいます。つまり、T2Rが舌と鼻腔で病原体の侵入を防いでいるのです。
 舌や鼻腔のT2R苦味受容体が刺激されると、細胞は周囲の細胞にシグナルを送り、ディフェンシンと呼ばれる抗菌タンパク質を気道の粘膜中に放出させます。ディフェンシンは緑膿菌やメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)などの病原体を殺します。しかし甘味受容体が刺激されると苦味受容体の活動を遮断します。これは不適切な時にディフェンシンを放出し過ぎるのを防ぐためです。

◆苦味成分で感染予防
 早期警戒タンパク質としてはToll様受容体が知られていますが、Toll様受容体もT2Rと同様に病原体が作り出した特定の分子に刺激されて免疫反応を活性化します。Toll様受容体が数秒から数分以内に反応すると、それを受けて苦味受容体は一種の臨戦態勢となり、即座に反応を起こすので感染初期には最も重要な防御機構であると言えます。2014年には尿路系の泌尿器でもT2R苦味受容体が最も重要な防御機構であることが分かりました。T2Rを使って膀胱を刺激し、排尿を促すことで膀胱の感染症を防げます。
 感染症の新薬として使われるのはまだ先になりそうですが、毎日食べたり飲んだりする食べ物に含まれる苦味物質の研究が急速に進んでいます。現在、新型肺炎C型コロナウイルス感染症が猛威を振るい、感染者や死亡者が増えています。発症していなくてもウイルスを持っている可能性があり、本人が気づかないうちに感染を広げているかもしれません。自衛するしか方法はありません。苦味成分を多く含む食品を摂って感染防御力を高めましょう。

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VOL.283『低濃度の化学物質が疾患を引き起こす』 [体]

◆アレルギー性疾患
 体内には、神経系・内分泌系・免疫系の高次機能による恒常性の維持があり、神経細胞からは神経伝達物質、内分泌系ではホルモン、免疫細胞からはサイトカインが分泌されて生体の恒常性が維持されています。これらが分泌異常を起こすと安定状態が失われ、さまざまな症状が起こります。例えば、神経伝達物質のドーパミンが不足するとパーキンソン病を発症し、甲状腺ホルモンが過剰に分泌されればバセドウ病、サイトカインの過剰分泌では自己免疫疾患が起きます。これらはごく低用量の化学物質によって恒常性の維持が撹乱されて起こります。
 中でも最大の疾患がアレルギーです。アレルギー性疾患は増加傾向で、先進国や大都市を中心に増えています。かつて乳幼児に発症したアトピー性皮膚炎は大人になれば完治しましたが、今では治らないまま大人になり、アレルギー性鼻炎や気管支喘息を誘発しています。アレルギーは一度発症すると完治することはなく、肉体的にも精神的にも苦痛な上に経済的にも負担となります。この20年間で急増しているアレルギー性疾患には、遺伝要因と環境要因があります。
 化学物質とアレルギーの関係を調べるためにダニアレルギーを接種したマウスにプラスチック製品に含まれるフタル酸ジエチルヘキシルを投与したところ、アトピー性皮膚炎が増加しました。シックハウス症候群の症例ではホルムアルデヒドによって皮膚粘膜症状の悪化や頭痛、倦怠感の症状が出る報告があります。

◆免疫異常
 通常、カラダは病原体などの異物が侵入しても、T細胞の細胞性免疫やB細胞の液性免疫が異物を排除します。ところが、何らかの原因によって免疫系に異常をきたすと、カラダには害を与えない物質に対しても有害な物質として過剰に反応し、自分自身(自己)を攻撃してしまい、それをきっかけに常に反応するようになってしまいます。これがアレルギー反応です。本来カラダを守るはずの免疫機能によって、くしゃみや蕁麻疹、結膜炎、喘息などの症状が起こります。重篤な場合にはアナフィラキシーショックを起こし、死に至る場合もあります。一度免疫系が撹乱すると、体内の炎症反応は連鎖的に拡大し、症状は沈静化しません。
 このような状態に対し、カラダには免疫の暴走を制御するさまざまな仕組みが存在します。ヒトは恒常性を維持するために体温や血圧、血糖値など体内の環境を常に正常範囲内で一定に保とうとします。特に腸管は最大の免疫臓器で、免疫細胞の60%が存在しています。しかし、腸管粘膜は口や肛門を通して外界に通じていますので、皮膚と同様に病原体や化学物質に常にさらされています。そこで細胞間の接着が何らかの原因で緩んでしまうと、アレルギー物質の通過や侵入を許してしまいます。その結果、粘膜内に存在する免疫細胞が活性化されてアレルギーを誘発します。環境汚染物質がタンパク質と反応することでアレルギー反応が起きるのです。免疫細胞はT細胞から分泌されるサイトカインの量の多さで免疫反応が活性化するかどうかを判断します。

◆化学物質を減らす努力を
 低濃度のダイオキシン類(化学物質)の作用による肝臓の解毒酵素シトクロームP450の活性化と細胞バリア機能の破壊の関連性を調べた結果、細胞バリア機能の破壊が見られました。低濃度の環境汚染物質によって恒常性が撹乱され、健康が害されます。特に、胎児や乳幼児への影響が大きいため、日本では食品中のダイオキシン類を2009年までに30%減少、2010年からは母乳中のダイオキシン類の減少を推進しています。しかし、発展途上国では高濃度汚染が続いています。
 健康維持のためには低濃度化学物質や環境中の多種多様な化学物質の相互作用による免疫機能への影響を考慮する必要があります。食品中の動物性タンパク質や脂肪の中にも低濃度汚染が進んでいるのが現状です。化学物質が人体に与えるリスクについて常日頃から情報に関心を持ち、自分に必要なことは何か考え、減らす努力をしましょう。

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VOL.271『ケトン体エンジンを増やして使おう』 [体]

◆人類の脳が発達した理由
 多くの生物の中で、脳が発達して進化することができたのは人類だけです。人類の脳が進化して大型化したのには糖質(炭水化物)と、脂肪酸(脂質)から合成されるケトン体が関与しており、これらの存在がなければ脳はこれほど大きく進化することはできませんでした。胎児や新生児はケトン体をエネルギーとして発達し、その取り込みスピードは成人の4〜5倍です。そのため脂質は脳の45〜50%を構成し、神経細胞膜の構成成分となります。脳でのコレステロールの合成は、脳の発育や発達に大きく影響を与えます。脳内コレステロールは主としてケトン体から供給されます。

◆ケトン体の驚くべき働き
 母乳にはケトン体を生成する短鎖脂肪酸や中鎖脂肪酸が15〜17%含まれているので、新生児の体脂肪には中鎖脂肪酸が多く含まれます。母乳には50%の脂質、10%のタンパク質が含まれ、初乳の数時間は自然免疫である免疫グロブリン(IgG)や、消化されないオリゴ糖が含まれます。オリゴ糖は腸内細菌中の善玉菌を増やして育てる働きをします。腸内細菌の生存や増殖には鉄が必要となるのですが、母乳に含まれるラクトフェリンは鉄と結合しやすいのでこの働きを助けます。また、母乳に含まれる乳糖も善玉菌を育てます。
 エネルギー源にはブドウ糖とケトン体があります。糖質を摂取しているとブドウ糖がエネルギー源となります。糖質は体内でブドウ糖に分解されATP(エネルギー)に変換されます。ブドウ糖は吸収が速く、数分で血液中に入って全身の細胞に供給されます。糖質が極端に供給されないと、カラダは肝臓に蓄えられた余分なグリコーゲン、つまり非常用のブドウ糖をエネルギーとして利用します。ところがこのグリコーゲンは3〜4時間で使い果たされてしまいます。するとカラダは筋肉を構成するタンパク質をアミノ酸に分解してブドウ糖を作り出します。これを糖新生と呼びます。糖新生によって筋肉は痩せ細ります。この時、皮下脂肪が確保されている場合は糖新生に制限がかかります。皮下脂肪などの脂肪組織はリパーゼという酵素によって脂肪酸と脂肪の構成成分であるグリセルロールに分解されます。この緊急用のエネルギー源がケトン体です。ケトン体はアセトン体とも呼ばれ、アセト酢酸、βヒドロ酪酸、アセトンの3つの物質で構成されます。
 肝臓でアセチルCoAに合成されたケトン体は、血液を介して赤血球を除く全身の細胞へと運ばれ、ミトコンドリア内でTCAサイクルに入り、再びアセチルCoAに変換され生命活動に必要なエネルギーを作ります。これがケトン体エンジンです。飽食時代の現代人はほとんどがブドウ糖依存型で、ケトン体はあくまでも緊急用のエネルギー源です。空腹時にお腹がグーグー鳴り始めたら、ケトン体が急激に働き出したことを示します。ケトン体エンジンは脂肪を使うのでブドウ糖の65倍以上のエネルギーを体内に蓄えています。例えば、遭難して断食状態の人が水だけで数10日間も生き延びたという事実は体内に蓄えられた脂肪をケトン体がエネルギー源とした結果です。
 ケトン体には細胞を修復し、正常化させる働きがあるので、ガンを誘発する酵素であるβグルクロニダーゼ活性を低下させ、炎症を抑制する抗ガン作用があります。ですから、ガン細胞はケトン体をエネルギーとして使うことはできないのです。また、活性酸素を除去する働きもあり、ストレスを軽減する働きもあります。

◆健康を維持するには
 人類は、進化の過程で飢餓状態に陥ると長寿遺伝子が活性化することで生き延びてきました。エネルギー源であるミトコンドリアの働きを活性化し、DNAの修復を進める脂肪酸から産生されるケトン体は水溶性で、脳の血液関門(BBB)や細胞膜を通過できます。脳細胞にはケトン体をエネルギーとする機能が備わっています。健康を維持するにはミネラル成分豊富な水を飲むことと、食べる量を減らしてケトン体を増やし、その働きに頼ることです。

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VOL.270『暑さに負けないように良い水を摂ろう』 [体]

◆暑い季節の感染症
 夏になると暑さのせいで水や冷たいものを摂る機会が増えます。しかし、高温多湿の季節は冷蔵庫内の食品が安心であるとは言えません。病原体に汚染された食品や飲み物を口から摂りこむと、それらに付着する病原微生物やその毒素によって消化器内が損傷されて発症する病気が増えます。これを消化器感染症とか経口感染症といいます。そしてこのような感染症を一般的には食中毒といいます。日本の食中毒による死亡者は、年間を通じて1000〜2000人報告されています。高齢者の肺炎による死亡者と比べれば少ない数字ですが、これは死亡診断書からの総数なので実際はもっと多くなります。

◆さまざまな食中毒
 1960年代まで食中毒は原因不明とされていましたが、検査法が進歩した現代では原因不明の食中毒はほとんどありません。以前は食中毒といえば発生時期は暑い季節と相場が決まっていました。この傾向は細菌性の食中毒に限られており、基本的には今も変わっていません。しかし、地球温暖化や冷暖房設備の普及によって寒い季節にも発生するようになったのです。特にカキのおいしい寒冷期にはノロウイルス食中毒が数多く発生することもあり、年間を通して食中毒の発生報告は平均化されてきています。
 サルモネラ菌やカンピロバクターによる食中毒の増加は、食生活の欧米化による肉類やタマゴ類の摂取量が増えたことが原因と考えられます。タマゴによる食中毒はサルモネラ菌の仲間であるエンテリティディス菌によるものが多くを占めています。ニワトリの腸内に生息しているサルモネラ菌が糞便を介して、タマゴの殻の小さなヒビを通りタマゴ内部に入って汚染するのです。サルモネラ菌は低温では増殖しないので予防のためには長期間室温で放置しないことです。早めに調理することが大事ですが、80℃以下で10分間の加熱で殺菌できます。サルモネラ食中毒は下痢、腹痛、嘔吐に発熱を伴います。
 カンピロバクターによる食中毒は5月から10月にかけて多発し、急激に感染が広がるのが特徴です。症状は嘔吐、腹痛、下痢で発熱はしません。重症例は少ないですが、1000人中に1人の割合で難治性の自己免疫疾患であるギランバレー症候群を発症します。カンピロバクター食中毒を起こした後に抗体が形成され、末梢神経にある糖脂質と結合して神経伝達を阻害します。その結果、歩行困難となる難病です。大部分のカンピロバクター食中毒は生や生焼けの鶏肉を食べることが原因で発症します。ニワトリの羽を除去する時、ぬるま湯に漬け、羽をむしりやすくして処理します。この状態を専門家は仲間同士でドブ漬けと呼びます。名前の由来はニワトリの糞便で汚染されたぬるま湯がドブ色になることです。カンピロバクターは健康なニワトリの腸内に多量に存在するので、ドブ漬けの間に鶏肉の表面が汚染されるのです。近年は地鶏の生肉を刺身として提供する飲食店が増えていますが、生の鶏肉や生レバーは食べない方が安全です。また、鶏肉を処理した包丁やまな板で生野菜を調理するのも避けましょう。

◆水分摂取は必須です
 人間の皮膚には1兆個以上の細菌が生息しています。代表的な表皮ブドウ球菌は弱酸を産生して皮膚の表面を弱酸性に保ち、外部からの病原体の侵入を阻止しています。また、腸内には100兆個もの腸内細菌が生息しています。そのため人間は共生する細菌やウイルス、カビなどとの複合生物であるともいえます。ヒトのカラダはこのような微生物によって守られているのです。ですから、抗菌薬の乱用や消毒薬などの過度の使用は避け、それらの共生微生物と協調して生きていかなければなりません。
 暑いと体力は急激に低下し、体表面の微生物も減少するため、外部からの病原体の侵入が増すのです。これが体調の悪化です。事実、疲れを感じている時に食中毒は発症します。暑い日にはできるだけたくさんの水分を摂取しましょう。まずカラダの脱水状態を防がなくてはなりません。ヒトは体表面から汗をかいて体温を調節します。汗をかくことは体内の水分が奪われるとともに体表面に生息する微生物も減少するので病原体が侵入しやすくなります。それを防ぐのが弱アルカリ性の水の摂取です。良い水をたっぷり飲んでミネラルを補給し、夏を元気に乗り切りましょう。

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VOL.265『肥満防止のダイエットについて』 [体]

◆肥満とは
 肥満と痩せの区別はあくまでも見た目でしかないという考え方があります。標準体重というものがありますが、これは理想体重とは違います。標準体重も理想体重も便宜的に定義されたものでしかありません。若い人が考える理想体重はいわゆる痩せのことで、肥満は脂肪分の占める割合が多い場合です。例えば、80kgの体重であってもスポーツ選手のように筋肉が占める割合が多ければ体重が重くても肥満とは言いません。

◆肥満遺伝子
 多くの人は標準体重よりも痩せ型になるためにダイエットをします。その結果、生理的にホルモン異常を起こす場合があります。食べる量を減らせば痩せると思うことが間違いなのです。肥満には大抵遺伝子が関与しているので、痩せ型の人は食べても太りません。学校保健調査では5〜17歳までのほとんどの年代で、女子の体重はこの50年間、前年を下回っています。ダイエットが低年齢化しているのです。
 最近の研究では脳が体重維持に影響していることが分かっています。脳内の視床下部という部分には満腹中枢があり、それ以上食べないように指令を出しています。逆に摂食中枢もあります。この両者のバランスで食べる行為がコントロールされています。食事を制限して食べる量を減らせば、脳がコントロールして消費を減らしてしまうため、少ないカロリーでも体重が維持されます。反対に食事の量が増えればエネルギー消費も増えて同じ体重が維持されます。
 人は各々違うので体型にも差が出ます。肥満体の人は体重が一気に増えると減量してもなかなか元には戻せません。そしてダイエットをしても数ヶ月後にはまた元の体重に戻ってしまいます。せっかくダイエットしても脳が食事が摂れない緊急事態と判断してエネルギー消費を減らしてしまうからです。
 また、太っている親の子供は太る確率が高くなります。これは食生活が同じで、なおかつ親からの肥満遺伝子を受け継いでいるためです。肥満遺伝子は塩基配列105番目のアミノ酸であるアルギニンがタンパク質への翻訳終了時に正常なタンパク質とならずに異常となったもので、1個の遺伝子の塩基配列が違ってしまっただけで肥満になるのです。この肥満遺伝子産物をレプチンといいます。レプチンは痩せるという意味のギリシャ語に由来しており、食欲を抑制して消費エネルギーを増加させます。これは飢餓など緊急事態に備えてエネルギーを脂肪に溜め込む働きをします。脂肪細胞にだけ作用し、筋肉には影響しません。そしてレプチンは脂肪組織だけでなく、胎盤や胃壁からも作られます。つまり、食事をすれば胃壁からレプチンが分泌され、食欲を抑える働きをするのです。

◆時間をかけてゆっくりやろう
 肥満の人の多くはカロリー制限をします。しかし、カロリー制限食は満足感がないので長続きしない上に、期間限定のダイエットとなるので期間が終了すると必ずリバウンドが待っています。さらに一時的にカロリーを制限すると筋肉量が落ちて基礎代謝が下がります。基礎代謝とは体温や呼吸、内臓機能などのために心身ともに安静にしている時でも生命維持活動のために消費される必要最低限のエネルギー代謝のことで、1日の消費カロリーの60%を占めています。一方、筋肉は動かさなくても体温を保つために熱を発散します。カロリー制限食で筋肉が落ちると基礎代謝も消費カロリー量も低下してしまうのです。
 基本的に、体重と体脂肪率は食事からの摂取カロリーと活動による消費カロリーのバランスで決まります。摂取カロリーの方が多ければ当然太ります。筋肉タンパク質が消費されると基礎代謝が下がります。肥満は長期間の生活習慣で対応しなければなりません。人の体で最優先されるのは死に至る生命活動から守ることです。基礎代謝や体重はその次となります。無理なダイエットはホルモンバランスを破綻させ体の不調を招きます。骨の形成に影響も与えるため体が維持できず骨折しやすくもなります。ダイエットは体重のコントロールが大切です。正しい知識とやり方で長期間かけて行いましょう。

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VOL.264「音読が脳の発達に役立つ」 [体]

◆読むことは脳を活性化する
 意味不明な文章を聞いたり読んだりする場合、脳は意味のわかる文章を読んでいる時よりも強く反応し、特に右脳の頭頂葉では反応が強く働きます。また、わかる、わからないに関係なく、文章を読むという行為は左脳も右脳も活性化させます。
 これを日本人は昔から寺子屋などで自然と活用していました。イロハ歌やイロハ歌留多に始まり、その後、漢文の素読が主眼となります。素読とは文章の意味や理解を後回しにしてひたすら朗読することです。漢文は日本語とは異なり凝縮された文章なので、直ちに理解できなくても徐々に言葉の力が浸透して時期が来ると子供たちは自然に意味がわかるようになります。当時の子供たちの脳の活性化は大したものでした。これはお寺のお坊さんが経読みをする行為と似ています。実際理解できないお経を読み続けると徐々に中身の意味が理解できてきます。

◆日本語の進化
 詩吟や漢文は語順がひっくり返ることから、反読と呼びます。読経の際には音読の方が簡潔でリズミカルですが、仏典としての意味や内容を把握するためには訓読へと移行していき、江戸時代の寺子屋では訓読が主流となりました。原文をそのまま読むのではなく、返り点をつけて読み下した方が読みやすいので、明治以降はこの方法が用いられるようになりました。
 一方、漢文の影響を受け入れた周辺国では日本語のように訓読みをすることはありませんでした。日本人は漢字をそのまま受け入れたのではなく、そこに日本語の意味を上乗せしました。さらに漢字を連ねた熟語には漢文の文法構造をそのまま反映させて日本語独自の読み方に変え、日本語としての意味を通じやすくしました。こうして日本語は漢文とは異なる独自の進化を遂げたのです。日本人は漢文を見れば読めなくても意味が推測でき、訓読みの長い伝統によって、漢語の意味に対して勘を働かせることができるようになったのです。そして日本人は漢字の音読みと訓読みを交えた和漢混合の文を確立し、日常的に二重言語を使い
こなしてきました。
 本居宣長は古事記や万葉集には日本語としての文章の骨格がないと言いました。漢文は形式が決まっていて論理的なので、それを日本語に取り入れて日本語が論理的になり、明治時代に西洋の言語が入ってきた時も日本語に訳して読みこなすことが速くできるようになりました。おかげで明治維新後、日本は欧米諸国の文化・文明を素早く取り入れて発展することができました。

◆子供には音読を
 子供の頃は音読をしますが、それが黙読に移行する時期は人によって異なります。声としては出さなくても気持ちの上で唇に音を意識しながら朗読するように速めに読むことがあります。これは心の中で声を出して文章を読んでいると言えます。これを繰り返すことで両側の前頭葉が活性化します。この読み方は文章を目で追うだけの黙読とは大きく異なります。小・中学生の読書を指導する先生は読書のスピードを上げるために黙読を勧めます。ところが、黙読を速めるよりも音読をする期間を長くする方が脳の活性には良いのです。
 子供は音読を減らし黙読を増やすと、余った時間でマンガを読んだり、スマホをする時間が増えます。黙読の方が楽なのです。目に入った情報は直ちに後頭葉視覚野から側頭葉に送られ処理されます。その後、頭頂葉小葉に送られて意味が理解されます。音読の場合、音の言葉と文字の言葉の双方を用いるために高度な活動となり、脳の活性化が進みます。黙読よりも音読の方が脳が働く領域が広く、活性化するのです。漢字も英語も音読することで左脳の側頭葉で認識されるので記憶されます。目に入るマンガやスマホ、ゲームなどは一時的に脳が反応します。最近、子供がパソコンを使ってゲームソフトを作成することを自慢のように話す親がいますが、子供の脳の発達には効果がなく、逆に脳を傷害させてしまうこともあるので注意が必要です。基本的に子供の時期には声を出して日本語や英語の教科書を読むことで脳は前頭葉や側頭葉を含めて活性化が進み、記憶力を高めることができます。江戸時代の寺子屋がその良き手本なのです。

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VOL.262『幸福ホルモン「オキシトシン」』 [体]

◆オキシトシンとは
 ストレス社会の今日、幸福ホルモンとして注目されているのがオキシトシンです。オキシトシンは哺乳類だけが持っているホルモンで、分泌されると心が癒され、幸せな気分になる効果があります。
 オキシトシンは40年以上前から女性に分泌されるホルモンとして2つの役割があることが分かっていました。1つは出産する際に子宮を収縮させ分娩を促す作用で、陣痛を促進するための点滴薬として使われます。もう一つは出産後母乳を分泌する作用で、乳児が母親の乳首を吸うとそれが誘引刺激となって、オキシトシンが分泌され、母乳の合成と分泌が進みます。ですからオキシトシンは母親が出産後に新生児を育てることに直結したホルモンとして知られていました。
 しかし、ここ10年ほどでオキシトシンの研究が飛躍的に進み、母親だけに分泌するホルモンではなく、母性愛にも関係することや、信頼、男女の愛情にも関係して分泌されることが分かりオキシトシンの更なる役割が明確になりました。人に対する親近感や信頼感が増し、ストレスが消えて幸福感が得られるほか、血圧の上昇を抑えたり、心臓機能を活性化するなど長寿に関連する作用も明らかになってきています。

◆自分最優先ではなくなる
 基本的には誰でも自分が一番大切なものです。美味しいものを食べたいとか、欲しいものを手に入れたいとか…自分の欲求や目的が最優先となります。その時、脳内ではドーパミンが働きます。ところが母親になるとドーパミンよりもオキシトシンの方が優位となり自分が第一ではなくなります。これは動物実験でも明らかで、オキシトシンが分泌されるラットは子供のために恐怖に立ち向かい、危険を冒しても行動します。ヒトの母親も同様で、子供のために自分の命を危険にさらしても自己犠牲的な行動をとります。
 オキシトシンの分泌は脳の扁桃体に変化を与えます。扁桃体の働きは好き嫌いや不安、恐怖などを発現することです。ところがオキシトシンが分泌されると扁桃体は正常に機能しなくなり、不安や恐怖を感じなくなって不快感がなくなります。母乳が出ない母親でも、子供を抱いて人工ミルクを与え、スキンシップをしているとオキシトシンが分泌されてきます。逆に母乳が出るのに母乳を与えず、スキンシップを行わない母親ではオキシトシンが分泌しなくなります。いかにスキンシップが大切か分かりますね。

◆オキシトシンを分泌させよう
 新生児に授乳を始めると母親のオキシトシン濃度は急激に増加し、授乳が終わる1時間後には普通の濃度に戻ります。通常、新生児は2〜3時間に1回授乳するので、その都度オキシトシン濃度が上がったり下がったりし、それが1日に何回も繰り返されることで、母親の脳に変化が起こり、授乳は1年ほど続くので脳の構造が変わります。母親の脳に変化がするとその状態はしばらく続きます。その後、2人目3人目と産む間に母親の脳は固定されていきます。子供を育てた女性と子供を産まない女性では脳の構造が違ってきます。子供を育てることで母性が育つことが経験的に分かってきています。
 オキシトシンは男女の愛情にも大きく関与します。恋人同士でも夫婦でもオキシトシン分泌の量によって関係が深まります。神経伝達物質であるドーパミンは満足した時に大量に分泌されますが、オキシトシンは人に親切にした時とか、新しいことに挑戦して成功したとか、風景や映画などで感動した時とか、ペットなどと触れ合って可愛いと感じた時などに大量に分泌されます。
 他者との触れ合いによって脳の扁桃体が刺激されることでオキシトシン分泌が起こります。ストレスを感じてイライラしている時などにオキシトシンが分泌するような行動をとればストレスが軽減されます。オキシトシン分泌を心がけて行動すれば、心が癒されて幸せな気分になり、元気に暮らせて老化予防にもつながります。

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VOL.256『腎臓と腸が若さの秘訣』 [体]

◆臓器の老化のスピード
 ヒトは生まれて成長し、成人となり、その後は加齢とともに老化します。しかし、体内の臓器は同じスピードで老化はしません。臓器ごとに老化するスピードは違うのです。俗に老化は血液とともに進むと言われます。酸素は血液によって各臓器に供給され、その血液は心臓がポンプの役割をして1分間に5リットルも送り出しています。それでも心臓自体は全体の5%ほどしか血液を使用していません。では血液を一番使用している臓器は何かと言いますとそれは脳です。ところが老化が最も早いのは脳ではありません。一番早いのは消化管で、次いで腎臓、骨格筋と続きます。

◆腎臓の老化と影響
 マウスの実験から老化の指標となるのは『p16』というタンパク質で、細胞分裂の周期が回るのを止める分子であることが分かりました。一方でp16はガンを抑制するタンパク質であることも分かっています。p16が強く発現すると細胞が増殖しなくなるので老化が進みます。細胞分裂が終了すると細胞は死に至り、これを閉フィリックの限界と呼びます。つまり、ガンと老化は表裏一体だということです。このガンと老化の中間地点にいつまでもいることが一番健康的であると言えます。
 老化のタンパク質p16が発現する臓器は腸と腎臓です。これは腸と腎臓が血液を最も使う臓器であることを示しています。ヒトは血液とともに老いると言われるように、豊富な血管で養われている臓器が老化しやすいのです。食べることと排泄することは死ぬまで毎日続き、それは生きることの基本です。この機能に関わる臓器が最も衰えやすいとも言えます。
 腎臓は慢性腎臓病になると、機能が60%以下となります。老廃物を含んだ血液をろ過する機能は加齢とともに低下します。そのため、70〜80歳になると約半数の人が慢性腎臓病になります。腎臓は血液が運んでくる酸素の不足に敏感で、その結果、老化が急に進みます。腎臓病が進行すると運動能力が急激に低下します。まず、腎臓の老化が始まり、それが脳や心臓など他の臓器を老化させます。

◆腸を健康に保って老化予防
 脳は安静時でも獲得したエネルギーの20%を消費することで進化し、その結果、ヒトは高等動物の頂点に立ちました。そして腸は人類の進化の基盤となりました。腸も大量の血液を消費します。食物の消化・吸収には多量のエネルギーが必要となります。私たちが毎日食べ物を食べる目的は生命を維持するためのエネルギーを獲得することです。ヒトは他の動物に比べて消化管のサイズが小さく、腸の大きさは50〜60%程度しかありません。食事を短時間で終えてしまう現代人は肥満になりました。事実、痩せている人の方が太っている人よりエネルギーを多く消費しています。食物は腸で消化・吸収されエネルギーに変わります。消化・吸収には腸内細菌が関与しており、エネルギー効率を調整しています。腸の疲れは肥満や糖尿病の発症や老化につながります。
 便秘や下痢は腸の老化を示しています。便秘が続くと腸内の悪玉菌が増殖します。ウェルシュ菌や大腸菌などの悪玉菌が食物を分解して肥満や糖尿病・動脈硬化・ガン・アレルギーなどの疾患を引き起こします。ヒトは加齢とともに腸の働きが悪くなり便秘がちになります。その時が若者型の食事から熟年型へと移行するタイミングなのです。具体的には食物繊維や発酵食品、海藻類などのネバネバ食品を多く取るようにすることです。水溶性の食物繊維はゲル状物質になって糖分や胆汁を吸着し、下痢や便秘などの腸の病気を減らします。
 また、過食状態が続くと腸は疲労します。特に脂肪分が多い食事では腸は活発に働き、腸内細菌の菌体内にも脂肪が増えてきます。その脂肪分が過剰になると、腸は外敵が侵入したと錯覚して内臓脂肪を蓄積したり、炎症を起こしてメタボになります。脂肪はリンパ菅から吸収されて内臓脂肪細胞に蓄積し、腸の病気や老化が急激に進行します。
 空腹こそが老化防止の活力の基本で、食べることは人生です。食事の内容があなたの若さを保ちます。腎臓や腸の老化を防ぐには規則正しく適正な食事と適度な運動習慣が大切です。

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